第五十一話 水門をピカピカにしました~副産物はエリクサー~
干上がった水路を腕組みをして見つめる。
「やっぱり水は必要か」
「水路に水を撒くのか?」
「水路に水は撒きたいけど、その前に水門をキレイにしておこうよ。ちょっと試してみたい魔法があるんだ」
「ほぉ、お主が自分で考えたのか?」
「考えること位は僕でも出来るんだよ。ただ、君の協力が必要だけどね。ふふふ」
「そんなことだと思ったわ。まぁ良い、やってみろ」
まずはこの『洗剤』を空中に留めておきたい。
「洗剤を垂らすから、これを浮遊魔法で空中に留めておくことは出来る?」
「そんなことか、造作もないわ」
ボトルから「トプトプトプトプ」と洗剤を大量に垂らす。すぐさまダッシャーが空中に留まらせてくれる。
「よし! 『ウォーターボール』」
「お水! お手伝いするのぉ」チリリン。
ベルちゃんが僕のウォーターボールを見て、お手伝いしたいと言い出した。
僕の魔法よりベルちゃんの方が効果も効能も高い気がするし、子供のやる気は育てないといけない。
別に自信がない訳じゃないよ? 元々お手伝いもお願いするつもりだったし。
「じゃあお願いね」
「チリーーン。『純水の球』」
僕の作った『ウォーターボール』を、ベルちゃんの作った『純水の球』が包み込む。
「ほらっ! やっぱり僕の出したウォーターボールと全然違うよ。ベルちゃん凄いね」
僕の出したへっぽこ『水の玉』は、少し表面が波打っていて、「水道水を丸く浮かべただけ」のような、曇りのある普通の水球だった。
ベルちゃんの出した『純水の球』は不純物が全く存在しない、極限まで磨き上げられた「クリスタルガラス」のように完全に澄み渡っていた。光が当たると、まるでダイヤモンドのように美しく光を乱反射させ、周囲の景色を歪みなく映し出していた。
しかも水の膜がまるで高級なゴムか防弾ガラスのように頑丈で、この後でやりたいことを察してくれたかの様な出来栄えだった。
「ダッシャー、この中に洗剤を入れたいんだ」
ダッシャーは軽々と洗剤を丸めると『純水の球』の内側へと滑り込ませた。洗剤と水とが混ざりあい、『超微塵分離液』となった瞬間だ。
「次は僕の風魔法でその中に渦を作るよ」
「キュキュウウ。らんちゃんもお手伝いするのぉ」
お約束の様にらんちゃんもお手伝いを名乗り出てくれた。少し不安だった僕はいそいそとお手伝いをお願いする。
「らんちゃん、このボールの中にパパが作った丸いのあるでしょ? あれをくるくるって回して欲しいんだ。出来るかな?」
「がんばるの」
「きゅぅう! トトトトン!!」
らんちゃんは力強く後ろ足を踏み鳴らし、額の小さなツノから鋭い風魔法を放つ。
その風は、水の殻を傷つけることなく、内部の『超微塵分離液』だけをピンポイントで捉え、旋回させ始めた。
――ギュウゥゥゥウウウウンッ!!!
ベルちゃんの『純水の球』の内側で、狂暴な水竜巻が吹き荒れる。
「ダッシャー、そのボールを水門に被せて!」
ダッシャーの鬣が静かに逆立ち、細かな光を放つ。『純水の球』を包み込むとそのまま水門がすっぽりと覆えるほどに大きくなった。
「行くぞ」
物凄い勢いで回転する『純水の球』が水門を覆う。
洗剤の超浸透力と風の摩擦に揉まれ、ガチガチだった火山灰の塊がバリバリと音を立てて剥がれ落ちていく。
瞬く間に、水の玉の内側だけが全てを吸い尽くした漆黒の『泥水の塊』へと変わっていった。
「キレイになったかな? ちょっとその真っ黒い『純水の球』を持ち上げてみてくれる?」
ダッシャーが水門から『純水の球』を抜くと、徐々に回転を弱め、止まった。
すると内側の『超微塵分離液』が「ポン」小さく爆ぜた。
「ポンポンポンポン」爆ぜる度に内部の『泥水』は透明に変わり、その内側に青やピンク、白や紫色の小さな花を咲かせる。いくつも、いくつも。それはガラス瓶に入ったハーバリウムの様に、可愛らしい花の集まりとなった。
「みんなありがとう。お陰で水門がすっかりピカピカだよ」
でも不思議なのは長い年月放置されていただろう水門が、少しも壊れていない。
「でも何で壊れてないのかな?」
「奇跡的に主要部位が火山灰に完全に覆われ、風化から守られていた――のだろうな」
「てっきり隠ぺいの魔法の影響かと思ったけど、流石に風化は誤魔化せないよね」
「まやかしで人を騙す様な奴らに、そんな高等な技が使えたとは思えぬな」
「この『純水の球』は後で有効活用するから、一旦アイテムボックスに保管しておくね」
「何に使うのだ?」
「リリーのお花畑に撒こうと思うんだ。火山灰には植物の成長に欠かせないミネラルが豊富に含まれているんだよ。本当は長い時間をかけて分解されるんだけど、君たちとこの洗剤の分解パワーで何と! 今すぐ使える『神獣印の活性魔導水』に変わったって僕の鑑定結果に出てるんだ」
「何だと?」
「『神獣印の活性魔導水』。花の活性剤みたいな感じかな」
「そうか、だが我の鑑定にも何やら出ておるぞ」
【 創世神の雫:|万物融和の聖母水 】
──数多の年月のかかる大地の風化を、異界の英知と神獣の力で一瞬にして成し遂げた、奇跡の水。
撒けばどんな植物も限界を超えて成長し、あらゆる不浄や病魔をも消滅させる。一口飲めば、死の淵からでも一瞬で生き返るほどの代物……。
「エリクサーか」
「あ? エリクサーってあの伝説の『エリクサー』? え? こんなに簡単に作れちゃうの?」
「お主は本当にお花畑だな」
「すぐそれを言うぅ」
「我は何だ?」
「神獣様でしょ?」
「では、ベルとらんは何だ?」
「えっと、僕たちの可愛い子供たち?」
「はぁ、それは正しいがそうではない。この子らはマナ・レクス様とグローの加護を持つ子らぞ」
「なるほど、創造神様とファイアドラゴンの加護を持つ子達ってことか。それは凄いパワーの持ち主ってことかな?」
「そうだ!」
アンセルは『簡単』と言ったが、水門に閉じ込められた純度の高い熱灰、あやつの『洗剤』の力、ベルの不純物ゼロの純水、らんの精細な回転に、それを暴走せずに完璧に制御するのに我の魔力を流した。これが『簡単』と言ってのけるあやつは、やはりこの世界を変える『使徒様』なのかも知れぬな。




