第五十四話 電源と水源を隠します~泥んこ遊びスタート~
見える範囲に洗剤とお湯が撒かれ、また10分置く。後はお楽しみのお遊びタイムだけど、ちょっと気がかりがある。
「セオドア王たちのところに行く前に、ちょっと相談があるんだよ。【これ】どうやれば誤魔化せるかな?」
ダッシャーに【アイテムボックス】からガンノズルの部分だけ出した、漆黒の物体を見せて聞く。
「それは何だ?」
「ふふふ、【これ】はね。楽しいお遊びの道具だよ。でも説明するより見せた方が早いね」
本体をアイテムボックス内に入れたまま、ガンノズルと鮮やかなオレンジ色のホースを取り出す。
「シュルシュル……」
ノズルの先端をカチカチッと回し、ダイヤルを『シャワーモード』に設定したら、手元のレバーを引く。
「シュワァァァッ! シャァァァーーーー」
シャワーを少し強くしたような、肌に当たっても痛くない心地よい水流が、扇状に広がっていく。
「あっ、お湯の温度が下がっちゃう」
慌てて水路に向けたノズルを森へと向ける。
お花屋さんが朝一番に水やりをしている気分だ。
「キュキュゥゥゥイ」「チリリンポーーーン」
子供たちが楽しそうな声をあげている。早く誤魔化す方法を探さないと【これ】が使えない。
「して、何を誤魔化すのだ?」
「だから【これ】だよ。この【電動シャワー】」
「なぜに誤魔化す必要があるのだ?」
「だって電源をアイテムボックスから取ってるし、コードを見られたらマズいでしょ?」
「コードとはアイテムボックスの中に入っているそれか?」
「え?」
空に浮いた状態だったから、ガンノズルとホースの一部しか外に出していない。当然、コンセントはアイテムボックスの中だ。コードも……。
「あれ? ホントだね。あはははは」
「では行くか?」
「待って待って、これ水源も必要なんだ」
「今はどうやったのだ?」
「ホースの先は僕のウォーターボールに繋いであるよ?」
「はぁ――。それではダメなのか?」
「あ、ダメ、じゃない」
何だよ。無意識に解決しちゃってるよ。もぉ……。
(あっ、思いついた!) ポンッと手を打つ。
「そうそう。水はウォーターボールを見せて供給出来るって言えるけど、電源は魔石に繋いだ方が納得してくれない? うんうん、これが『誤魔化』したい相談だよ」
「そうなのか、まぁ良いが。魔石はあるのか?」
「ない、です」
「ダッシャーは持ってない、よね?」
「我が持っていても必要のないものだ。全てギルドに売ってしまったであろう」
「ですよねぇ」
「あっ! これはどう?」
【アイテムボックス】から『水晶』を取り出す。パワーストーンの浄化用で使っていた物で、見た目には大きな魔石とも思える。
「魔石じゃないけど見方によればそう見えない?」
「それとウォーターボールを組み合わせて、それらしく見えれば良い、と言う訳か」
「大正解!」
「でも浮いたままだと落ち着かないから、一旦下に降りようよ」
水路の脇の、森が少し開けたところを指さすと、そこに向けてダッシャーが羽ばたきを一つする。風が刃となり一瞬で広場が出来上がった。
「いや、何で開けたところを指さしたと思ってるの? まぁ良いけどさ」
「早く『へっぽこ水の玉』を出さぬか」
「はぁい、へっぽこ『ウォーターボール』」
アンセルのウォーターボールをダッシャーの黄金の魔力が包み込む。
水晶をその中へと放り込むと、『キィィィン……!』と高純度の光を放ち始めた。
それは純白に輝き、滑らかで瑞々しい光だった。
「ほぉ、『浄化の力』が備わった様だな」
「水晶の浄化の力がそのままパワーアップした感じかな」
完成した『雷導水球』にホースを繋ぎ、そこから電源も取っている体でセオドア王たちには説明することにした。
「少し動かしてみようか」
今度はダイヤルを『ミストモード』に設定し、レバーを引いて噴射。「ふわぁっ」と優しく空間全体を包み込み、小さな虹が出来た。
すると、純白だった水晶は、透き通ったサファイヤの青に変わった。
「稼働してると色が変わるなんて、分かりやすくて良いね」
「あ、まぁな」
(あぁ、偶然ね)
「ぜいたく言うと温水だともっと良いんだよな」
ボソッとつぶやく。僕は冷水シャワーが苦手なんです。
「何をブツブツ言っておる。容易いことだ、何℃が良いのだ?」
「40℃もあれば十分かな」
『雷導水球』に向けて「ふぅ」と息を吹きかけると、魔力の風が包み込む。水が内側からじわりと熱を帯びると、微かな陽炎をまとった。
「できたぞ。40℃だ」
「ありがとう。これで楽しく遊べるよ。さぁセオドア王が待ってるから行こうか」
何だかダッシャーの「やれやれ」って声が聞こえた気がするけど、気のせい気のせい。
気を取り直してダッシャーに跨ると、空を駆けて一瞬でセオドア王たちのところへと着いた。
「あぁ、ダッシャー。待っておったぞ。これはどういうことだ?」
「そうですよ、アンセル殿。これはどうしたことですか?」
そこには火山灰がドロドロに融解し、洗剤の細かい泡と一緒になった、「温泉の泥湯」が水路一面に広がっていた。
「これで正解ですよ」
にやりと笑いながら答える。
「さぁ、始めるよっ!」
ベルちゃんとらんちゃんがスリングから飛び出して、泥の中へとダイブ。スリングをしっかりとアイテムボックスにしまうと、変わりに【電動シャワー】とそこに繋がる『雷導水球』を取り出した。
ダッシャーと相談した通りに、コンセントはそのままアイテムボックスの中に入れたままだ。
何が始まるのかとセオドア王たちはキョトンとしている。
【電動シャワー】を『シャワーモード』に切り替えて、レバーを引く。
『シュワッ! シャァァァーーーー』
泥まみれで飛びはねている、ベルちゃんとらんちゃんに、ガンノズルを向ける。
「ベルちゃん、らんちゃん、行くよぉ~」
「シャシャワワァァァーーーー」
柔らかなお湯のベールが二人を包み込む。
「きゅぃー!」「ぷにゅ!」
「待て待てぇ~。えいえい!」
「キャッキャキュキュゥ」「チリンポーーンパン」
「我も――「おーーい、アンセル様よ。俺も混ぜてくれ」」
ダッシャーが何か言おうとしたら、冒険者ギルドのギルドマスター、ルシアンさんの声が遮った。
水路をガシガシ走って来て、商人ギルドの人たちよりも一足早く着いた様だ。




