第四十一話 サーモ・クッカーのお披露目です~茹でパンと簡単ビシソワーズ~
コンロの魔石受けが最初から無かった物とされ、誰にもこの情報が知られないことを願いながら、話しを切り出す。
「ところでセオドア王にお願いがあるんです」
「他ならぬアンセルの頼みとあらば当然聞くぞ?」
「先日、『ガレット』」をお出ししましたが、実は材料のそば粉が切れてしまいまして、今朝は火を通した卵料理を皆さんにお出ししていたんですよ」
「そばなら国庫に備蓄があるぞ? あれは使えぬのか?」
「そばの実のままでは使えないんです。粉にしたいんですが、今は外の水車小屋に行けないですよね?」
「えぇ、遠い記憶に街外れに水車が……とお話しさせて貰いましたところ、商人ギルドが何やら絡んでいると?」
シアンさんが顎に手を置いて答えてくれる。
「実は、商人ギルドの隠蔽魔法に紛れて、『忘れられた小さな水車』がギルドの近くにあるらしいんです」
「商人ギルドの、何ですって?」
(あぁ、隠蔽されてるから気付いていないのか)
「『隠蔽魔法』です。その魔法に小さな水車が巻き込まれたのではないかと」
「それで今まで記憶から忘れ去られていた――と言うことですか」
その水車を粉挽き水車として生き返らせたい。それも国庫のそばの実を挽く水車として。その許可が欲しいこと、そして、そばの実とライ麦も使わせてほしいこと、等を説明する。
「もちろん、それには全面的に協力させて貰おう。いつから始めるのだ?」
「それはこの後で手掛けるつもりです。でもその前に卵料理は如何ですか?」
「では遠慮せずに馳走になろうか」
王様の目がキラッと輝き、間髪入れずに「待ってました」とばかりの返事が返ってきた。
「シアンさんもご一緒にどうぞ」
セオドア王とシアンさんに、特設のテーブルセッティングを施した席に座って貰う。
ガレットを用意した木陰のテーブルだ。
誰か作ってくれる人は居ないかと、チラっとマルタさん達の方を見ると、視線を逸らされた。
無言で「来るな」と言われた感じだ。
(まぁ国王様に食べて貰う物を作るのは荷が重いか)
「僕が作りますので、少しお待ちください」
「作っているところを見学させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
シアンさんがお願いポーズで迫って来る。
「料理長のトトがアンセルさんの料理にとても興味がある様で、ぜひその様子を伝えて欲しいと頼まれているのですよ」
「あぁ、はい。それは大丈夫ですが、自前のコンロでも良いですかね? あそこにはちょっと入って行けそうにないです」
チラッと光の天蓋の方を見る。
「ダッシャー、行くよ」
「『意識共鳴』!」
魔法を唱えるとダッシャーが短く嘶いた。
セオドア王とシアンさんを取り込んで、認識阻害の魔法を発動する。
「今から使う『魔道コンロ』は、僕以外の人が触れると、拒絶するんです。危ないので絶対に触らないでくださいね」
強く言ってから、アイテムボックスから【温冷の調律器】を取り出した。
赤と青のツマミが3つずつ付いた、天板に花柄の幾何学模様が書かれたIHコンロみたいな形の、見た目にも特別感のあるコンロだ。
「ほおぅ、これはまた美しい」
「一目見れば高級なのは分かります。一般市民ではこれに触れようと思う者は居ないでしょうね。ただ、盗もうと企む者は現れるでしょうね」
「特に、邪な心を持つ輩に強く『拒絶』は発動するみたいですよ」
「その口ぶりでは、発動したことがあるのですか?」
「ルシアンさんに、わざとこの『魔石』に触れて貰いました。盗むつもりもなく触れたのに、大きな声で痛がっていましたよ」
「あぁ、だから先ほどもあれほど強く、心配をしていたんですね」
赤のツマミを右に1つ回す。「ポンッ」と黄色の花が咲く。
もう1つツマミを回す。「ポンッ」とオレンジ色の花が咲く。
「これは素晴らしい。これならいくら金を出しても欲しいと思う人は居るでしょうね」
「これも魔法ですか?」
「どこで手に入れたのですか?」
「おいくらですか?」
「これは買ったのではなく、創造神『マナ・レクス』様からの贈り物です」
それは無理だと思ってくれたのか、質問するのを止めてくれた。
せっかく王様に食べて貰うんだ。それに料理長のトトさんの協力が得られれば、今後の話しを進めやすい。
「卵料理をお出しする前に、簡単に作れるパンとスープを用意しますので、もう少々お待ちくださいね」
「それも見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
コッソリと認識阻害魔法の更に奥に引きこもろうとしたら、シアンさんが必死の形相で迫って来た。
(……家電を使ってるところは見せない方が良いな。仕方ない、久々に手作業にするか)
~【ライ麦とそば粉のモチモチ茹でパン(クネドリーキ風)】~
■材料(2人分)
◆粉類
・強力粉:100g
・ライ麦粉:50g
・そば粉:50g
・ベーキングパウダー:小さじ1
・塩:小さじ2(下味の役割で少し多め)
◆水分
・牛乳(または水):100〜120ml
■作り方
1.ボウルに粉類を全部入れて混ぜ、牛乳を少しずつ加えながら表面がなめらかになり、耳たぶくらいの固さになるまで5分ほどしっかりこねる。
2.生地をひとまとめにして、直径5〜6cmの太い筒状に成形する。
3.大きめの鍋にたっぷり湯を沸かし、沸騰したら塩と生地を入れ、蓋をして弱火〜中火で10分茹でたら、ひっくり返して更に10分茹でる。
※グツグツとした沸騰だと硬くなるので、ぷくぷく程度のお湯で茹でてね。
4.茹で上がったらすぐに取り出し、竹串やフォークで全体を数箇所ポツポツと刺して、中の熱い湯気を逃がす。
※これをしないと、冷める時にしぼんで硬くなってしまいます!
5.触れる程度に少し冷ましてから1~1.5cm厚さに切る。
※ミシン糸を生地に巻きつけてクロスさせて引くとキレイに切れますよ。
(ミキサーもレンジも使えないからスープはこれで良いか)
丁寧にやるなら玉ねぎのみじん切りをバターで炒めるけど 今回はちょっと手抜き。
鍋に水とコンソメとバターを入れて一煮立ちさせて火を止める。
マッシュポテトの素を加えて良く混ぜたら、牛乳を少しずつ加え、滑らかになるまで良く混ぜる。
塩コショウで味を調えたら、玉ねぎを手抜きした代わりにフライドオニオンをトッピング。
~【マッシュポテトの素で作るビシソワーズ】~
■材料(2人分)
・マッシュポテトの素:50g
・水:200ml
・コンソメ:小さじ2
・バター:15g
・牛乳:300ml
・生クリーム:あれば50ml
・塩・コショウ:少々
・フライドオニオン:少々
■作り方
1.耐熱ボウルに水とコンソメとバターを入れ600wのレンジで1分加熱する。
2.マッシュポテトの素を加え、スプーンでダマがなくなるまでよく混ぜ合わせる。
3.牛乳(と生クリーム)を少しずつ加えながら、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
4.塩・こしょうで味を調え、冷蔵庫で冷やしたら器に注いで、フライドオニオンをトッピングしたら完成。
「これで『茹でパン』と『ビシソワーズ』が出来ました。後はこれを冷やします」
【温冷の調律器】にボウルを置いたら、青いツマミを回す。
一瞬で冷気が漂い、冷えたのが分かる。
「今のはどうやったんですか? 一瞬で冷気が発生しましたよね?」
「それはこのコンロの仕様ですよ。温めるのと冷やすのと、両方出来るんです」
「あ、そ、そうですか」
「最後は『スクランブルエッグ』を作ります」
フライパンにバターを溶かし、玉ねぎを炒める。バターを追加したら卵液を加え菜箸で大きく混ぜる。仕上げに更にバターを追加したら完成だ。
お皿に盛って、野菜サラダとカリカリベーコンを添える。ケチャップは好みがあるから別添えにした。
【温冷の調律器】を【アイテムボックス】に戻し、『意識共鳴』を解除する。
「お待たせしました。スクランブルエッグとじゃがいものビシソワーズです。パンは今から切りますので、お先にこちらをどうぞ」
お皿に顔を近づけて、香りを目いっぱい吸い込んでいる。
「何と豊かな、そそられる香りなんだ」
「この黄色の実に美しい。それに添えられた野菜の何と瑞々しいことか」
(いつもの【スーパーサンタ】で買った『カット済み野菜サラダ』です)
先ずはセオドア王が、ナイフとフォークを手に取って、卵を一口分取り分けて口に運ぶ。
「ほおぉぉん、このとろりとした卵の何と優しいことか」
「私も頂いてよろしいでしょうか?」
待てなくなったシアンさんが口に出す。
「当然だ。こんなに美味い物を食べぬヤツがいるか」
「いただきます。――ほぉんっ!」
「美味いであろう?」
ふんふん、無言で首を振っている。
「これはトトに是非とも作り方を教えて頂きたいです」
「それは良い考えだ。私からも頼む」
「母様たちにもお教えしましたので、もちろん良いですよ」
「『茹でパン』もどうぞ」
「これがパン? ですか?」
「パンにも色々ありまして、これは短時間で少ない材料で作れる簡単なパンですね」
「今回も『白パン』かと思ってました……」
シアンさんが残念そうにつぶやく。
「あ、ふわふわの『白パン』が良かったですか?」
「あっと……昨日頂いた『白パン』がとても美味しかったものですから、また頂きたいなと思ってしまいました」
「それはありがとうございます。でもこれはこれで別の美味しさがありますよ。冷めない内に試してみてください」
「そうですね。文句を言ったみたいで申し訳ありません」
「ご馳走になろうか」
「いただきます」
「茹でパンはそのまま食べても良いですが、スープに浸したり、卵を乗せたりして食べた方が美味しいですよ」
一口大にちぎったら、卵を乗せて口に運ぶ。
「「はっ」」
二人が顔を見合わせた。
「これは、今までに感じたことのない食感だな」
「もちもちで美味しいですね」
「温かいパンと温かい卵がこれまた合う」
「このスープもじゃがいもの風味がよく出ていて、普段の煮込みと全く違いますね。しかもとても冷たい」
「ね? これはこれで美味しいでしょ? しかも簡単なのが良いんです」
「我も食べるぞ」「「食べるのぉ」」
「はいはい、ありますよ」
「あ、そう言えば、これ付ける?」
おばあちゃんがローヤルゼリーと一緒に届けてくれた『はちみつ』を取り出した。
「茹でパン、味がしないから子供たちにはこの方が食べやすいでしょ?」
「我も味がしないぞっ!」
「ダッシャーは子供じゃないでしょ?」
「はちみつは甘くて美味いのだ!」
「あの、私もそれ貰っても良いでしょうか?」
「シアンだけズルいではないか」
「はいはい、みんなで食べましょうね」
おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう。




