第三十一話 エメラルド・キングサーモンは強い?~サーモ・クッカー始動~
『隠された商人ギルド』とシアンさんの葛藤はさておき、今は晩ご飯の支度をしなきゃいけない。
「そう言う訳ですので、今夜は帰りが遅くなると王様にお伝えして頂けませんか?」
「分かりました。わたくしもお手伝いを、と言いたいところですが、不慣れなことをして足手まといになっても申し訳ありませんので、陛下にお伝えしに戻りますね」
その後はまた、ルシアンさんに『料理に集中したい』と一言伝えて、認識阻害の結界内へ戻る。
1口目のコンロに大きな鍋を掛けてお湯を沸かす。沸騰したらザルに入れた卵をドボン。
認識阻害の結界のお陰で、人前でも遠慮なく『道具』が使える。
愛用のダックスモチーフのキッチンタイマーを8分にセットする。
「こんなにたくさんの生卵を入れたのに、一瞬でまた沸騰したよ。すごい火力だな。それなのに目の前に居ても全然熱くならないや」
茹でている間に2口目のコンロに水を入れたボウルを置く。冷却モードの初始動だ。
青いツマミを回すと、シュゥゥゥ……と涼やかな白い霧が立ち上る。
次の瞬間、ボウルの底からパキパキと氷の結晶が広がり、あっという間に『氷水』が出来た。
「凍ってしまう訳でもなく、欲しい感じの氷水になるんだな」
「それが『お主専用』と言う事なのだろうな」
「僕の思うままに働いてくれるってことか、凄いな」
「ピピピピピピピピ」
「よし! 時間だ。茹で上がった卵を一気に冷やすぞ」
ミトンを嵌めてザルごと持ち上げて、そのまま氷水の中にザブンと入れる。
一瞬、少しだけ氷が解けたが、すぐにまた元通りのキンキンの氷水になった。
「卵、凍っちゃわないよね」
逆に不安になる。
大きなザルが1つしか無いから、氷水の中に茹で卵をゴロゴロと移す。
ザルに生卵を入れ、2回目の茹でタイムスタート。
氷水の中の卵は長く冷やしすぎると逆に剝きにくくなっちゃうから、3分程度冷やしたら認識阻害の結界から出て、そこに立って本人的には門番をしているつもりのルシアンさんに渡す。
「このゆで卵の殻をキレイに剥いてください。もし細かな欠片が残ってしまったら、水で洗ってくださいね」
『立ってる者は親でも使え』だ! ギルマスにタダ飯をそう何度も食べさせるほど僕もお人よしじゃない。
「おうよ! 任せろ」
「先に手をキレイに洗ってくださいね!」
(あれ? ボウルごと渡しちゃったら次の冷やしが出来ないな……)
効率重視だ! 【ホームサンタ】で大きなザルとボウルをポチる。
そうして次々に卵がゆで上がり、キレイに剥かれていく。
切っておいてもらった長ネギと一緒に『エメラルド・キングサーモンとゆで卵の煮つけ』を作っていく。
◇◇
結界から抜け出て1回戦目の出来上がった『煮つけ』を運ぶ。
一度に出来る量は少なく10人前がやっとだ。チマチマやっていると思ったのか、ダッシャーから疑問を投げかけられた。
「お主、アイテムボックス内での調理は無限ではなかったか? なぜチマチマやっておる」
「腹持ちを良くするためにゆで卵を入れてるだろ? だと煮汁がゆで卵に被る位に必要だし、魚を煮る時には魚同志を重ねちゃダメなんだよ」
『アイテムボックス内無限』を利用した【煮込みシェフ】としても、魚を重ねられないし、低温からコトコト煮込む調理器具だから、今回のグツグツと煮汁を鍋の中で対流させて一気に味を入れる料理には向かない。
何しろ【煮込みシェフ】だと4~5時間も掛かってしまう。
それよりも地道に大き目の鍋に重ならない様に魚を入れて、短時間で煮た方が早い。
まぁ、温冷の調律器が目新しくて、使いたいのもあるけどね。
「魚が煮えましたよ。まだご飯はありますか?」
「待ってました!」
「我も腹が減ったぞ」
「ダッシャーのはこっちのお鍋の中に入っているよ。ご飯の上に乗せる?」
「「乗せてくれ!」」
「いやだから、ルシアンさんはソッチに並んでくださいよ」
「良い匂いだねぇ。ご飯もとっても良い香りだが、それは何を作ったんだい?」
「ご飯もそれも初めての匂いだよ。お腹が鳴っちゃうねぇ」
「また行列ができ始めたよ」
「これはまたすぐに足りなくなりそうだね」
(こうなると思って、実は別口で【炊飯器】で大量にご飯は炊いてあるんだ。それを出そう)
アイテムボックスからホカホカご飯の入ったおひつを取り出す。
「追加のご飯です。これを配ってください。煮つけはすぐに煮上がるので、僕に任せてください」
そう言って、また結界の中に籠る。
「レイ・クリーン」
――チチチ、パパァ。
鍋を洗浄魔法でサクッとキレイにしたら、せっせせっせと煮汁を煮立てて魚とネギを入れて、クツクツクツ。
ゆで卵を追加してクツクツ。完成!
(和食の中でも煮魚は格段に早いな)
野菜を煮るにしてもレンジを使えば早いけど、サッと煮では味が染みない。その点、魚は丸ごとでも切り身でも煮詰めると身が固くなるからサッと煮が原則だ。
「しかもこんなに簡単に作ったなんて思えない味になってくれるし、ダッシャーの狩った魚そのものがまた美味しいのかもな」
「何か言ったか?」
「何でもないよ。美味しいかい?」
「うむ、相変わらずの良い仕事だ」
「ハハハ、どこでそんな言葉覚えたんだよ」
「お主は食べぬのか?」
「僕はまだ仕事が残ってるから、『ジャジャジャーーン!』塩むすびにしてみました!」
「何だ? それは」
「はふはふ、うん、美味しい」
「だから何だと聞いておる」
「炊き立て熱々のご飯を塩で握っただけの『おにぎり』だよ。具なんかなくても美味しいんだ」
「我も食べるぞ!」
「分かってるよ。はいどうぞ。熱いから気を付けてね」
ご飯が残っている内に、子供たちの分も握っておく。
「ねぇダッシャー、子供たちにはまだエメラルド・キングサーモンは強いよね?」
「何を心配しておるのだ? ベルとらんの方がエメラルド・キングサーモンより強いぞ?」
「戦って強いかってことじゃなくて、あの子達はまだ産まれたばかりで胃腸が発達していないだろ? 下痢したりしないか心配じゃないか?」
(………………)
「そもそもの話しがだ。先ほども言ったがスライムに排泄機能は無いぞ。らんもそんなやわな体はしておらぬと思うがな……」
「う、うん。でもやっぱり心配だから、食べる前に鑑定してみようかな」
「それでお主の気が済むのであれば好きにしろ。だが、ベルもらんも『煮つけ』」を食べると言うぞ。実際、美味いしな」




