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第五十六話 ダッシャーはキラキラしいです~愛馬たちのマッサージ~

 セオドア王の後ろをついて、渋々顔のシアンさんが馬たちの傍に寄る。


「さぁ、シアン、我々もやろう。この茨の道を命がけで駆けてくれた、愛馬たちのために」



「……こら、暴れるなパドラス。せっかくみなさんが作り出してくれた特製泥湯なのだ、大人しくしなさい」


 几帳面なシアンさんが、衣服の汚れを気にしながらも、愛馬の太い脚の付け根をモミモミと揉み解していく。


(この人やっぱりちょっと潔癖入ってるな。なら余計にこのクレイは丁度いい)


「らんちゃん、お馬さんに『シアンさんに泥を掛けちゃって』って言って」

「はぁい」


 こそっと悪戯を仕掛ける。

 ぴょんぴょんと泥の中を跳ねて、自ら泥はねしながらシアンさんの愛馬『パドラス』に「きゅきゅう」と伝えてくれた。

 話しが伝わったらしく、『パドラス』はニヤリと笑うとわざと泥湯の中に大きく前足を振り下ろした。


 後ろ脚の付け根をほぐしていたシアンさんの顔に『バシャッ!』とクレイを飛ばした。


「っ、この馬は……! 私の性格を知っていてわざとやっているな!?」

「あはははは、顔についても大丈夫ですよ。むしろスベスベになるので、もっとたくさん塗った方が良いですよ」

「あっ! さきほどらん殿が来て、何やら会話してたと思ったら! わざとやらせたんですね?」


 青筋を立てるシアンさんのその横では、セオドア王が愛馬フィデロの首筋に、クレイパックを優しく伸ばしていた。


「いつも私を命がけで守ってくれてありがとうな、フィデロ」


 感謝の心を込めたマッサージと、王の優しい言葉に愛馬『フィデロ』は目を細め、泥の温もりを噛み締めるようにじっと佇んでいた。


 ◇◇


「ハァハァ――。これは、中々に疲れますね」

「ハァ、どうだ? 馬たちのこの嬉しそうな様子を見て、お前は嬉しくはないか?」


「ぶるるるぅしゅぅ」「ふしゅっぶるるる」

「それはこの馬たちの様子を見たら――。こらこら止めなさい」


 馬たちがクレイだらけの体をシアンさんにすりすりさせた。もちろん、セオドア王にもすりすりする。


「気持ちいいの。ありがとって」


 らんちゃんが馬たちの言葉を通訳する。


「いやしかし、泥だらけだな」

「この『クレイ』? ですか、とても滑らかで気持ちが良いですね」

「この国で採れた『特産品』ですよ?」


「どう言うことですか?」

「量は多くはないですが、その質から『高級品』になると思われるので、きっと高く売れますよ?」

「『泥』、が売れるのですか?」


「えぇ、これには僕たちの魔力とか特製の『洗剤』とか、色々混ざり込んでいます。すでに『泥』ではなく商品になる『クレイパック』になってますよ」

「『クレイパック』とは? 何ですか?」


『泥んこマッサージをするだけで、肌を整え、筋肉のコリを芯からほぐす最高級の天然エステ素材で、毎日使っても肌荒れせず、むしろ毛穴の奥の汚れを吸い上げて、ピカピカにする植物由来の優しさを持つ美容製品』


「これなら高級サロンや王侯貴族の間で、金の卵を生む超高額商品になりますよ」

「他国への輸出商品としても価値を生むレベルと?」

「えぇ、もちろんです」


 僕は隣でうっとりと目を細めてリラックスしているフィデロとパドラスを指さして言う。


「洗い流すので見ていてくださいね」


 【電動シャワー(ハイドロスプレー)】のダイヤルを『シャワーモード』に設定したら、レバーを引く。


「シュワァァァッ! シャァァァーーーー」


 心地よい水流が、扇状に広がる。


「じっとしていてね」

「おい!」


 ダッシャーが自分が先だとでも言う様に前に出る。


「はいはい、君が先ね」


 【電動シャワー(ハイドロスプレー)】から柔らかな温水がダッシャーの体を優しく包み込んでいく。


 すると、ダッシャーのキラキラしい体を覆っていた灰緑色の泥パックは、温水を浴びた瞬間にまるで魔法でも掛けた様に「サラサラ」と滑らかに剥がれ落ちた。

 『洗剤』の再付着防止効果のお陰で、その美しい体に一筋の跡すら残さない。首元から胸先、翼へとシャワーを滑らせるたびに、泥のベールの下からは本来の姿が現れていく。


 その体は全ての汚れを毛穴の奥から完全に一掃し、陽の光を浴びて水飛沫と共にキラキラときらめいていた。


「初めて出会った時もキラキラしくて癪だったけど、それを超えて輝いてるね」

「それは嫌味か?」


「ンッヒ! ンヒヒーーン」「ヒャーー! ヒヒーーーン!!」


 フィデロとパドラスは泥を洗われ、美しさと威厳さをさらに増したダッシャーの姿に、目をキラキラと輝かせ、前足をバカバカ叩いて大興奮だ。


「らんちゃんの通訳を通さなくても何を言っているのか分かるな」

「ふん!」


「なんという美しさだ。まるで世界が始まったばかりの様な、一切の穢れもない光を纏っている様だ」

「あぁ、ヤツはあれで神獣だからな。本来持つ光と言うことだろうな」


 シアンさんとセオドア王も、ダッシャーのキラキラした姿に『クレイパック』の効果を実感したらしい。


 異世界の『洗剤』とダッシャーの魔力が宿った温水、『雷導水球ハイドロジェネレータ』がもたらす浄化の力が合わさった結果だろうが。


「思った以上の効果だな」

「我の元々持つ資質が、その奇妙な『洗剤』と合わさっただけのことよ」

「左様でございますね。貴方様はキラキラしいでございますよ」


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