第五十五話 至高の泥パックが出来ました~みんなで泥んこ遊び~
「いやぁ参った参った」
泥まみれのルシアンさんが、子供たちの前に割り込んで【電動シャワー】のお湯を浴びる。
「ママぁママぁ」「あったかの欲しいの」
「我にもその湯を掛けてくれ! お前は邪魔だと言っておろう」
「本当ですよ。子供たちのおもちゃを大人が取り上げないでくださいよ!」
みんなで抗議する。
離れたところから様子を見ていた、セオドア王とシアンさんも「うんうん」言っている。
「いやだがな、俺だってこのドロドロを落としたいのさ」
「何で落とすんですか? 僕たちはドロドロになりたくて遊んでるんですよ?」
「だが、俺はあのヘドロの沼みたいな水路を渡ってきたんだぜ? さすがの俺でも汚れを落としたいと思うのは――あれ?」
「急いで洗い流したいほど臭いですか?」
「いや、思ったよりは臭くないな」
「なら別に急いで洗い流さなくても良いでしょ? 子供たちと遊びの真っ最中なので、ソコどいてくださいね」
「だが、何で臭くなくなったんだ? あの臭いとドロドロした感じが嫌で、商人ギルドの連中なんて、何十年と放置された手つかずの森を歩いてるんだぜ?」
「途中から水路に堆積している物が、白っぽくなってませんでしたか?」
「アンセル様達を追いかけるのに必死で、気にしてなかったが、言われてみればそうかもな」
「それ、僕が撒いた洗剤の効果なんですよ」
「それで最初の方でドロドロが付いた上の方はまだ汚い感じなのか。足はすっかりキレイだもんな」
商人ギルドに近い水路は深かったのだろう。まだ上半身には汚い堆積物がこびりついたままだ。
「水路の途中まで撒いたんですよ。お湯も撒いたので熱くなかったですか?」
「おぉ、確かに温かかったな。すっかり冷えてたからありがてぇって思ったわ」
「じゃあそう言うことで、邪魔しないでくださいね。ダッシャーも混ざるんだよね?」
「仕方がないな。そこまで言うのなら一緒に遊んでやっても良いぞ」
全く素直じゃないんだから。
「何か言ったか?」
「なぁんも。ベルちゃん、らんちゃんお待たせ。続きを始めるよぉ~」
トリガーを引く。
「シュワッ! シャァァァーーーー」
「キャッキャきゅいきゅい、楽しいぃぃ」
「チリリンぽよよん、もっともっとぉ」
「我もだ!」
「俺もって言ってるだろ?」
今度はダイヤルを『ストレートモード』に設定し、手元のレバーを「半分だけ」クイッと引いた。
「ビシュゥゥゥッッ!!」
「うおっ!? 痛い痛い、アンセル様よ! 止めろって」
パチパチと痛烈に弾ける水の勢いに、ルシアンさんは情けなく飛び跳ねた。
「だって洗い流したいんですよね? この方が早く流せますよ」
「痛てててて、分かった、分かったって! もう邪魔はしねぇよ」
「ふん! これ位で音を上げるなんざ、情けないぞ」
ダッシャーが追い打ちを掛ける。さっき邪魔されたのがよっぽど気に入らなかった様だ。
「それに洗い流さなくて良いんですよ。言ったでしょ? 洗剤の効果だって」
「意味が分かんねぇ」
「みんなと同じように泥んこになれば、自然とキレイになるって言ってるんです」
「えぇぇぇぇぇぇぇ」
「嫌なら家に帰るまでそのままなだけですよ」
「君たちお待たせですぅ、続きですよ。待て待てぇ~」
今度はダイヤルを『ミストモード』に設定し、レバーを引いた。
水路の中に虹が出る。
「シャワワワァ……。シャアァァァァァ」
空に向かって水を撒く。キラキラと輝く『雷導水球』から供給された魔法水は、ノズルから放たれた瞬間に極上の光の粒子へと姿を変え、太陽の光を浴びて幾重もの眩しい虹の架け橋を空間に描き出していった。
「そう言えば、この太陽の光もダッシャーの魔法なんだよね。相乗効果って感じかな」
「あぁ、美しいな」
「きれぇきれぇ」「あそぼあそぼ」
「そうだね。遊ぼうか」
「「はぁい」」
「ヒヒン」「ヒヒヒン」
「お馬さんたちも一緒に遊ぶのぉ」
「じゃ少し趣向を変えますか」
シャワーモードでお馬さんたちにお湯を掛ける。
「ヒッヒン」「ウヒン」
「みんなでお馬さんを泥んこにしちゃうぞぉ」
「キュキュイ、やるのぉ」「チリーーン、ぷにゅう」
水路に出来た泥湯のクレイをすくって、お馬さんにかける。
ぬりぬりスリスリぬりぬりスリスリ。
「よし、ダッシャー。今度は君の番だよ。はい、ぬりぬり〜」
ダッシャーにもお湯を掛けたら、クレイを両手にたっぷりとすくい上げ、白く輝く体に優しく撫でつける。
「ぬりぬりぃ」「スリスリぃ」
ベルちゃんとらんちゃんもご機嫌にはしゃいで、ダッシャーの脚や背中にクレイを塗り広げる。
「これは本当に上等のクレイパックなんだね。驚くほど滑らかでとっても良い香りだ」
「いや、神獣様に水路の汚泥を塗るなんて、アンセル殿、何てことをしているのですか」
「お前こそ何を言っておる。これは我らの作りし至高の品ぞ」
「セオドア王たちもご一緒にいかがですか? 気持ちいいですよ」
「この、泥、をですか」
「えぇ、この泥にです。至高の泥湯ですよ」
さっきまでの湯浴びで水路の中はユルユルの泥湯になっていた。
「えいっ!」
「ぴしゃん、とぷん」
クレイの中に飛び込む。ベルちゃんとらんちゃんもすぐ隣に飛び込む。
「キュキュイ、チリリーーン」
ベルちゃんは「ぷにゅぷにゅチリン」と体を弾ませたり、転がったりして楽しそうだ。
らんちゃんは耳をパタパタさせ、「トトトトン、タタタタン」と飛び跳ねる。
「羽の間も塗ってくれ」
ダッシャーは体を低くしておねだりをする。
「よし来た! ついでに軽くマッサージもして差し上げましょう」
大きな翼の付け根にたっぷりとクレイを馴染ませ、手のひらの付け根でじんわりと、円を描くように優しく圧を掛ける。
僕たちの作った至高のクレイは、驚くほどに滑らかで、指の動きに合わせじんわりと熱を伝えていく。
「お手伝いするのぁ」「するのぉ」
「じゃあ首の後ろをモミモミしてあげてね」
「「はぁぁい」」
「うむ、これはまたこれまでに感じたことの無い、至高の時間よの」
「上手いっ! 至高のクレイだけに」
(…………)
「パパぁ、お馬さんたちも『しこう』したいって言ってるよ」
「テオよ、そやつたちの日頃の労をねぎらってやるがいい」
「そうだな、一緒に泥んこ遊びとやらをしてみるか」
「ウヒヒィン」「ウヒィン」
「私も、ですか?」
「「当然だ」」
シアンさんはまだ嫌そうだ。でもセオドア王とダッシャーに言われたらやるしかないよね。




