第四十話 セオドア王に説明しました~雷嵐の魔石の能力~
――――パカラッパカラッパカラッ。パカラッパカラッパカラッ。
遠くから馬の蹄の音がする。
大通りの方を見ると、誰かが馬に乗って駆けて来るのが分かった。二人だ。
ヒヒーーーン! ブルルルル。ブルルル。
「ダッシャー、先ほどの大きな音は何事だ? 皆、無事か?」
あ、『あれ』ね。
セオドア王が馬から飛び降りて、説明を求める。
「テオよ、何を慌てておる。我が居るのだ、何事も起こらぬよ」
「このざわつきぶりを見る限り、俄かには信じられぬぞ。だが、お前がそう言うのなら――。ハハハ、何事も無かったのだろうな」
いえ、このざわつきは、突然馬に乗ってものすごい勢いでやって来た、あなたが原因だと思いますよ? 国王様。僕の方はすでに皆さん納得してくれましたし?
「それで、本当は何があったのです?」
ひそっと聞かれたから正直に答えてみた。
「えっと、四人でちょっと魔石の性質を書き換えて、魔石コンロ10台への配線を少々……」
チラッと噴水前のテーブルに置かれた魔石コンロに目を向ける。
セオドア王は引き寄せられるように、魔石コンロへと歩き始める。
それとは逆に、母様たちが一斉にコンロから離れた。
「この魔石コンロはアンセルが用意した物なのか? こんなにたくさんの新しいコンロをどうやって? 確か、皆の古いコンロを買い取ったと思ったが、やはりあれでは使えなかったか?」
「この新型の1台と、こちらの旧型は新品を買いましたが、それ以外はみなさんのお家に眠っていた物と、道具屋さんで魔石切れで保管されていた物ですよ。お話しした古いコンロをキレイに掃除したんです」
「いや、この輝きを見よ。これが使い古された物だと言うのか?」
そうですね。ピカピカですものね。
「商人ギルドの人たちにキレイにして貰いました。整備も完了したので、設置の運びとなりました」
「商人ギルドですって!?」
驚きのあまり、セオドア王が素に戻っている。
「あぁ、はい、そうです。協力して貰いました。シアンさんには『商人ギルドが実は衰退なんてしていなくて、勝手気ままなことをしている』とお話しさせて貰いました」
「えぇ、お聞きしましたが、俄かには信じがたく。この目で確かめるまではと、陛下にもお話しはしておりませんでした」
「この整備されたコンロを運んでくれて、さっきまで居たんですが、逃げる様に帰って行きましたね」
「商人ギルドはもう何年も前に廃業して、建物も朽ちたと聞いていた」
「それ、嘘ですよ。あの人たちはこの街の人たちが、それこそ物々交換レベルで自給自足の生活をし出して仕事が減ったのをいいことに、自らを隠蔽したんです。建物もろともにです」
「まさか、そんなことが……」
どれだけ研究(遊び)惚けてたのか、存在を隠していたのか……。これはやっぱり、いよいよ働いて貰わないといけないな。
「先ほどの大きな音と光は、ダッシャーのいたずらです。商人ギルドのレイノスさんが、ちょっとうちの『ベルちゃん』にちょっかいを掛けまして……」
「『竜怖の卵』の子にですか?」
「えぇ、可哀そうに、僕がちょっと油断したばかりに、この子を恐がらせてしまいました」
「無事だったのですね?」
「はい。何とか間に合いました。その時もダッシャーが物凄く怒ってくれて」
チラッとダッシャーを見ると、照れ隠しかそっぽを向いた。
「レイノスさんがどうやら懲りてないらしく、それでダッシャーが『力の差を見せつけた』と」
「――呆れてものも言えませんね。商人ギルドの連中は、一体何をやっているのか」
シアンさんもセオドア王と同じ様な顔をしている。
「そもそも、この子達の力がどれほどのものか、産まれを知っていればそんなことも出来まいに」
「力? この子達の?」
「お主は深く考えぬ方が良いぞ。お花畑で良いのだ」
「何だか悪口を言われた気がするけど、まぁ良いや」
セオドア王はまだ何か言いたげに周りを見ている。
「この、空の薄っすらとした輝きは何だ?」
噴水の上に、ゆらゆらキラキラと輝く空を見て言う。
「コンロの動力に『雷嵐の魔石』を使いました。あの真ん中にあるのがそれです。そこから流れ出る導線の光ですよ」
「先ほどの光と音は、これを設置した時に発せられた物、と言うことか」
「はい。これを動力源にして10台のコンロを繋いだんです。ついでにこの光の下では、あらゆる厄災が弾き飛ばされるみたいですよ」
「これほどの魔力の石をいったいどこで入手されたのです?」
「元は『風属性』単体と思われていた、ダッシャーが狩ってきた雲岩鳥の魔石に魔力を流して、『雷属性』と『風属性』が融合した【複合上位属性】に変化させました」
「魔石の属性を変えることなど出来るのか?」
「僕には複雑なことはさっぱり分からないですが、雲岩鳥の【雲や天候を操る風の力】にダッシャーたちの聖なる魔力が混ざり合ったことで、【嵐】となり、魔石としては最上級の電力源になったみたいです」
「それこそが彼を『神獣たらしめる』所以か」
「あれ?」
「どうしたのだ?」
ダッシャーがズイッと顔を寄せる。
「この新品のIH風魔石コンロだけど、ずっと使い続けてたから魔石が残り少なかったんだよ」
「どう言うことだ?」
セオドア王とシアンさんも顔を寄せる。
「これ――、相当ヤバいんじゃないかな?」
「私たちにも分かる様に説明して貰えませんか?」
コンロの魔石は満タンの状態だと青色に光る。使っていく内に緑 → 黄色 → 橙 → 赤となる。
「さっき見た時は赤色が点滅していたんだ。もう残りはほんの少しで、今にも切れる寸前だったと思う」
小さな声で周りに聞こえない様に、ヒソヒソ話す。
「でも今は『青色』ですよ?」
シアンさんが魔石を見て言う。
「そうなんです。それが問題なんですよ」
更に小さな声で話す。
「つまり?」
「つまり、『雷嵐の魔石』には【魔石を充電する力】があるってことじゃないかと」
隣のテーブルの旧型新品の、同じ様にずっと使い続けていたコンロにはまっている魔石を見る。
同じように青色の魔石がそこにあった。
「これは誰にも知られない方が安全ですね」
「あの高さにあれば、『雷嵐の魔石』が盗まれることは無いんじゃないですか?」
「違いますよ。誰かが空になった魔石を、黙ってこの10台のコンロにはめて、充電させた時のことを心配しています」
「それは『雷嵐の魔石』の力を盗むことですから、厳重に取り締まりを行うべきですね。魔石の価値が狂い、市場が混乱し兼ねません」
「それもそうですが、僕が心配していることは少し違いますね。あの魔石には『ベルちゃん』と『らんちゃん』の力も加わっています。もし、邪な心で近寄ったら、拒絶の力が働くかも知れません」
「この可愛い子達が危険なんですか?」
「この子達は竜怖の卵の子達だ」
「りゅ! は?」
シアンさんは知らなかった様だ。でも竜怖の卵の子だからって危険な訳じゃないんだよ。
「商人ギルドのレイノスさんの邪な心のお陰で、ちょっぴり敏感なんです。もしかすると特に『僕』が、かも知れません」
「お主の力が石にこもったベルとらんの力を護ろうとする、そう言うことか?」
「うん」
「ならば、我の力もお主たちを護ろうとするだろうな。全力でだ」
「それは相当に危険だと言うことが分かりました。誰にもその様なことをさせぬ様に、魔石の受け口を塞いでしまいましょう」
「それが良いですね。ダッシャー、お願い」
「『絶対隠蔽』」
真っ白い濃い霧が現れ、僕たちを10台のコンロと共に霧の中に包み込む。
「『永劫守護』」
ダッシャーがその翼を大きく、一度だけ羽ばたかせた。
風が渦を巻きながら、魔石コンロの上を踊っていく。
鬣が逆立ち、放たれた金色の細い雷光が風を追って走る。
ピリピリとした繊細な光が触れた瞬間、魔石受けは水面の様に溶けた。溶けた金属は中央へと引き寄せられ、さざ波が収まった後には平らな天板が現れた。
『雷嵐の魔石』から注がれる純粋な力は、10台のコンロへのみ伝わることとなった。
作業を終えると一瞬で霧は消えた。




