第三十二話 煮付けに大根追加です~僕の料理はズルいんです~
外は一段落したのか、暗くなって家に帰る人が増えたのか、少し静かになった。
そろそろお手伝いの皆さんのご飯を用意した方が良さそうだ。
皆さんお疲れだろうし、胃腸の調子を整えるためにも大根を追加しよう。
~【魚とゆで卵と大根の煮つけ】~
■材料(2人分)
・魚の切り身:2切れ
・長ねぎ:1本
・ゆで卵:2個
・大根:4cm
◆煮汁
・醤油・みりん・砂糖:各大さじ3
・酒:大さじ2
・水:150ml
■下準備
1.切り身に軽く塩(分量外)を振り10分置き、出てきた水分をキッチンペーパーで拭き取る。
2.長ねぎは3〜4cmのぶつ切りにする。
3.卵は茹でて殻をむいておく。
4.大根は2cm厚さの半月切りにし皮をやや厚めにむいて、アイラップに入れたら600wのレンジで4分加熱する。
■作り方
1.切り身を2切れ並べられる大きさの鍋に、◆煮汁の材料を入れて混ぜ、加熱した大根、ゆで卵を入れて、中火にかける。
2.煮立ったところへ魚の切り身と長ねぎを入れる。
3.アルミホイルなどで落とし蓋をし、鍋の蓋もして15分煮る。
※強火にしたり、蓋を開けっ放しにしたりしないこと。吹きこぼれそうになったら蓋を少しずらす。
4.火を止め、一度完全に冷ます。
5.食べる直前に温め直したら、器に盛り付け煮汁をかけたら完成。
(さて、一度冷まして大根に味をしみ込ませた方が良いな)
温冷の調律器のゆで卵を冷ますのに使っていた1口に鍋をおいて、青のツマミを回す。急速冷蔵だ。
次の瞬間、白く濃密な、まるで足元に広がる雲海の様な冷気が溢れ出し、大鍋の底を優しく包み込んでいく。
しゅわあああ……。
かすかな音を立てて、煮汁が大根の白い繊維の奥深くへと目に見える速さで吸い込まれていく。
「やっぱり凄いな。一瞬で鍋全体が冷えて、大根染み染みだよ」
今度は赤のツマミを回して温め直す。
白い雲海の様な冷気が、引き潮のようにスーッと消え去り、冷え切っていた大鍋の底を一気に熱が包み込んでいった。
大鍋の中央から『グツグツ、ジュワジュワ……』と、先ほどよりも一段と深く、濃厚な音が響き始めた。
エメラルド・キングサーモンの極上の脂、クタクタになったネギの甘み、煮汁が熱されて焦げた芳醇で香ばしい匂いが湯気となってブワッと立ち上る。
一度冷まされたことで、真っ白だった大根は美しい飴色へと染まり、サーモンのコラーゲンをその身にたっぷりと含んでいる。それはネギや卵の表面にも美しく絡みつき、極上のテリとなってキラキラと輝き出した。
(市民の皆さんにお出しした『煮つけ』も照り照りして美味しそうだったけど、これは比べ物にならない位にキラキラだ)
「皆さんの分の『魚の煮つけ』も出来ましたよ。ご飯にしてください」
「ありがたいね。お腹ぺこぺこだよ」
「やっとこの美味しそうなご飯と煮つけが食べられるんだね」
「今日一日頑張った甲斐があったよ」
「「「いただきますっ」」」
「はぁ、美味しいねぇ」
「卵の他に何か入っているね。これはカブかい?」
「これは大根ですよ。体にいいんです。 胃腸の調子を整えてくれるし、喉のイガイガもすっきりさせてくれるので、頑張ってくれた皆さんにピッタリだと思いますよ」
「美味しくて体にいいなんて最高だね」
結界の中で一心不乱に作業をしていたから、外で並んでいた皆さんの反応は分からなかった。でもマルタさん達の食べっぷりを見る限り、この煮つけも好評だったに違いない。
問題は皆さんに満足して貰える分だけ配れたか? かな。
「昼間の『ガレット』は途中で材料が無くなっちゃいましたが、ご飯と煮つけは足りましたか?」
「アンセルさんがくれた『エメラルド・キングサーモン』だから、こんなこと言うのもおかしな話しだけど、あの魚は見たのかい?」
「えぇ、狩ったのはダッシャーですけど、見ましたよ」
「じゃあ卵はいくつ茹でたか覚えているかい?」
「そっちは覚えていません」
「この人に数の勘定は無理みたいだねぇ」
「っ確か、3回位はルシアンさんに茹で上がった卵を渡した気はしますよ?」
「それは正しいな。大変だったぞ」
「あんたは重たい卵を運んでただけじゃないか?」
「俺だって少しは剥いたぞ? ただちょっと力が強くて、加減をしないと割っちまうんだよ」
「結局のところ? 皆さんに配り終えたってことで良いですか?」
「そう言うこった」
「うんうん、あたしらも頑張ったけど、あんたも頑張ったと思うよ」
まぁ良いか。褒めて貰ったことにしておこう。
みんなから少し離れたところにルシアンさんが居たから、気になっていたことを聞いてみる。
「ルシアンさん、明日は水車の様子を見に行きたいんですが、ご一緒して貰えますか?」
「それは問題ないさ。だが、商人ギルドの奴らが魔石コンロの整備を終えて、設置しに来るんだろ?」
「それはそうなんですが、コンロが増えても僕が用意した食材だけでは、今後の自立した生活の役には立たないでしょ?」
「今後の生活ってなぁ何だい?」
(んんん、どう説明したら良いのかな。すでに僕の料理を食べてしまったから、元の味気ない食事じゃ物足りないと思うんだよね。でも、ずっと僕がここに居て面倒を見る訳に行かないから、自分達でなんとかしてもらわないと……)
「何も隠し立ては要らぬのではないか?」
「そうだね。嘘はついてない」
「僕の料理は少しズルいんです。味付けや工程が、この国に無い物なんですよ」
「俺はみんなそれは分かってると思うぜ」
「ですが、僕の料理を『美味しい』『また食べたい』『ずっと食べたい』と思ってしまったら、どうしたら良いと思いますか?」
「自分で何とかする……か」
「そうです。誰かに頼るのではなく、自分たちで考え、自分たちで出来ることを増やして行く。少しずつ、1つずつ」
「そのために『水車』か?」
「そうです。先ずはこの国にある、使える物を使って、今よりも『美味しい物』を、です」
「なるほどな」
「そのための協力は精一杯させて頂きますよ?」
「ただ……」
「何だ? 言いにくいことか?」
「まぁ僕の、僕たちの本音なので仕方ないと思ってくださいね」
「あぁ、言ってみろ」
「「商人ギルドは信用できない」」
ダッシャーと声が揃っちゃった。でも二人とも同じ意見の様だ。
「なるほどな。そりゃ当然か。それでどうしたいって?」
「フフフ」
「いやな予感がするぞ」
「そんなこと無いですよ? ギルドマスター」
「その『水車』の傍に、『冒険者ギルド本部』を置いてください」
「うへ」
「ね? 嫌な話しじゃないでしょ?」
「いやいやいやいや、お前、それはあいつらもまとめて監視しろってことだろ?」
「あ、分かっちゃいました?」
「『ました?』じゃねぇよ」
「これで水車と商人ギルドが機能すれば、この国は良くなりますよっと」
「『っと』ってのは何だよ? お前もう関係ないと思ってるだろ?」
「ほほほ」
「逃がさねぇからな! 道連れだ」




