第三十四話 亜空間にお花畑を作ります~孫に甘々おじいちゃん~
「おじいちゃん、おばあちゃん……。グスッ」
「ママ、泣いてるのぉ?」「ママァ、泣いちゃダメ」
「あるじ様、あたしのご飯のためにごめんなさい」
「みんな、ち、違うんだよ。大丈夫。心配させてごめんね……」
サァ――。優しい光に包まれる。
「あれ? 『くう』、どうして?」
「アン様の姿の方が思い切り泣けるのではないでしょうか? 私の前では無理はなさらないでください」
「あ、ありがと……うっ」
――すぅぅぅぅぅん。
「お嬢様の周りに遮音と隠蔽の結界を張りました。誰にも聞こえませんし、姿も見えません。私にもです」
「くう、ありがと……っ」
『くう』に抱き着いて思い切り泣いた。
『――――――――――――――!! っ』
(アンセルよ。すまぬのぉ)
◇◇
「くう、もう大丈夫。落ち着いたよ。ごめんね」
「いえ、それは私どもがお伝えすべきお言葉です」
「いいんだ。おじいちゃんおばあちゃんに、僕が生きてて元気で居るよって伝えられただけで満足だよ」
すり寄って来る『くう』を思い切り抱きしめる。
背中に乗っていた、ベルちゃんとらんちゃんも抱きしめる。
「あるじ様、そろそろ良いかしら?」
「女王様、お腹が空いたんだね」
「もうペコペコ」
「フフフ、ハハハ、その遠慮がない感じ、良いね」
「何がかしら?」
少しだけ残っていた『ローヤルゼリー』をペロッと食べ終えた女王蜂が、空気を読めなくて逆に良かった。
おじいちゃん達から受け取った『ローヤルゼリー』のフタを開ける。
専用スプーンをそのまま手渡すと、何とか持てるみたいだけどやっぱりちょっと大きいな。
「そのスプーンじゃ大きいかな? コッチの爪楊枝の方が良いかな?」
「大丈夫よっ! このスプーンでお腹いっぱい食べるんだから」
ビンのフタをひっくり返して踏み台にする。その上に立つとスプーンを両手で持って、たっぷりのローヤルゼリーの中に突っ込んだ。
「待って待って、勢いよく突っ込んだら埋まっちゃうよ。すくってあげるから」
ケースのフタをイスに見立てて、ちょこんと座らせる。
すぐ横に置いたビンの淵を両手で掴んで、中をジッと見ている。
「はい、こっち向いて。『あ~ん』」
「ペロペロ」
(この子は「あ~ん」じゃなくてペロペロ派なんだ)
ビンの淵を掴んでいた両手でスプーンの柄をしっかりと掴んで、美味しそうにペロペロしている。
「可愛いな」
「ベルちゃんも食べるの」「らんちゃんも食べるの」
「ベルちゃんも可愛いの」「らんちゃんも可愛いの」
「私も貴女に『可愛い』と言っていただきたいですね」
「み~んな可愛いよ。可愛いの大渋滞だ」
「「お腹空いたのぉ」」「お腹が空きました」
「何が食べたい? 今すぐ食べられるのは、魚の煮つけとお昼の残りのパスタだよ」
「私は先ほど貴女が食べていた『塩むすび』を、「あ~ん」で頂きたいです」
「「うん、それ『あ~ん』するぅ」」
「お魚も食べるのぉ」「食べるのぉ」「頂きたいです」
「とりあえずお城に帰ろうか? その方が落ち着いてご飯も食べられるし、女王蜂さんの住処も考えないといけないしね」
「そうなのよね。そろそろ産まれちゃうわ」
「空を飛んで戻った方が良さそうですね」
『くう』の体からペガサスの翼が現れた。
陽も落ちて見られる心配も無いから、そのままの姿で空を駆けて部屋に戻った。
「でもこの大きさだと普通の巣箱じゃ入れないよ。どうしよう」
「材料があれば巣は作れるわ。でも、働き蜂が居ないから一人じゃ無理よね」
「そうだよね。でも僕が手伝ってあげられることなんて……」
子供たちに『塩むすび』を「あ~ん」しながら話しをする。
「「「美味しいね(です)」」」
「ママ、おさかなさんも食べるのぉ」「食べるのぉ」「いただきたいですっ」
魚の煮つけ大根入りをドンッ! っと大きな器に入れてテーブルに置く。
箸で大根を一口大に切って、「はい、あ~ん」
箸で魚をほぐして、「はい、あ~ん」
箸でゆで卵を割って、煮汁をまとわせたら、「はい、あ~ん」
女王蜂の視線が痛い。
「野生の蜂は木の室とかにも巣を作るよね?」
「あたしの本能が『できる』と言ってるわ」
「何か考えがあるのですか?」
「うん。またマナ・レクス様頼りになっちゃうけど、『神授の森』なら木があるよね」
「それは正しくもあり、正しくもなく、と言ったところでしょうか」
「どう言う事?」
「この子はとんでもない進化と成長をしているでしょう?」
「うん、話せるだけじゃなくて、姿かたちもかなり変化したよね」
「その体では『普通の木』では住まうことは出来ないでしょうね」
「この大きさを受け入れるだけの大樹が無いって事?」
「あれだけの森です。大樹はありますよ。でもこの子の魔力が強すぎて、木がそれを受け止めきれないでしょうね」
「そんなに強いの? 」
「なら後は…………。ダメだ。思いつかないよ」
「貴女なら、――おそらくは大丈夫でしょうね」
「僕? が何?」
「『亜空間』ですよ」
「『亜空間』って何?」
「マナ・レクス様と雪原で遊んでいましたよね? あれが『亜空間』ですよ」
「ほぇ? どう言うこと?」
「マナ・レクス様は床に入口を作っていました。穴から中に入りましたよね?」
「うん、みんなで入ったね」
「貴女はすでに『亜空間』を経験したということですよ」
「もしかして? 出来ちゃう?」
「残念ながら、今のままでは出来ませんよ?」
「……思わせぶりなこと言うから、出来ると思ったじゃないか」
「ふふふ、やはり貴女は可愛いですね。私がいるのですから、出来ますよ」
(…………)
「ねぇ、そんなところでイチャイチャして、あたしのこと忘れてないかしら?」
「忘れてないよっ!」
とにかくやってみよう。
とりあえず手をかざしてみる……。
「『くう』先生、質問です」
「ハイ、何ですか?」
「入口は開きっぱなしでしょうか?」
「そうですね。マナ・レクス様の雪原は短時間でしたし、あの部屋には誰も近寄れなかったですから、あれで良かったですが、今回は困りますね」
「だよね?」
「イメージはありますか?」
「そうだな――」
出入り口は開閉式で、出入りは僕の監視下におく。
常には入口は存在を消すか、隠されている。
中は常春で花が咲き乱れ、木々が青々した葉を茂らせている。
住処を作るのに適した巨大樹が花畑の真ん中にあり、その葉が涼し気な木陰を作り出している。
小さな小川が流れ、時間は外と同じように流れる。
「そんな感じかなぁ」
「分かりました。では『お花畑』への入り口は【アイテムボックス】に追加でどうでしょう?」
「そんなこと出来るの? それなら僕の管理下で他人に横やり入れられなくて済むと思うよ」
「アイテムボックスを開いてくださいませんか」
「オープン」
『くう』が真剣なまなざしで僕のアイテムボックスを見つめる。
マナ・レクス様が作った【アイテムボックス】は「未知の高次元プログラム」なんだそう。そこにアクセスして、もはやハッキングばりに無理やりプログラムを追加するイメージらしい。
『くう』の螺旋状の角から、青白い魔力の糸がキラキラ絡み合いながら広がる。
すると【通信機】が光ってマナ・レクス様が現れた。
「アンよ、儂に任せるのじゃ。ホッホー!」
いつもの様に指先をくるくるってしたと思ったら、【アイテムボックス】に『お花畑』が追加された。
されてしまった……。
「あ、ありがとうございます。困ってたんですよ……」
「じゃろう? お主は儂にとっても可愛い孫じゃ。孫が困っていたら助けるのじゃ。ホホ―」
「あ、はい」
『くう』が今まで見たこともない顔で、マナ・レクス様を睨んでいる。そりゃそうだよね。見せ場だっただろうし。
「『くう』もありがとう。また次、何かあったらお願いね」
「真っ先に、誰にも知られない内に、私に相談してください! ねっ!」
空気を読まない女王蜂が、お花畑に早く入りたくてウズウズしている。




