第四十二話 水車小屋見学を確約しました~オーナーはダッシャー~
食後にダッシャーに砂糖たっぷり温めのカフェオレと、子供たちにも温めのミルク、僕はコーヒーを飲みながら話しをする。
もちろん、セオドア王とシアンさんにもカフェオレをお出ししている。
『茹でパン』の残りをバターで軽く焼いて、はちみつをたっぷり掛けた『ハニートースト』を一緒に出したら、お腹いっぱいのはずなのにみんな勢いよく食べて話も出来ず……。やっと今、落ち着いてコーヒータイムとなった。
「商人ギルド近くの水車を見に行きたいんですが、また後でご相談させて貰っても良いですか?」
「えぇ、私も同行させて頂きたい」
「商人ギルドの監視役として、冒険者ギルドに働いてもらおうと思います」
「冒険者ギルドと言うと、確かデルポフから移って来られたルシアンさんがギルドマスターでしたか」
「はい、冒険者ギルドのルシアンさんと、商人ギルドのレイノスさん、案外良い組み合わせと思いますよ」
食事も終わり、一通りの相談も済んだら気になるのはやっぱり水車よりもリリーだ。
「リリーがちゃんとご飯を食べられてるのか気になるんだ」
「ならば乗れ!」
ベルちゃんとらんちゃんをスリングに入れたら、ダッシャーの背中に飛び乗る。
そのまま空へと駆けあがると、空中で魔法を発動させた。
「――開け、常春の箱庭!」
眩い光が辺り一面を照らし、空を見上げた人たちの視線を遮る。
純白の扉が開き、中へと駆けこむ。
光が収まった後には空から桜の花びらが降り注いだ。
「アンセル様よ、やりたい放題だな」
冒険者ギルドのギルドマスター、ルシアンが空を見上げて笑いながら呟く。
◇◇
「リリー、遅くなってごめん。お腹空いたね」
「あら、あるじ様。自分で食べられたから大丈夫よ」
ビンのままのローヤルゼリーと付属のスプーンを置いておいたけど、それで何とか頑張って食べてくれたみたいだ。
辺りにローヤルゼリーが飛び散り、リリーが頑張った証として残っていた。
このままだとやっぱり食べにくいよね。何か食器を用意しようか。それにこのお花畑は春の陽気で暖かいし、大丈夫だとは思うけどローヤルゼリーは冷蔵したい。
「ねぇダッシャー、さっき作った『保冷庫』をリリーにも作ってあげたいんだ」
「だが、先ほどの様な箱ではリリーが丸ごと入ってしまうぞ。造りは工夫せねばなるまいな」
「このリリーのお家に家電もあるだろ? これをそのまま使えないかな?」
「うむ、それは出来るな」
「リリー、ちょっとキッチンを見せて貰っても良いかな?」
「えぇ、どうぞ。でも、ここはあるじ様のお家でもあるのよ。遠慮はいらないわ。だって、オーナーはあるじ様でしょ?」
「どっちかと言うと、オーナーは『ダッシャー』かな」
魔物の買い取り金で買ったドールハウスだもんね。狩ったのは『ダッシャー』で、僕じゃない。
「ちょっと見せてね」
リリーの家の中を覗く。正面が大きく開いて中が見通せる様になっている。
1階は遮る壁の少ない広々とした間取りで、リビングとダイニングにキッチンまで見渡せる。
リビングには猫足の白いソファとガラスのローテーブル、キッチンにはリリーの背の高さほどもある、ツードアの冷蔵庫が鎮座していた。
冷蔵庫の小さな取っ手を引いてみる。
「凄いな。これちゃんと開くよ」
「では『箱』はそれで問題はないな」
「これが何になるの? あたしに便利なモノかしら?」
「きっと興奮すると思うよ」
リリーの問いに答えながら、中に何を入れるのか考えた。
(ローヤルゼリーだけ? リリーの食べられる物ってそれだけなのかな?)
「ねぇリリー、もしかしたら僕は君にとてもひどいことをしたのかも知れない」
「あら、なぁに?」
「僕は君が『女王蜂』だから、食べられる物は『ローヤルゼリー』だけだと決めつけていたんだ」
「あら、そうなの?」
「でも、君は僕と同じ『人型』だよね?」
「えぇ、そうね。あるじ様とダッシャーのお陰でね」
「うん、だからきっと僕たちと同じ食べ物が食べられると思うんだ」
「まぁ、そうとも言えるわね」
「やっぱりそうなんだ……。本当にごめんよ。君は僕が『ローヤルゼリー』しか用意しないから、我慢して食べてたんだね」
「あら、それは違うわよ」
「え? 何が違うの?」
「あたしは今、自ら望んで、子供たちに最適な食事として『ローヤルゼリー』を選んでいるのよ?」
「どう言う事?」
リリーの説明によると、今はまだ産卵の時で、産まれてくる子供たちには僕のローヤルゼリーが必要らしい。それがダッシャーの結界に触れて人型になったリリーが、女王として同種の子供を産むのに最適な手段だと言う。
「『異世界のローヤルゼリー』が、ダッシャーの神の力に触れずに、人型に進化する糧ってこと?」
「そうね。ダッシャーの力はあたしの中で徐々に薄まって行くもの。その力を最大限繋ぐために、あるじ様の『ローヤルゼリー』が必要なのよ」
「そう言う事ならよかったよ。てっきり僕は君に意地悪をしちゃったと思ったんだ」
「ふふふ、おかしなあるじ様」
「だって僕たちだけ色んな物を食べて、悪かったなあって……」
「大丈夫よ。落ち着いたら、あるじ様たちと同じ物をあたしもいただくわ」
安心してキッチンを覗き込む。今度は食器の確認だ。
昨日使ったティーカップは有ったけど、ローヤルゼリーを小分けにしておく入れ物が欲しい。
白とゴールドのロココ調デザインの食器棚の扉を開くと、ゴールドの縁取りを施されたティーセットが入っていた。
白く透き通るような美しい磁器に、満開に咲き誇る鮮やかで大ぶりなピンクのバラの花束と、繊細な緑の葉が描かれていた。お皿やカップのフチはひらひらと波打つような優雅な曲線で、キラキラと金色に輝いている。
白磁のティーセットはティーポット、シュガーポット、ミルククリーマーに6客セットのカップ&ソーサーと6枚のケーキ皿だ。
ディナーテーブルにはランチョンマットが敷かれ、ティーセットと同じ柄で設えたディナープレートの上に、スープボウルが重ねて置かれていた。
サラダボウルとブレッドプレートがナイフやフォークと共にセッティングされている。
「ベッドに惹かれて買ったけど、実に豪華だね」
「えぇ、お気に入りよ。ありがとう、あるじ様。とオーナーのダッシャー」
リリーがペロッと舌を出して無邪気に笑った。




