第三十七話 商人ギルドは亡霊ですか~今朝は卵を焼きました~
王宮の部屋に戻ると、ダッシャーとアンセルに変化した。
「腹が減ったな」
「ご飯は炊けてるけどおかずが無いし、広場に行ってからだよ」
「「お腹空いたのぉ」」
ベルちゃんとらんちゃんもスリングの中から顔を出して騒ぎだした。
「ならば急ぐぞ」と背中にポイと投げられて、空を駆けて中央広場へと向かう。
ダッシャーとの飛行も慣れたもので、空から王都のあちらこちらに咲く美しい花々を見やる。まぁ雪原を猛ダッシュする姿をみたら、これでも随分とスピードを落としてくれているのに気付く。
「やっぱりこの国は花が多いね」
「フルーラ王妃の頑張りの賜物だろうよ」
「ふぅん」
何度聞いても良く分らないから、落ち着いたらその内に聞いてみよう。
中央広場に空から降り立つ。一瞬ザワついたけど、僕たちだと分かるとマルタさんが駆け寄って来た。
「おはよう。アンセルさん」
「おはようございます。遅くなってすみません。皆さん朝ご飯はどうされました?」
「みんな家々でいつもの粥を食べたり、残ってたパンを食べたりで、それはまぁ良いんだよ」
ご飯はまぁ良いとはどういうことだ?
「他に何か問題でもありましたか?」
「それがね、あの連中だよ」
マルタさんが目をやった方を見ると、商人ギルドのギルドマスター『レイノス』さん達が居た。
真っ白な白衣を身にまとい、手には魔石コンロを持っている。
「商人ギルドの人たちですね」
「やっぱり『商人ギルド』かい? どう見てもそう見えなかったモノだからね。みんなして訝しんでいたんだよ」
まぁどう見ても『商人』ってよりは『研究者』だ。
「でも、見た目にそう見えないのに、どうして『商人ギルド』だと思ったんです?」
「それはあの胸の紋章さね。それにあのあり得ないほど白い白衣さ。不気味でならないよ」
白衣の胸の紋章には『商人ギルド』のかんばんに見た『天秤に大小の歯車』が描かれていた。
外壁を取り囲む花とつるに見立てた魔術回路まで、ご丁寧に再現されている。これにももしかすると隠蔽の魔法が隠されているのか? つい疑ってしまう。
「でも、だからと言って問題ではないでしょう?」
「アンセルさんは知らないのかね? あのギルドはずいぶん前に衰退して、建物は跡形もなく朽ちて、そこに居た人たちはみな、逃げるようにこの国を捨てたって話しだよ」
「それもこの国の人間が『魔石』を使わなくなったり、商品の流通が芳しくなかったりで、仕事を失ったと恨みながらの逃亡だったらしいんだよ」
「今でも風の強い日なんかは、『商人ギルド』の建物があった場所に、ふわりふわりと『建物の亡霊』が現れるって言われているんだよ」
なるほど、そんな噂を自ら流して自由気ままに研究に没頭していたってことか。
「いえ、むしろこの国の人たちがギルドを必要としなくなったので、意気揚々と好きなことをやっていたみたいですよ」
「それは本当かい? 好きなことってのは何なのかね?」
「『研究』みたいですよ」
「『研究』?」
「レイノスさん、おはようございます」
「おはようございます、アンセル様。お譲り頂いた『洗剤』で、長年積み重ねた頑固な汚れを落としてすっかり綺麗になった魔石コンロは、これまでと思うと全く比較にならないほどの早さで整備が済みましてね。これが面白い様に汚れが落ちるもので、色々と試したくなってしまいましたよ。ほら、この白衣もその洗剤で洗ったのですよ」
ご機嫌なのか饒舌だ。
「布製品をあれで洗ったんですか」
「からくりを洗浄中に洗剤が白衣に飛びましてね。そこだけ輝くように白くなったのですよ」
「それで全部洗ってしまいたくなったと……」
これは研究なのだろうか? ただの好奇心だろうか?
「あれは強いので洋服に使う時には、長く浸さない様にしてください」
「あ……はい」
「それで洗剤の効果が楽しくて、仕事が進んだ魔石コンロはどうなりましたか?」
「これですよっ! 見てくださいこの輝き!! まるで新品でしょう? 力も必要なく、時間も掛からない、しかも傷も付かずにこの仕上がり。ふぁぁぁぁぁ、なんて素晴らしいんでしょう」
ダメだ。逝っちゃってる。
「それはこの魔石コンロがですか? 洗剤が、ですか?」
「あ、あぁそうでしたね。仕上がった魔石コンロを見てください」
「これです」「これです」「これもです」
次々にキレイに磨き上げられ、整備が終わったコンロが出てくる。
「では、時間も無いですし、早速設置しましょうか」
噴水前の特設共同炊事場に、セオドア王が用意してくれたテーブルに置いて行く。
「さて、魔石を用意しないと動かないな」
相変わらず都合のいいところに居てくれる、冒険者ギルドのルシアンさんに声を掛ける。
「ルシアンさん、先日買い取りして頂いた『魔石』の中で、使えそうなものを買い戻したいのですが」
「それはモチロン良いさ。まだ支払いもしていないしな」
「ありがとうございます。――どれが良いかな?」
(でも僕に何が良いのか分かんないから、ダッシャーに選んで貰おう)
「ダッシャー、こないだ君が狩ってくれた魔物が落とした魔石を覚えてる? あの中で何が使えるかな?」
「雲岩鳥だな」
「おぅ、良いぜ。だがあれは『風属性』だと思ったがな」
「それはお前の目が曇っているだけだ。あれは別の属性を持っておるわ」
「ちょっと待っててくれ。急いでギルドに行って取ってくる」
「じゃあその間にご飯にしようか」
「それが良いぞ。腹が減った」「「お腹空いたの。ご飯なの」」
忙しい雰囲気を感じ取ったのか、ずっと大人しかった子供たちが騒ぎ出す。
「何が食べたい?」
「たまごぉ」「ミルクぅ」「肉だぁ」
「じゃあスクランブルエッグにしようか」
~【チーズと玉ねぎのスクランブルエッグ】~
■材料(2人分)
・玉ねぎ:1/2個
・卵:3個
・ピザ用チーズ:50g
・牛乳:大さじ2
・塩・こしょう:適量
・バター:30g
■下準備
1.玉ねぎは1cm角に切る。
2.卵は溶きほぐし、チーズ・牛乳・塩・こしょうを加え混ぜ合わせる。
■作り方
1.フライパンにバター10gを溶かし、玉ねぎを透き通るまで炒める。
2.バター10gを足し、卵液を加え、菜箸で大きく混ぜる。
3.半熟状になったら更にバターを10g足して混ぜ、器に盛る。
他は野菜サラダと味付け海苔に、昨日の残りの 『エメラルド・キングサーモン』の塩麹焼きでいいかな。
~【鮭の塩麹漬け焼き】~
■材料(2人分)
・生鮭の切り身:2切れ
・塩麹:大さじ1〜1.5(1切れに大さじ0.5〜1)
■下準備
1.鮭の水気をペーパーで拭き取り、ポリ袋に鮭と塩麹を入れ、全体によくなじませたら冷蔵庫で30分~、できれば一晩漬け込む。
2.焼く前にトースターを1〜2分余熱する。
■作り方
1.焼く直前に冷蔵庫から鮭を出し、表面についた余分な塩麹をペーパーで軽く拭き取る。
2.アルミホイルを敷いた天板に鮭を並べ、1000Wで4分焼く。
3.4分経ったら鮭の上からふんわりとアルミホイルを被せ、7分焼く。
4.身の中央まで火が通ったら完成。
アイテムボックス広さ無限で【トースター】にポイポイ入れるだけで焼き上がるのは便利だ。
「マルタさん、玉ねぎってあるんでしたっけ?」
「何だいそれは? 長ネギは少しならあるけどね」
【スーパーサンタ】で買っておいた大量の玉ねぎと卵を渡す。
「チーズとバターと牛乳は冷やしておきたいから使う時に言ってくださいね」
スクランブルエッグの作り方を教えて、ガレット用に渡してあるフライパンで調理してもらう。
ガレットのフライパンはそれ専用にしたいけど、卵を焼くのは大丈夫だろう。
ご飯は予約で炊き上がってるし、外で食べれば一層美味しいからおかずは少なくても平気かな。
「今日は焼いた卵をご用意しましたが、卵かけご飯が良い人は言ってくださいね。パンもありますよ」
広場に集まってきた人たちへの配膳は、マルタさんたち母様に任せて、僕は子供たちのご飯の用意だ。
「みんなお待たせ。お腹空いたね」
ベルちゃんらんちゃんとダッシャーにも朝ご飯を用意する。
今朝もおにぎりが食べたいと言うダッシャーには、炊き立て熱々ご飯で塩むすびと、鮭の塩麹焼きを混ぜ込んだ鮭むすびと、自分が食べたいわかめご飯のおにぎりにした。
飲み物はダッシャーには温めの甘いカフェオレ、ベルちゃんらんちゃんにはレンジでチンしたホットミルク、僕はコーヒーだ。
おにぎりをみんなに「あ~ん」で食べさせたら、やっと一息。
バターたっぷりのトーストをキャンプチェアに座って、のんびりと……、食べさせてくれる時間はない様だ。
「おーい、アンセル様よ。魔石持ってきたぜ」
ギルマスがやって来た。
でも今はご飯タイムだし、ちゃっかりそのまま配膳の列に並んだ。
僕も急いでトーストを食べ終えて、次の仕事に取り掛かる準備をする。
(そろそろリリーも気がかりなんだよね)




