第五十三話 ウォーターバルーンの連射です~フルグラとライ麦のクッキー~
ダッシャーに乗ったままセオドア王たちのところへと戻った。
「ファサ」大きな翼を広げて降り立つ。
「今戻りました。さっきまで結界の境界線だったところまで、お湯で漬けて来ました」
「何を漬けた、ですって?」
「先ほど撒いた洗剤ですよ。さぁみんな待てない様なので『おやつタイム』にしましょう」
「ブルルッ」「ヒッヒヒーーン」
(ダッシャーが戻って来て喜んでいるのかな? らんちゃんの通訳は止めておこう)
以前に作ってアイテムボックスに入れてあった『フルグラクッキー』を取り出す。
お馬さんたちにはさっき【スーパーサンタ】で見つけて買っておいた『アルファルファ』を用意した。
スーパーで見かけるアルファルファスプラウトが大きくなって、紫色の花を咲かせたら、刈り取って乾燥させた物らしい。
「これなら食後のおやつにも良いらしいし、みんなが食べてるのに自分はお預けなんて寂しいもんね」
「本当にその通りですよ。アンセル殿!」
シアンさんが根に持っているのか同意してきた。
相手をするとダッシャーがまた何か言いそうだし、でも、後でまたネチネチ言われるのも嫌だ。
ここはお馬さんを優先しておやつタイムにしようかな。
アルファルファの袋を開けると「ふわっ」と緑茶みたいな香りがした。
「うわ、いい匂い……。これ、そのままお茶にして飲めそうだな」
「ンッヒ!」「ブルルン! ヒッヒン!!」
「ママ、お馬さん達『だめぇ、せったい』って言ってるみたい」
「いやいや、本気でお茶にしないから大丈夫だよ。ハハ」
2つのバケツに『アルファルファ』をパサッと入れて、今度は押されない様に足を踏ん張って――気合を入れたら後ろをダッシャーが支えてくれた。
ダッシャーが傍に居るとなればお馬さんたちも大人しいモンだ。
緊張してるのか、かなりお上品に『モッシャモッシャ』と食べている。
お水はバケツにたっぷり用意してあるから、後はご自由にね。
「お待たせしました。僕たちもおやつタイムにしましょう」
~【フルグラとライ麦粉のクッキー】~
■材料(15個分)
・こめ油:40g
・砂糖:40g
・卵:1個
・フルグラ:70g
◆粉類
・薄力粉:50g
・ライ麦粉:50g
・ベーキングパウダー:小さじ1
■下準備
1.オーブンを 170℃ に予熱する。
2.天板にクッキングシートを敷く。
■作り方
1.ボウルに こめ油、砂糖、卵を入れ、泡立て器でぐるぐるとよく混ぜ合わせる。
2.①へ粉類3種を合わせてふるい入れる。
3.ゴムベラで粉っぽさが少し残るくらいまで、さっくりと切るように混ぜる。
4.混ざりきる前に フルグラ を加え、全体を均一に混ぜ合わせる。
5.スプーンを2本使い、天板に生地を一口大に丸く落としていく(ドロップクッキー)。
6.指先やスプーンの背で、上から軽く押して厚さ1cm弱の平らな形に整える。
5.170℃のオーブンで 約15分 焼く。
※焼きたては柔らかいのでターナー等で取り出し、網の上などで冷ます。
子供たちにミルクとダッシャーにアイスのカフェオレ、セオドア王とシアンさんにもカフェオレをお出しして、僕はコーヒーだ。
「このクッキーにはライ麦粉が含まれているんですよ。水車が使える様になったら、この街のライ麦で作ってみたいですね」
そう言うとシアンさんが「バッ」と振り向いた。
ブンブンと大きく首をたてに振る。
「是非! トトに教えてください!!」
「あっと……。これをそのまま作ることは無理ですね。でもそれが出来る方法もあるにはありますよ?」
にやりと笑って見せた。
その僕の視線の先には、まだ姿の見えない商人ギルドの人たちが居た。
◇◇
10分のおやつタイムはあっという間に過ぎた。
「もうお湯も冷めた頃だと思います。先にあっちに行っていて貰えますか?」
セオドア王とシアンさんをさっきお湯を撒いた場所へ誘う。
「ダッシャー、みんながアッチに行ったら残りの水路にお湯を撒こう」
「何だ、皆と同じ場所に行くのではないのか?」
「時間は有効に使わないとね」
みんなとは反対側の水路に向くと水を撒く。さっきのヘマは繰り返さないぞ。
「『水風船』!」
大きな大きな水風船が出来上がる。
「まずはこれを地面に置いて、と」
さっきは宙に浮いたまま分割しようとしたから失敗したんだと思う。今回は慎重に!
「分裂するよ。『ポップ』!!」
ポフッポンポンポンポン、ヒュンヒュンポンポン。
「やった! 成功だ」
「『水風船』『水風船』『水風船』『ポォォップ』!!!」
パフン、ピョンピョンポフンポフンフワンフワンフォン。ポン! パン! パシャ!!
目に見える範囲にはウォーターボールが行き渡った。いくつか割れちゃったけど、どみのち後で割るんだもんね。問題ないない。
「ダッシャー、またこれを60℃にしてくれる?」
「『ふふーーん』のあれは出さぬのか?」
「でももう君、60℃分かるよね?」
「なぜ分かると思うのだ?」
「だってダッシャーだもん。一度やったことの感覚は忘れないでしょ?」
「ふむ」
「まぁでも、彼らに【非接触型体温計】を見せつけるのには良い頃合いだけどね」
「あ奴らは火傷はせぬのか?」
「あはは、彼らも60℃は火傷をするよ。だから熱水を浴びせるのはダメね」
視線の先にはそろそろ姿が見える彼らが居た。少し距離に差がある様だ。
「あのガサツな男だけが水路を走っておるな。他は森の中を歩いておる様だ」
「ダッシャーが邪魔な木々をなぎ倒してきたんだから、水路を歩いた方が楽なんじゃないの?」
「お主は我の魔法の上を走っておったのだぞ。あ奴らは泥の道を通ることになる。しかも異臭を放っておるのだぞ?」
「それは嫌すぎる。なのにあの人はガシガシ来ちゃうんだね。近寄って欲しくないなぁ」
「洗剤で洗ってやれば良かろう」
「良いね、それ」
もしかしてダッシャーは嫌味で言ったのかな? でも実はこれ、消臭効果もあるんだよね。
「そろそろ合流するなら熱水は危ないかな?」
「すぐではないだろう。良いのではないか?」
うぅん、何が良いのか分からない。とりあえず60℃にして貰おうかな。
「ダッシャー、魔法をよろしくね」
「うむ、だが何か忘れてはおらぬか?」
「なに? 大事なこと?」
「水路で何をしたいのだ?」
「今更聞くの? 汚れを落としたい。堆積物を取り除きた――あっ!!!」
大事なことを忘れてた。すっかり『水風船』が楽しくて『洗剤』を撒くのを忘れてた……。これだから『お花畑』って言われちゃうんだよな。
「分かったのなら早くそれを出せ」
ダッシャーに言われて【アイテムボックス】から洗剤を取り出す。
「そこで撒いてみよ」
「ここで良いの?」
言われた通りにその場で「とぷとぷとぷ」と洗剤を撒く。
すると風が吹いて僕の作った『水風船』の上に薄く均等に広がった。
「こんなこと出来るならさっきも空から撒かなくても良かったじゃん」
ちょっと照れ隠しもあってふてくされて文句を言うと「あれはあれで楽しめたから良いのだ」とツンデレ回答が来た。
「手間に感じなくて楽しんでくれてたなら良かった。僕も楽しかったよ」
「では始めるぞ。乗れ」
ダッシャーに跨ると大きく羽ばたき、軽々と空へと浮かぶ。
ダッシャーの魔力が水路へと伸び、光が水を伝うとボールの薄い膜を割る。
パシィン……サパァァァァーーン……。
水路が水で覆われる。
ピリピリピリピシュシュゥ……。
雷のエネルギーが熱へと変換され、薄い湯気がゆらりと上がってきたところで光が止まった。
「出来たぞ。60℃だ」
「ありがとう、じゃあセオドア王たちと合流しよう」
「遊ぶのぉ」「チリリン」
スリングの中に入って大人しくしていた子供たちが、モソモソしだした。
「はいはい、すぐね」




