第二十八話 らんちゃんは通訳出来ちゃいます~簡単チーズリゾット~
「お主、調子は戻ったのか?」
「うん、甘い物食べて休憩したからね。さっきよりは良いよ。ありがとう」
「だが、まだ少し顔色が悪いな。――よし、我に触れてみよ」
ダッシャーに言われた通りに、両手で首筋に振れる。
――さわさわふわわわひゅぅぅぅ。
温かな粒子が僕の体に纏い、吸収されて行くのが分かる。
いつもの魔素還元法習得時の、表面を魔素が巡って来る感覚とは違う。
――――スゥフッ。
ダッシャーからこぼれ出ていた光の粒が消えて行く。
「どうだ?」
「すごいよ。元通りを通り越して力が湧く感じがする。ありがとう」
「あれ? そう言えばさっき僕が『魔力切れを起こしたから魔石コンロの洗浄が出来ない』って言った時に、今のこれやって貰えば、その場で復活したってこと?」
「まぁそれはそうだが、あの場ではこれ以上お主に無茶をさせたくなかったからな」
「ホントにありがとう。やっぱり君は優しいね」
「お主に倒れられては、美味い飯が食えぬではないか」
「ハハハ、その通りだね。でも、ベルちゃんの為に怒ってくれた時も、本当に嬉しかったんだ」
「ベルもらんも、我の子だからな。大切だ。まぁついでに言えばお主もな」
「フフフ、僕もだよ」
「ママァお腹空いたぁ」「ママァお口乾いたぁ」
ベルちゃんとらんちゃんが起きたみたいだ。
「あれ? 少し色が変わって……る?」
透明だったベルちゃんの体は、ほんのり薄い水色に、らんちゃんも真っ白な雪うさぎみたいだったのが、うっすらと淡いクリーム色になっている。
「お主に魔力を流した際に、一緒に居た子らにも流れて進化をしたのかも知れぬな」
「あれ? だとまさか僕も進化してる?」
気にはなったが、昔から自分の評価は気にしない様にしていた。もし思っていたよりも評価されてないと気付いてしまったら、やる気が無くなるのも心理でしょ? 自己満足だけど評価されてると思えば影響は無いモンです。
でもダッシャーには勝手に鑑定されたみたいだ。
「お主、色々と上がっているぞ。ベルとらんが『家族』で、我も『従魔』から『家族』になっているな」
「だって君たちは僕の『家族』でしょ? そこは当然だよね」
「ベルちゃん、らんちゃん、今日はたくさん遊んで疲れたから、消化の良い物にしようか。チーズのリゾットで良いかな?」
「「「良いよ~(ぞ)」」」
(まっ、君たちこれも食べたことは無いと思うけどね)
~【簡単チーズリゾット】~
■材料(2人分)
・ご飯:茶碗2杯分(約300g)
・牛乳:200ml
・水:100ml
・コンソメ:小さじ1
・バター:20g
・ピザ用チーズ:ふたつかみ(約60g〜80g)
・粗挽き黒コショウ:適量
■作り方
1.フライパンに、牛乳、水、コンソメを入れて中火にかける。
2.フツフツと温まってきたら、ご飯を加える。
3.ヘラで軽くほぐしながら1〜2分ほど弱火で煮詰める。
4.水分が少し減って、とろっとしてきたら火を止め、バターとチーズを入れる。
5.余熱でチーズが完全に溶けるまで、ぐるぐると大きく混ぜ合わせたら完成。
「美味そうな匂いだな。俺もこの列に並ぶとするか」
ルシアンさんも一緒に食べたいらしく、ちゃっかり列にもなっていないダッシャーの後ろに並んだ。
~【甘やわポテトサラダ】~
■材料(3〜4人分)
・じゃがいも(男爵):3個(約400g)
・砂糖:大さじ2
・塩:小さじ1/3
・白コショウ:少々
・バター(またはラード):10g
・玉ねぎ:1/4個分(みじん切り)
・人参:極少々(みじん切り)
・マヨネーズ:大さじ3
■作り方
1.玉ねぎと人参は細かく刻み、じゃがいもは皮をむいて一口大に切り、600wのレンジで5~6分加熱する。
2.熱いうちにボウルに移し、マッシャーで滑らかになるまでしっかり潰す。
3.芋が熱いうちに、砂糖、塩、白コショウ、バターを加えてよく混ぜ合わせる。
4.粗熱が少し取れたら、玉ねぎと人参を加える。
5.マヨネーズを加え、全体をなめらかにまとめる。
「みんなお待たせ、出来たよ」
「「「「いただきまぁす」」」」
「アチアチ、はふっはふっ」
「お腹が空いてすぐに食べたいのは分かるけど、少し冷めるまで待とうよ」
「はい、あ~ん」
ベルちゃんとらんちゃんには、「ふぅふぅ」して「あぁ~ん」で食べさせる。
ダッシャーがジト目で見ているが、ルシアンさんも居るし無視だ。
「アンセル様の作る物は初めて食べる物が多いが、やはりどれも美味いな。なぜだ?」
「『好きこそ物の上手なれ』ですかね」
「何だそれ?」
「とにかくコヤツの作る物は美味いのだ。それで良いではないか」
「「うん、美味しぃねぇ」」
「ダッシャーは物足りないだろうけど、街に戻ったら用意するからもうちょっと待ってね」
すっかり日も傾きかけたし、そろそろ戻らないと街の皆さんの晩ご飯が心配だ。
「街の皆さんが困っているといけないので、そろそろ街に戻りますね」
やっと僕たちへの恐怖心も消えたのか、見送りに出て来てくれた商人ギルドのギルドマスター、レイノスさんに挨拶をする。
「ええ、この分だと今夜中には魔石コンロの整備も終わると思います」
「では明日の朝にまた来ますね」
「いえ、動かしてみて最終調整をしたいので、お届けに上がりますよ」
「そう言うものですか。では広場の噴水前に居ますので、よろしくお願いします」
アイテムボックスからお昼に作った『エビとたっぷりコーンのクリームスパ』を取り出す。
「これ、お昼に作ったんですが、街の皆さんにお出しする前にこちらに来てしまったので、残り物みたいで申し訳ないですが、皆さんで食べてください」
時間経過なしボックスに保管してあったから、湯気も出て、美味しそうな匂いが充満する。
――わぁぁ!
「おぉ、これは何ですか?」
「何とも良い香りだ」
「初めて見る食べ物ですよ」
聞き耳を立ててこちらの様子を気にしていた皆さんが、パスタに釣られて出てきた。
気を取られている間に、コッソリと商人ギルドを後にする。
外に出て振り返ると、またそこには結界が張られていて、僕にはハッキリとは建物を見つけられなかった。でも薄っすらとだけど、何とか揺らめく輪郭位は捉えられた。
急いで街に返ろうとダッシャーの背にまたがろうとしたら、らんちゃんがスリングから飛び出した。
「こらこら、危ないでしょ?」
「ママぁ、これなぁに?」
らんちゃんは少しだけ伸びた角で、薄っすらと揺らめく外壁の隠蔽ツルに、絡め取られて身動きが取れなくなっている『虫』を下からすくい上げた。
「ちょっと見せて貰っても良い?」
らんちゃんから『虫』を受け取る。
「これ女王蜂だよ。どうしてこんなところに居るんだろ?」
「キュピ、ピピキュ、ピュ」
「ピピ、ピーー」
らんちゃんが『女王蜂』と話しをしている様だ。
「らんちゃん、ハチさんの言葉が分かるの?」
「うん、ちょっとだけ分かるの」
「そ、そうなんだ」
「それで何て言ってるの?」
「お空で大切な何か(婚姻飛行)が終わったの。新しいお家を探して高く飛ぶの。でも落ちちゃったの」
「我の結界で外に出られなくなったと言うことか」
「でも外に居たら噴火に巻き込まれてたんじゃないの? 結果オーライじゃない?」
「そうだな。人の住まう村には我の結界が届いているが、小さな『虫』までは守れん。時間も無かった故な」
「お腹空いたってぇ」
「え? らんちゃんお腹空いたの? 今、食べたばかりだよね?」
「ううん、この子ぉ」
「それもそうか。婚姻飛行で疲れてるのに、こんなところで身動き取れなくなってたらお腹も空くよね」
「ピーピピ……っ」
「お腹の子どもがしんじゃうって泣いてるよ」
「っ! 僕、ローヤルゼリー持ってるから、すぐにあげるからちょっと待ってね」
冷蔵庫から『ローヤルゼリー』を取り出す。
「生の『ローヤルゼリー』だよ。さあ食べて」
付属のスプーンだと大きすぎるから、指先にちょこんと乗せて食べさせる。
(小さいから食べてるのか分かんないな)
「らんちゃん、どんな感じ?」
「恐いの? 大丈夫だよ『あーーん』」
女王蜂は恐る恐る、前足で僕の指をがっしりと掴んで、小さな口でぺろぺろと舐め始めた。
「良かった。食べてくれてる」
がっしり掴んだ指先の様子からそれは分かったけど、そもそも食べる量が少ないから満足したのか分からない。
「らんちゃん、もうお腹いっぱいって言ってる?」
「うん、ねんね」
僕の指先で寝られても困る。アイテムボックスを漁って、王籠を取り出した。以前におばあちゃんから貰ったけど使っていない新品だ。
指先に乗って今にも眠ってしまいそうな女王蜂を、王籠に入れて手に持っていたら、らんちゃんにせがまれた。
「一緒にねんねするの」「するの」
スリングに入れて良いとお許しを頂いた。
スリングの中には子供たちの『ゆりかご』がそのまま入っていて、これが揺れや振動を全て吸収してくれる。流石はマナ・レクス様の作られた傑作だ。
「さあ、急いで街に戻ろうか」




