第三十八話 力の差を見せつけました~雷嵐の魔石で動力確保~
冒険者ギルドのギルドマスター、ルシアンさんが雲岩鳥の魔石を麻の袋に入れて、ぶんぶん振り回しながら走ってやって来た。
と、思ったらそのまま配膳の列に並んだ。
ご飯とスクランブルエッグと鮭に、パンも受け取ったらご飯の上に乗せた。
(パンにご飯粒が付いちゃうのは気にならないんだ)
ルシアンさんがご飯を食べてる間に、自分たちの食事の片付けを、レイ・クリーンでサクッと済ませる。
◇◇
「おぅ、待たせたな」
「ありがとうございます。あれ? 皆さんご一緒ですか?」
ギルド職員の皆さんが走って来るのが見えた。
「『雲岩鳥の魔石が『風属性』じゃないって、神獣『ダッシャー』様が言ったんだ』と話しをしたら、皆ついて来ると言い出した。まぁ街が封鎖されたこんな状態じゃ、ギルドも開店休業だしな」
「そうですね。でも、僕がお願いした『冒険者ギルド本部の設立』の件も、進めて貰えると助かります」
ヒュッヒュゥ~と鳴らない口笛を吹いて誤魔化された。
「まぁ、何だ。場所はともかく、いつまでも王宮に間借りしている訳にもいかんしな。その内考えるよ」
「その内だと、忙しくなったら後回しにされる口ですよね? 今がお暇ならその時だと思いますよ?」
ね? とダッシャーを上目遣いで見る。
「こやつの言う通りだな。噴火が治まれば我の張った結界は取り除かれる。当然、この街の封鎖も解かれるな」
「えっと? ダッシャー様は何をおっしゃりたいんで?」
「少なくとも、我らは外で狩りをする。その魔物はお前たちが解体するのであろう?」
「は、はぁ」
「楽しみにしておれと言うことだ」
「アンセル様よ、どう言うことだい? 俺っちにゃあちょいと意味が分かんねぇ」
「簡単なことですよ? 解体が難しかったり手間だったり、何なら場所を取ったりする魔物をダッシャーが狩って来るから、その準備をしておけってことですよ」
「あちゃあ、仮設ギルドじゃ手狭だっておっしゃってるのか」
「ギルマス、諦めて本腰入れて考えましょうや」
やっと追いついた職員がいいことを言ってくれる。
「いや、だがな。アンセル様が『ギルド本部』を建てろと言ってる場所は、あいつらの近くなんだぞ?」
その視線の先には白衣の集団が居た。
「ゲ! 何で商人ギルドの連中が外に出て来てんすか?」
「僕が『魔石コンロ』の整備をお願いしたんですよ」
「アンセルさんがなぜ奴らの存在を知ってんですか?」
「俺が教えたんだよ」
物凄く後悔している風に、ルシアンさんに言い放たれた。
それにしても商人ギルドの人たちが、外に出て来ることが驚く事態らしい。まぁそりゃそうか。自らを隠ぺいして、研究に没頭する位の変人集団だもんな。
それでも僕としては、あの人たちにちゃんと仕事をして貰うためにも、お目付け役が必要なのは譲れない事実だ。
「我が思うにだ、今後この街は活気に満ちる。お前たち冒険者ギルドも忙しくなるが、あいつら商人ギルドも今までの様にはいかん」
「僕も同じ意見なんですよ。なのであの人たちが今後二度とおかしなことを起こさない様に、しっかりと! 見張っていて欲しいのです。仕事もして欲しいし、悪さもしない様にね」
そのためにはやっぱり、この人たちの監視下に置くのが一番なんだよ。とっても嫌そうだけどね。同じ創造神様直轄の組織ってことで、それは『同僚』でしょ?
◇◇
さて、魔石もコンロも届いたし、始めますか。
噴水の周りに並べて置いた魔石コンロの中心に、雲岩鳥の魔石を置く。
コンロは新品を中心に3台ずつを各テーブルに配置し、噴水をぐるっと取り囲む様になっている。
噴水側に作業者が立ち、噴水を背をしてコンロに向かう。噴水があるため、後ろからは作業スペースに人が入り込めない様になっている。
テーブルとテーブルの間はスペースがあるため、水場を使いたい人は、そこから中に入ることが出来る。
「この風属性の魔石を、別の属性に変えることが出来るってことだよね?」
「それでどうするのだ? 皆に見せつけるか? それとも秘匿するか」
「わざわざ見せびらかすことも無いでしょ? これ以上、あいつらが変な気を起こしても困るし」
商人ギルドの人たちを見やる。
「我もそれには同感だ。では結界だな。『絶対隠蔽』」
視界を遮る真っ白な濃い霧が、一瞬で辺りを包む。そんな中でも僕たちの視界は良好だ。
ダッシャーの輝く鬣が、静かに逆立つとバチバチと青白い光を放つ。すると子供たちが騒ぎ出した。
「お手伝いするの」「するのぉ」
「ほぉ、では我に魔力を集めるのだ」
「「うん」」
ベルちゃんとらんちゃんは、ダッシャーの背中に飛び乗った。
ベルちゃんの体がオーロラの様に輝き、らんちゃんの小さな角からはピリピリと、線香花火の様に光が放たれる。
「お主も来ぬか」
あまりの自体に固まって突っ立っていた僕も、我に返ってダッシャーの首元に手を添える。
ダッシャーの体から溢れる白い光の束は、『雲岩鳥』の魔石へと注がれる。石は内側からバチバチと閃光を放ち、極限まで膨らむと『雷嵐の魔石』へと変貌した。
どこか濁った淡い緑色だった石は、中心核に白銀の輝き持ち、その表面には七色のオーロラが揺らめいていた。
『雷嵐の魔石』は注がれ続ける魔力に押され、上空へと昇る。
過剰なほどの魔力は眩い光の渦となり、光は更に舞い上がる。そして最高潮となった瞬間、大輪の花火の様に鮮やかにはじけ飛び、10台の魔石コンロを包む『光の天蓋』となった。
石は天蓋の中心に鎮座し、魔導の波動が目に見えないラインとなって、10台のコンロへと満ち溢れていく。
その瞬間、コンロは命を灯されたように一斉に『ポワン』と小さく光った。
作業が終わると霧は一瞬で消え去った。
なぜか人々の視線が集まっているのが気になる。
(ん?)
「終わったぞ。ベル、らん、良くやったな」
「そうだね。お手伝い出来ていい子だね」
さて、魔石の補充も出来たし、魔石コンロの最終調整とやらをして貰いましょうか。
「レイノスさん。『雷嵐の魔石』で動力を確保しました。後は最終調整をお願いします」
「……ぱくぱく……」
口をぱくぱくさせて何だろこの人……?
「アンセル様よ。ありゃ無いぜ」
「ルシアンさん。何がですか?」
「いや、急激に発生した霧もだが、『シュルシュルドカン』だよ」
「えっ?」
『絶対隠蔽』で霧に包まれた範囲は、音は消え、姿は見えなくなっていたが、空高くまではその影響を及ぼしていなかった。
ピシューーーー! シュルシュル――。ドカン!
空中に浮いた『雷嵐の魔石』に注がれた、光の束や大輪の花火はしっかりと目撃されていた。空高くから聞こえた大きな音も、人々の耳に届いてしまった様だ。
チラッとダッシャーを見やる。
「つまり? 今回の隠蔽は中途半端だったってこと?」
「我は思いのままに魔力を操ったぞ?」
「ん? つまり? 元々音も光も見せるつもりだったってこと?」
「まぁそうなるな。こうでもせねば、我らの力を奴らは理解出来ぬであろう」
「益々分かんないな」
「分かりやすく『力の差』を見せつけてやったのよ。二度とお主たちに手出しをせぬ様にな」
(………………)
それでみなさんの様子がおかしいのか――。
「ま、まぁ、それは置いといてコンロの具合を見て貰えませんかね?」
「これはアンセル様のコンロみたいに、ビリっと来ないだろうな?」
ルシアンさんは、ベルちゃんとらんちゃんの『涙のしずく』で懲りてるみたいだ。
「これは僕専用ではないので大丈夫ですよ」
「それはどうだろうな」
ダッシャーが不穏なことを言う。
「ちょっと、驚かしたらダメでしょ? これは母様たちが使うんだから」
「普通に使うのなら、なんら問題は起きぬわ。これを盗もうとする輩には、何が起こるか分からぬと言うことだ」
「わ、私どもはこれで、し、失礼させてもらいますよ」
レイノスさんが慌てて帰ろうとする。まさか?
「おかしな考えを起こさなければ大丈夫ですってば!」
「そんなのその時にならないと、気持ちを抑えられるか分からないじゃないですかっ」
「本音ダダ洩れですよ」
呆れて開いた口が塞がらない。ここまで見せつけられてもまだ好奇心が勝るのか。研究者って凄いな。
「分かりました。確認はこちらでしますが、まだお話しがありますのでまた後で伺いますよ」
「それは我々が興味を持つ内容でしょうか?」
逃げ帰ろうとした足を止めて振り返る。
「どうでしょうね? まぁ多分きっとそうでしょうね」
「何ですか? 何ですか?」
わざわざ戻って来て肩を掴んでガクガク振られる。
「お前はまだ分からぬか」
ダッシャーの鬣からピキピキと稲妻があふれ出る。
「ヒッ」
慌てて手を放すと、直立不動になった。
「『水車』ですよ」
内緒にしていても仕方ないから教えてあげた。




