表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
46/89

第四十六話 あの洗剤を使ってみます~商人ギルド再訪~

 薄っすらと現れた建物の輪郭に、セオドア王とシアンさんが驚いている。


「こんなところに建物が隠れていたとは」

「幾度となく通っているのに、全く気配もなかったですね」


「いやはや、呆れると言うか、見事と言うか……」

「それ、僕も同感です。ここまでやってまで、自分がやりたいことだけに集中する執念、むしろその情熱が他に向いた時は、物凄い力を発揮するんじゃないかと期待しています」


「それでアンセル様は、あいつらにご執心って訳か」

「ちょっと違いますよ。ベルちゃんに向けたあの執着、敵意を許してませんしね。『働け!』それだけです」


 いつのまにか現れた冒険者ギルドのギルマス、ルシアンさんに答える。


「ワハハハ、違いねぇ」


 ダッシャーの背中に乗っていたベルちゃんとらんちゃんを、しっかりとスリングに入れて「ぎゅっ」と抱きかかえると、薄っすらと見える建物の看板に触る。


 すると建物に張られていた隠ぺい魔法が消え、商人ギルドとその周りの景色がハッキリと現れた。

 前回はゆらゆらとした感じだったのが、今回は違う。一度、魔法を破ったからか? 僕の魔力が上がったからか? とにかくこんなことは早いとこ止めさせないといけない。

 

 ルシアンさんがドアノッカーを叩く。


 「ガンガンガン」


 ……返事は無い。


(まぁとりあえずは居ても居なくても良いから、同席して貰わなくても良いか)


 それでも一声だけ掛けて行こう。


「レイノスさん、アンセルです。建物の周りを調べさせて貰いますね。出て来なくても良いですよ」


 ガタガタガタッ……。


 何やら慌てているような音が聞こえたけど、何かマズいことでもあるのかな?


 ◇◇


 ハッキリとその姿を現した商人ギルドの建物周辺は、巨大な木々や緑がうっそうと茂る広大な湿地帯だった。


 その木々の間を、流れているのかいないのか、わからない位の水がチョロチョロと見える、火山灰の厚い層に埋もれた川があった。

 上流からかすかに届いた水は、すり鉢状に低くなったギルドの裏手へと流れ込んでは、泥の奥へとじわじわ吸い込まれて散っているようだった。


 建物のすぐ横には小川をまたぐように、小さな水車がひっそりと佇んでいたが、積もり重なった火山灰や泥が重石となり、川の流れをせき止めているせいで、今はピクリとも動いていない。


「これは上流の水源がそもそも乏しいってことかな?」

「地上に見えている部分は乏しいが、地下には豊かな水源が見えるぞ。それが木々を茂らせている」


 良く見ると、川底には分厚い火山灰や軽石、細かく砕けた溶岩などの堆積物が泥と混ざり合い、底なしの「沼地」のようになっていた。


「川に集まらずに散ってしまうってことかな?」

「そうだな。上流から届く水はこのぬかるみに遮られ、地下へ広がってしまうのだろうな」


 どうやらこの分厚く広がる堆積物を取り除かないと、川の水量が確保できないみたいだ。流れが無ければ水車は動かない。


「川に水が流れる様にするにはどうすれば良い?」

「我なら一瞬で堆積物を取り除くことが出来るが、それではお主の言う『遊んでいる奴らを働かせる』ことは出来ぬだろう?」

「そうなんだよね。窓からコッソリと様子を伺っている、ギルドの人たちが興味を持つ方法が良い。そうなるとやっぱり『洗剤』かな」


 前にテレビで紹介されていた洗剤が、あちらの世界の『カー用品コーナー』に置いてあったのを思い出す。


「ダッシャー、『意識共鳴マインド・チャイム』をお願い」


 【ホームサンタ(ホームセンター)】を開くために魔法を発動して貰う。ギルドの連中に見られるのはマズい。


 【ホームサンタ(ホームセンター)】の中を進み、『カー用品コーナー』を見渡すとポップが目に入った。


 『世界の一流ホテルでも採用!プロが認めた圧倒的な洗浄力』

 『植物由来&弱アルカリ性。驚くほど汚れが落ちるのに、手肌と地球を傷つけないエコ洗剤』


「これこれ、確かこの商品だ」


 植物由来で環境に優しい洗剤を、とりあえず5本ポチる。


 取扱説明書によると「60度以上の熱水や激しい攪拌・水圧を加えることで、洗浄力が向上する。原液1に対し水5〜100倍が目安」とある。


「まずは取説通りにちょっとやってみようかな。一番濃い5倍希釈で良いか」


 原液を水で5倍に薄め、スプレーボトルに入れて、川底の堆積物めがけてシュッシュと吹きかけた。サラサラと浸透する。


 しばらく見つめていると、黒い火山泥が、ジュワジュワと少しだけ溶け始めた。

 だが、奥までは効果が無い様だ。


(やっぱりこれだけ頑固な汚れに希釈は難しいか。原液でやってみようか)


 茶しぶ汚れも洗剤原液で時短している僕は、ここでも待てずに原液を掛けてみることにした。


 ドボドボドボ――。


「お主は何をしておるのだ?」

「何って、この固まった堆積物を溶かすんだよ」


「ここでか? と聞いておる」

「どう言うこと? 何か間違ってる?」

「お花畑の頭をシャキッとさせて良く聞け。水車はどこにある?」

「そこ。見えない?」


「水車はどうやって動くのだ?」

「水の勢いで――、だよね?」

「そうだな。では、ここはどこだ?」

「水車の前……。あっ! 上流からやらないと意味ないってこと?」

「だな」


「はっはっは! ダッシャーに一本取られたな、アンセル殿」


 後ろで様子を見ていたセオドア王が、たまらず愉快そうに声をあげて笑った。シアンさんも口元を震わせて笑いを堪えている。


 ちょっと恥ずかしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ