第五十話 ダッシャーはやっぱり神獣様です~使えそうな泥パック~
休憩を終えて、そろそろ次の作戦に取り掛かろうとして、フト思う。
「ねぇ、ダッシャー。また水門まで行きたくて個別結界を張って貰おうと思ったけど、それよりもこの結界をそこまで伸ばして貰う方が良いんじゃないかって思ったんだ。どっちが簡単?」
「お主がその方が良いと考えるのなら、我はそれで構わぬぞ。どちらにしても造作もないわ」
セオドア王たちの馬が耳をひくひく動かして、興奮している気がする。
(まるで推しを見る目だな)
「らんちゃん、お馬さんたちに『元気は戻った? 今からもう一走り出来る?』って聞いてくれるかな?」
「いいよ~」
「チリンチリン」。ベルちゃんもご機嫌で一緒に聞きに行ってくれる。
「キュッキュキュ?」
「「ヒンッ!」」
「二人とも大丈夫だって。パパのために頑張るって言ってるよ」
「なぜに我だ?」
「私どものためには頑張れないのだろうか? 気持ちが分かると言うのも、何だか切ないものだな」
「ヒヒヒーーーン!」「ヒッヒーーン!!」「「ンッブルルルルッ」」
「おじちゃんたちを乗せるから頑張れるみたいだよ」
「くぅ――っ」
「これは、気を遣わせてしまったみたいだな……」
「馬たちは元気満々で体力も回復したみたいですね。セオドア王とシアンさんはどうですか?」
「私はアンセル殿の『飲み物とおやつ』のお陰で、気力も体力も満タンです」
「私は満タンとまでは行かないですが、十分ですよ」
シアンさんは少し食べたりないみたいだけど、まぁ今は無視だ。
「ダッシャー、街の結界を水門まで伸ばしてくれる?」
「あい分かった」
ダッシャーが短く、だけど鋭く嘶いた。
前足を「トン」と地面に軽く打ち付けると、青白く輝く光が伸びていく。
川までの水路と、その周辺は揺らめく結界に包まれた。
「だが、このままでは何も出来ぬな」
「『神獣の風鎌』」
ダッシャーが翼を大きく羽ばたかせると、風の刃が水路を駆け抜ける。
水門に向かい、水路を覆っていた木々を薙ぎ払う。そのまま空中で渦を巻き方向を変えると、セオドア王たちが薙ぎ払って来た水路を覆っていた植物や、左右から立ちはだかる大木を、一瞬で微塵に切り刻んで吹き飛ばした。
「フッ!」
ダッシャーがふんぞり返っているのが丸わかりだ。
「ヒ、ヒヒヒン、ヒヒン」
「ブヒヒン、ヒヒーーーン」
何だかとっても盛り上がってる馬が2頭居ますが、とりあえずヒーロー誕生ってことで無視しておきますか。
「我らがあれほどに苦労して進んだ道……あの川底を覆いつくした堆積物や立ち枯れの木々を一瞬で、いとも簡単に吹き飛ばすとは、やはりお前の力は底知れぬな」
「輝く肢体を見なければ普段のお姿はとても神獣様とは思えませんのに、やはり『神獣ペガサス』様ですね」
「お主のそれは何やら棘が無いか?」
ダッシャーのとてつもない力にギスギスし出した気がする。まぁ分からなくもないけどね。『神獣様』ですしね。
「ねぇダッシャー。この後はさっき撒いた水門からの洗剤にお湯を掛けたいんだ。それにこの『機械』を使ってちょっとした遊びを思いついたんだよね」
「湯は簡単だぞ。これは何だ?」
「ふふ、これは後のお楽しみ。お湯は僕が出せるのよりももっと熱いのが良いんだよ。どうするのが良いかな?」
僕たちがコソコソと話しをしていたら子供たちがやって来た。
「お手伝いするのぉ」「するのぉ」
「そうか、ではベルは水でお手伝いだな」
「じゃあ今回はベルちゃんにお任せしようかな」
「そこに我が熱を加える。これで湯になるであろう?」
「自分で言っておいて何だけど、60℃位が良いんだよね。だともし体に掛かったらやけどしちゃうよね。……うぅん……」
「お主は誰とそれをやりたいのだ?」
「うん? お馬さんも含めた全員」
「この『洗剤』は効果が出るのに時間が掛かるのか?」
「10分かな」
「ほぉ、ならばその間にまた『ティータイム』が出来るな」
「え? まだ食べるの?」
「「食べるぅ」」
「いやダメだよ。お馬さん達はこれ以上食べたらお腹壊しちゃうよ」
「我らだけで良いではないか」
「ダッシャーはあんなに慕ってくれてる子達にそんなこと言うんだ?」
「う――」
「うぅ?」「う?」
ベルちゃんとらんちゃんがダッシャーの真似をして、「うぅうぅ」言っている。
「はい、ママの負けです。じゃあ待ち時間の10分はおやつタイムね」
「そう言うことならば、急いで片付けてしまうぞ!」
『おやつ』でそんなにやる気になってくれるんならお安い物ですわ。
「今から熱いお湯を使うので、少し離れていてくださいね」
そう言って今度は馬たちに後を追わない様にくぎを刺してから水門まで向かう。
ダッシャーに乗って駆ければすぐの距離だ。
水門まで来ると、その近くは先に撒いた洗剤が水門を超えた水と混ざりあって、ドロドロの液体に変わっていた。
「まるで泥パックみたいだな」
「何だ? それは」
「あ、興味ある? 前にサンプルで貰ったのがどこかにあるから後でやってあげるよ。お肌ツルツルだよ」
「我はいつでもお肌ツルツルだ」
「やるやるぅ」「やるのぉ」
子供たちが興味を持った様だ。ダッシャーの(恐らくは)強じんな肌と思うと、子供たちの肌は敏感そうだ。人間用はやっぱりダメだよね。
「それだとお肌に強いかも知れないから、後で優しいのが売ってないか探してみようか」
「「はぁい」」
「我のお肌にも強いとは思わんのか?」
「『神獣様』はお肌も完全防備だと思ってたよ。君は完璧でしょ?」
「まぁそうとも言うな」
(上手くダッシャーのご機嫌を損ねなくて済んだ様だ。つい子供たちと差別しちゃうんだよね。でもそれがバレたら拗ねちゃって大変だから、気を付けないと……)
ドロドロの泥パックの様になった灰色の堆積物は、ゆっくりと下流へ向かって流れだしていた。
その先の水分の無い場所は洗剤が蒸発して、ひび割れたメレンゲの様な気泡を含んだ堆積物が、ベリベリと浮き上がった状態だった。
本日で無事50話目を迎えることができました!毎日お付き合いいただきありがとうございます。
嬉しい報告ですが、なんとランキング67位に入っていました。驚きで鳥肌が立ちました……! 評価やブックマークをくださった皆様、本当にありがとうございます。
「キュキュイ、ととん」「チリリリン、ぽん」「我の物語だ、当然であろう」
これからもレシピの掲載やアンセルやダッシャー、可愛いベルちゃんやらんちゃん達の活躍をお届けしていきますのでお楽しみに!
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