第三十六話 リリーのお家を用意します~水飲み場の完成~
部屋に戻ると早々に寝る準備をする。子供たちはすっかりお眠の時間を過ぎている。
とりあえず朝ご飯用に無洗米をドサッと【炊飯器】に入れて、水を入れたら予約炊飯をポン。
これで最低限の『白米』は提供出来る。後はその時考えよう。流石の僕も今日は疲れてこれ以上は無理だ。
「くう、今日は色々とありがとう。明日って言うかもう今日だけど、まだまだ忙しくなるけど頼りにしてるから、よろしくね」
「ええ、何でも私に言ってくださいませ。貴女のお力になれることに、喜び以外の何物もございません」
「はは、ありがとう。おやすみね」
「おやすみなさいませ」
ベッドに潜り込むと、お腹の上に「ポンッ!」とベルちゃんが飛び乗る。「するするする」とらんちゃんが腕の中に収まる。
「君たちホントに可愛いね。癒しをありがとう」
目を閉じると一瞬で夢の中だった。
翌朝も早い時間から目が覚めた。くうの朝陽はとても優しく、疲れもすっかり取れた気がする。
「おはよう、くう。ねぇもしかしてこの『朝陽』には、疲労回復の効果があるの?」
「おはようございます。それは『企業秘密』ですよ」
まだお眠の子供たちを、そっとスリングのゆりかごに移動させ、首から斜め掛けにしたら、『くう』にお花畑のドアを開いてもらう。
「――開け、常春の箱庭!」
白銀の光が漂い、桜の花びらが舞う。美しい『バラのアーチ』と純白のドアが現れ、扉を開けて『お花畑』へと進む。
今回は霊樹のすぐ目の前だった。
目に飛び込んできたのは、リリーが倒れて動かない姿だった。
「っ! リリー、どうしたの? 大丈夫?」
ローヤルゼリーのケースに座り、ビンのフチにもたれかかったまま動かない。
慌てて駆け寄ると、スースー寝息を立てていた。
「良かった。眠っているだけみたいだ」
ふぅっと息を吐き、隣に目をやると昨日作った『大きな巣』が見えた。
5つの六角形の部屋の中に、大きな卵が産み落とされている。
「リリーの体が大きくなったんだから、そりゃ卵も大きいよね」
「そうですね。リリーサイズの人型が産まれるとしたら、巣と住処は別で用意しないといけなくなりそうですね」
「うん……。普通だと後3日位は孵化しないから、ソッチはその時考えるとして、リリーの部屋は必要だね」
「これからたくさん卵を産むのです。安心して休むことの出来る場所は必要ですね」
「リリーサイズのカゴとアイピローならアイテムボックスにあると思うよ」
小さなカゴとラベンダーのアイピローを取り出そうと【アイテムボックス】を開く。
すると【スーパーサンタ】と【ホームサンタ】の隣に新しいボタンが現れて、ピコンピコンしている。
【トイ・サンタ】
ポチすると、ここに行けと言うかの様に画面が開く。
吸い寄せられるようにサイトを進んでいくと、1/12サイズの売り場に繋がった。
『家具付き・ミニチュアハウス売り場』
何となくイメージがついて迷わず入る。
「何これ? たくさんありすぎて全く分かんないな」
「何がですか?」
「ドールハウスって言って小さな人形が暮らす家……だけだと思ったけど、家具や照明やバスルームにキッチンなんて普通の家のミニチュア版だよこれ!」
「見た感じですと、お貴族様の豪邸が再現された小さな箱庭ってところですか」
「最低限必要なのは『ベッド』なんだよね。しかもリリーのイメージだと――」
ページを進めて探していく。
「あった! これこれ『天蓋付きのベッド』」
気に入ったベッドが付いたお姫様系の一軒家をポチる。
ポチった後で気が付いた。
「リリーの好みじゃなかったらどうしよう……」
「私の魔法で大きくしますので、そしたらお嬢様がお使いください」
いやいやいやいや、天蓋付きのベッドはちょっと……。
「その時にはベルちゃんとらんちゃんにあげようか」
「ドサッ」と段ボールが届いた。
早速、広げてみる。
中には家具家電、食器も全部拾ったフルセットのドールハウスが入っていた。
「とりあえず今はこれで良いか。生まれた子たちを見て、また考えようか」
リリーを起こさない様に、そっとベッドに移した。
「リリーのご飯とお水を用意しておいてあげようか」
女王蜂はローヤルゼリーしか食べない。でも水は必要だ。
「小川は遠いしすぐ近くに水場が欲しいね。魔法で何とか出来るかな?」
「今度こそ、お嬢様のお力で何とかなりますよ」
くうが笑いながら言った。
「土属性と水属性をお持ちのお嬢様なら、水脈を引き当て、呼び起こすことが可能ですよ」
「うん、レベルも魔力も低いけどね」
(レベルも魔力も上がっているのですが、このお方は自らを鑑定したがらないですからね。そこがまた可愛いのですよ)
「清泉の息吹」
相変わらず、くうに教えて貰って魔法を発動する。
地面から水が湧き出てくる。
「でもこのままじゃただの水たまりだよ」
「では私がお手伝い致しましょう」
くうは優雅に一歩前に出ると、その美しく輝く螺旋の角から白銀の魔力が放たれ、地面へと突き刺さった。
――ドスン!
地響きと共に、泥だらけだった地面が一瞬にしてギュッと凝縮され、真っ白い大理石のような岩盤の土台と水受けの器が姿を現した。それは、水を湛えた『水飲み場』となった。
「わぁ、相変わらず凄いよ。僕が出る幕なんてないじゃない」
「いえ、何事も積み重ねですよ」
丸い大理石の水場は、湧き出す水が陽の光を受けてキラキラ輝いていた。
「これはろ過機能も付いてるのかな?」
つい気になったことが口をついた。
「チリンチリン」、ベルちゃんが起き出して、くうの作った大理石の水場に近づくと、そのまま『チリリン』と飛び込んだ。
「わぁぁっ! ベルちゃんが落ちちゃった」
慌てて救いあげる前に『チリン』と飛び出した。
「ベルちゃん、危ないでしょ? びっくりしたよ。ケガしてない?」
「ベルちゃんお手伝いしたの」
「え?」
水の中をよく見ると『緑色の綺麗な結晶』が残されていた。
その結晶からは絶え間なく、キラキラとした光の泡が立ち上っていた。
「これって――?」
「私の見たところでは、この結晶には地下からの循環が続く術式が編み込まれている様ですね」
「ろ過機能ってこと?」
「ええ、ずっと水はキレイなままです」
「凄いな、ベルちゃん。ありがとう」
くうとベルちゃんのお陰で水場は出来た。でも……。
「蜂って溺れる時があるんだよ。水は必要だけど危険は除いてあげたいんだ」
「いい考えですね」
起き出してきた、らんちゃんを抱っこする。
「らんちゃん、魔素の風をちょっと貸して貰って良いかな?」
「らんちゃんもお手伝いするの」
「 ――『微小結界・水面歩行』!」
らんちゃんの風を編み込んで、水面に薄緑色の光の膜を張った。
水があるのに深さはゼロのような、水は飲めるのにその上を歩けるような、そんな魔法だ。
「この魔法で合ってる?」
「ええ、正しいですよ。それに可愛らしいので私は好きですよ」
(…………)
「んんん、なあに。騒がしいわ」
リリーが起きた様だ。
「ごめんごめん、起こしちゃった?」
「あら、あるじ様。おはよう」
「おはよう。お疲れ様だね」
「そうね。本当ならこんなこと自分ですることじゃないもの」
そう言って翅を羽ばたかせて柔らかな風を作る。リリーから薄いピンク色の魔素が卵に流れていく。
「ところでこのお部屋はなぁに?」
「僕の国で作られた家だよ。外で寝てたら疲れも取れないだろ?」
「まぁ、とっても可愛いわ。でもちょっと可愛すぎかしら?」
「可愛すぎでしたら私が魔法で大きくして、アン様に使って頂きますので、遠慮なく申し付けくださいね」
「そこまでじゃないわ。気に入ったからあたしが使うの」
「気に入ってくれて助かったよ」
くうが残念そうな顔をした。
「水場も作ったんだけど、お水飲むかい?」
透き通った小さな可愛いティーカップに水を注ぐ。
「リリー、特製のカップだよ。ゆっくり飲んでね」
「わぁ……! あたし専用のカップね、すっごく可愛いわ!」
小さな両手で嬉しそうにカップを受け取ると、コク、コク、コク……美味しそうに水を飲み始める。
「――ぷはぁ! 冷たくて、ほんのり甘くて、とっても美味しいわ! 何でこんなに美味しいの?」
「うん? 多分だけどベルちゃんの浄化の力かな? それとも、くうの大理石の器の作用か? らんちゃんの結界か?」
「ふぅん、みんなの力ってことね。みんな、本当にありがとう」
ずっと僕たちが傍にいる訳にもいかないし、最初の卵が孵化するまでは、自分でローヤルゼリーも水も用意して貰わないといけない。
「リリー、僕たち街の人たちのところにも行かないといけないんだ。一人で出来るかな?」
「ええ、食べ物も飲み物もこんなあるんだもの。大丈夫よ」
胸をポンとたたいて、大丈夫アピールをしてくれる。
「なるべく早く戻るからね」
そう言って、バラのアーチのドアを抜け、中央広場へと向かう。




