↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/91

第三十話 認識阻害の結界張ります~サーモ・クッカーで魚の煮つけ~

 魚を煮付けるのは深型のフライパンで出来るけど、ゆで卵を作るのが手間なんだよね。温冷の調律器(サーモ・クッカー)をフル稼働させないと間に合いそうにないし……。

 でもこの温冷の調律器(サーモ・クッカー)もちょっと人前で使うのは恐い。



「ねぇダッシャー、このコンロって僕以外の人が使おうとすると拒むんだよね?」

「『涙のしずく』と『権限の付与』から二重に拒まれるだろうな」

「それって何が起こるか想像もしたくない感じだよね?」

「マナ・レクス様が『死んでも生き返らせる』と言っていたからな」

「だよね……」


「さっき商人ギルドで見た様な、隠ぺいって言うの? あやかしって言うの? あんなの掛けられないかな?」

「我に出来ぬことは無いが、お主にも弱いがスキル『隠ぺい』が付与されておるぞ」

「えっ?」

「商人ギルドの隠ぺいを破ったからだろうな」

「あれは僕じゃなくて、ダッシャーが破ってくれたのに僕に付いちゃうんだ」


「その『隠蔽』とやらは、どんな感じが良いのだ?」

「こう、ここに何かある様で探せなくて、でも誰か居るのは何となく分かって、でも何をしているのかは分からない。そんな感じかな」


 温冷の調律器(サーモ・クッカー)を人に触らせない。僕のスキルが人に知られない。でも僕はここに居て何か作業をしていて、声を掛けることは出来る。

 そんな感じが違和感なくスキルを発揮出来るだろうと考えた。



「『意識共鳴マインド・チャイム』!」


 ダッシャーに教えて貰った魔法を唱えると、共鳴したかの様にダッシャーが静かに、短く嘶いた。


 次の瞬間、僕たちの周囲数メートルに、ぼんやりとした歪みが発生する。

 物理的な壁ではなく、通りかかる人たちの視線が僕たちに向けられても、誰もが首を傾げ、そのまま興味を失ったように視線を外していく。

 そこに『僕がいる』ことは認識できても、何をしているかまでは見えず、認識しようとすれば意識の隅へと追いやられてしまう――完璧な認識阻害の結界(マインド・チャイム)だ。


「これで安心して調理が出来るよ」


 テーブルの上にマナ・レクス様から貰った【温冷の調律器(サーモ・クッカー)】を置いて、大量の卵と大きな鍋と大きなザルを用意した。



~【魚とゆで卵の煮つけ】~

■材料(2人分)

・魚の切り身:2切れ

・長ねぎ:1本

・ゆで卵:2個

◆煮汁

・醤油・みりん・砂糖:各大さじ3

・酒:大さじ1

・水:50ml

■下準備

1.切り身に軽く塩(分量外)を振り10分置く。出てきた余分な水分をキッチンペーパーで完全に拭き取る。

2.長ねぎは3〜4cmのぶつ切りにする。

3.卵は茹でて殻をむいておく。

■作り方

1.切り身を2切れ並べられる大きさの鍋に、◆煮汁の材料を入れて中火にかけ、砂糖を溶かしながらよく混ぜていく。

2.強火にし煮立ったところへ魚の切り身と長ねぎを入れたら、火加減を中火に変える。

3.アルミホイルなどで落とし蓋をし、鍋の蓋もして4分煮る。

※強火にしたり、蓋を開けっ放しにしたりしないこと。吹きこぼれそうになったら蓋を少しずらしてね。

4.約4分後、ゆで卵を投入し卵を転がしながら、タレが琥珀色の「照り」に変わるまでさらに2〜3分弱火で煮詰めたら、すぐに火を止める。

5.器に盛り付け、煮汁をかけたら完成。



「アンセルさん、どこ行ったんだい? 聞きたいことがあるんだよ」

「ここに居ますよ」


 上手く僕たちの姿は見えなくなっている様だ。


「またアンセル様が凄い事を平然とやってらっしゃる」


 遅れて現れたルシアンさんが「ヒュウッ」と口笛を吹いて現れた。

 この人には見えている様だけど、問題は無い。

 むしろ事情を知っているだけに好都合だ。


「遅かったですね」

「おぅ、エビ? のなんとかってヤツも美味かったぜ」

(ちゃっかりパスタも食べて来たんだ)


「後でちょっと相談があるので待っていて貰えますか?」

「そりゃ当然待つさ。あの白い米も美味そうだからな」

「食べすぎじゃないですか? お腹壊しますよ」


「我の食べる分が無くなるのではないか!?」

「それは大丈夫だよ。全部無くなっても材料買って作れるから!」



「お待たせしました。マルタさんどうしました?」

「国王様の側近のシアンさんがお見えだよ」


「シアンさん、何かありましたか?」

「陛下が王宮に戻らないアンセル様達を心配なさってますので、ご様子を伺いに来ました」

「あぁ、申し訳ありません。すっかりこんな時間ですが、この広場で炊き出しが始まってしまいまして、戻っている暇がなかったのですよ」


「炊き出しですか」

「お城でもやっていたことを、市民の皆さんに協力して貰ってここで始めたんです」


「そうですか。それはとても助かります。わたしくどもがやらなければいけないことを、お任せしてしまって申し訳ありません」

「いえいえ、元々そういうお約束でしたので、気になさらないでください」


「そういう訳にも参りません。何かお困りのことはございますか?」

「実は……」


 シアンさんに昼間、セオドア王が広場でブランチに『ガレット』を食べた後、母様たちに手伝って貰って焼いた『ガレット』が皆さんにも好評だったこと。長蛇の列になったが材料が切れてしまったこと。

 パン屋にライ麦粉なら多少はあるが、ライ麦のレシピを僕が知らないこと。

 そばを挽きたいが粉ひき水車が郊外の水車小屋にしかなく、今は難しいこと。

 ガレットの評判が広まり、集まった人への晩ご飯に困ってしまったこと。

 そんな中、僕が入手しやすい『お米』を提供しているが、これはこの国では貴重過ぎて先に繋がる物ではないこと。

 等、ひとしきり話した。


「それで、国庫に蕎麦やライ麦の粒の備蓄があると聞いたのですが、それを提供して頂きつつ、粉にする方法があれば、それが一番助かります」

「遠い記憶の片隅に、街外れに小さな水車があったのを覚えています」

「それな。今でもあるぜ」


 ルシアンさんが思わぬ言葉を口にする。


「そうなんですか? でも皆さんご存知ない様でしたけど?」

「そんな場所に心当たりは無いか?」


「あ! 商人ギルドですか?」

「正解だ」


「ただ、動いているかと言えば今は止まっているな」

「え? そうなんですか……。理由は分かりますか?」

「まぁ、アンセル様なら何とか出来るかも知れねえな」

「ん?」

「そうだな。我もあの力があれば可能と思うぞ」


 ダッシャーまでまた僕を持ち上げて、そんなこと出来る訳無いじゃない。


「あのギルドのオタク共が興味を持った『あれ』だ」

「あっ! 『あれ』か」


「でも今からだと真っ暗で危ないよ。明日の朝、魔石コンロを持ってレイノスさんたちが来てくれるから、その時に相談してみようよ」


「アンセル様、わたくし一人だけ取り残された様です。その水車はどこにあるのでしょう?」


 側近のシアンさんが申し訳なさそうに口にする。


「この街の『隠された商人ギルド』ですよ」

「『隠された商人ギルド』ですか? わたくしの記憶では『商人ギルド』は今ではすっかり廃れて、建物はもはや姿かたちもなく朽ち果てたかと」


「この国が『魔道具』や、そもそも商人ギルドを必要としなくなった為に、わざとそう見せかけて好きな研究に没頭していたみたいですよ」

「何と――。その様な勝手が許されるはず。いや、そもそも国の管轄ではないのだ。だが、だからと言ってそんな自由が通るものか?」


 あぁ、この人は真面目なんだなと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。