第二十九話 粉ひき水車が使えないんです~魔石コンロで白米炊きます~
女王蜂をスリングに入れてらんちゃん達に任せたら、ダッシャーに乗せて貰って急いで広場に戻る。
◇◇
マルタさんが僕たちを見つけて駆け寄って来た。
「アンセルさん。良かったよ、戻って来てくれて」
「どうしたんですか?」
「いやね、こんなこと言うのも、図々しいと分かっちゃいるんだよ」
「はい、何でしょうか?」
「あんたに教えて貰った『ガレット』だけどさ、大人気だったのは知ってるだろ?」
「ええ、長蛇の列でしたね」
「お陰さまで大忙しさね。それで材料が終わっちまって、まだたくさん並んでたから断るのも大変だったのさ」
「あたしらもこんなに忙しく動いたのも久しぶりで、とても嬉しかったんだよ。だから断るのも悪くてね」
「あぁ、材料が足りなくなったって事ですね? 粉屋さんには聞いてみましたか?」
「粉屋も列に並んでたから、様子は分かってたと思うんだよ」
「こんな時だから、お金は後でどうとでもしようと思って相談したんだがね」
「こんな時だから、他に買い手もつかないだろうと、アンセルさんに全部売っちまったんだそうだよ」
「ご家庭に残っているそば粉は無いんですか?」
「そばは残ってないわけじゃないんだが……全部『粒』のままでね」
「あぁ、保存のために粉にはしていないってことですね。粉にする時はどうしているんですか?」
「街から少し行ったところに『水車小屋』があるんだよ。今は避難生活中で外には出られないだろ? その水車が使えないから粉にできなくてさ」
「他にはどんな穀物があるんですか?」
「ライ麦もあるんだが、あれは人気がなくてね」
「そうなんですか? ライ麦は栄養価も高くお勧めなんですけどね。普段はどうやって食べているんですか?」
「普段かい? 粒のまま豆や野菜と一緒に煮たり、たまには塩漬けの肉が入るかね。大鍋でくたくたになるまで煮ると、どろっとしたスープや粥になるのさ」
「俺はパン屋だが、週に一度王宮のカマドが解放されるから、そこでライ麦や雑穀なんかを黒パンに焼き上げるのさ。それを街のみんなが1週間分買って、薄くナイフで切ってスープに浸して食べたりするのさ」
「パン屋さんにはライ麦や雑穀の、粉になった物があるってことですか?」
「蕎麦もライ麦も一定の税分を国に納めるんだよ。パン屋は国からライ麦を買って水車小屋を借りて粉にするんだが、水車は今は使えないだろ? 残念ながら粉は黒パンにする予定だったライ麦しか無いね」
(ライ麦粉は少しあるってことか。でもライ麦だけのレシピ知らないしな)
「どっちにしても今は難しいって事ですね」
「やっぱりそうかい、アンセルさんでもどうにもならないかい」
「晩ご飯どうしようかね」
「昨日と思うと『ガレット』の評判で、人も多く集まってるからね」
「お城に行けばトトさんが何か用意してくれてるかね」
「お米、で良いですか? 今は緊急事態と言うことで、僕が用意しやすいものですみません。そば粉やライ麦は入手が難しくて……」
チラッと確認はしてみたけど、【スーパーサンタ】に『そば粉』も売って無いし、当然『ライ麦』もない。押し麦とか大麦はあるけど高いし、お米が安くて早くて簡単に大量に用意出来るしね。
「お米を扱ったことがある人はいますか?」
「あんたあるかい? あたしゃ見たことも食べたこともないよ」
「私は今朝、お城の朝ごはんで貰ったよ。あれは今まで食べたことの無い、香り高くて柔らかで、幸せな食べ物だよ」
「そりゃうらやましいね。私もあやかりたいよ」
「明日もお城で食べられると嬉しいね」
一つの質問でおしゃべりが止まらない……。
「えっと、つまり皆さんお米を扱ったことはないんですね?」
「そうさね。食べたこともないなら見たこともないよ」
アイテムボックスからお米と炊飯用の鍋と、キャンプで使った丸型飯ごうを取り出す。
「これがお米です。今朝は少し違うもの(無洗米)を使いましたが、今回は普通のにします」
「何が違うんだい?」
「説明は難しいんですが、一つ言えるのは、今後、避難生活が終わって、皆さんが普段通りの生活に戻られた後にも使える方が良いので、こちらにします」
「またアンセルさんがおかしなことを言ってるよ。普段通りの生活に戻れば食べるのは粥や黒パンさね」
「先に冷たい水をボール一杯用意します」
雑貨屋さんで買った陶器の深鉢に水を入れる。
「次にこのカップでお米をキッチリ計ります」
雑貨屋さんで買った陶器のカップでお米を計る。
「炊き上がりに影響するので、しっかり計ってくださいね」
「ザルを用意したらこの中に計ったお米を入れます」
一応、プラスチックやステンレスは避けて、竹製のザルを取り出した。
「何だい? それは」
(あ、こっちにはザルはないのか)
「えっと、こんな風に植物で編んだ、水は通すけど細かい目の容器はありますか?」
「それならこれで良いかね?」
う、うん。どう見ても編み目が大きい。道具を間違いなく選んで貰うには配らないと無理か……。
「編み目が荒いとせっかくのお米が落ちてしまいます。ザルは使わない方法でやりますね」
「深鉢の中に水を入れたら、軽量したお米を一度に入れます」
「鍋じゃなくて鉢で良いのかい?」
「ササッと手で優しくかき混ぜます」
「えぇ? 水で洗うのかい?」
「鉢の縁に手のひらを添えて少しだけ隙間を作り、お米が流れ出ないようにしながら、濁った水だけをそっと捨てます。これを3回ほど繰り返します」
「その白いのは栄養があるんだろ? せっかくの栄養分を捨ててしまうのかい?」
「水がもったいないよ」
「この白いのはお米の表面の糠や汚れです。食べられないんですよ。でもこの水は捨てずに取っておけば掃除にも使えますよ」
そう言って、一度目、二度目、三度目のとぎ水を移しておいた桶を見せる。
(やっぱり水って貴重なんだ。雑貨屋で桶を買っておいて良かったぁ)
マナ・レクス様から「ちょっと遅いクリスマスプレゼント」で貰った【温冷の調律器】ではおかずを作るから、マルタさん達に任せておいた魔石コンロでご飯を炊く。
【ホームサンタ】を開く。
魔石コンロを使い慣れていない人が使うには、まずは道具だよね。ってことで『鋳造鉄ヒートディフューザー』と『深型のフライパン』をポチる。
「この鍋と飯ごうでご飯を炊きます。『ガレット』と違って火加減が難しいので、とろ火が難しい旧型の魔石コンロには、この板を間に挟んで使ってください」
旧型の魔石コンロの上には『ヒートディフューザー』を乗せて、上に浸水済みのお米を入れた鍋と飯ごうをそれぞれ置く。
~【鍋での炊飯】~
【全体工程の目安】
浸水(30〜60分) ➔ 沸騰まで(約5分) ➔ 弱火(10〜12分) ➔ 蒸らし(10分)
■材料(白米2合分)
・白米:2合(約300g)
・水:400〜440ml
※1合で炊く場合は、お米1合に対して水200〜220mlにしてください。
■炊き方
1.お米を優しく研いだあと、しっかりと水に浸ける。
※芯が残るのを防ぐため、夏場は30分、冬場は1時間を目安に必ず浸水させてください。
2.計量した水と一緒にお米を鍋に入れ、蓋をして中火〜強めの火にかけ、鍋の隙間からブクブクと泡が出たり、蓋がカタカタと鳴ってしっかり沸騰するまで約5〜7分待つ。
3.沸騰したらすぐにごく弱火(とろ火)にし、蓋をしたまま10〜12分加熱を続ける。
4.時間が経ったら火を止め、蓋を開けずにそのまま10分置いて余熱で蒸らす。
5.蒸らしが終わったら、しゃもじで底から空気を入れるようにさっくりと混ぜて完成。
※沸騰している間は「ブクブク」「グツグツ」と水が泡立つ音がしていますが、「チリチリ」「パチパチ」という乾いた高めの音に変わったら炊き上がりの合図です。
「ごはんの良い香り」から、ほんのり香ばしい「おこげの匂い」に変わった瞬間が火を止めるベストタイミングです。
さて、僕は【温冷の調律器】で『エメラルド・キングサーモンとゆで卵の煮つけ』を作りますか。




