第二十七話 涙のしずくは最上級の魔石でした~中身は温冷の調律器~
マナ・レクス様から貰ったメッセージカードを、アイテムボックスにしまって段ボールを開ける。
箱の中には大きなコンロが入っていた。
「これって魔石コンロの最新式?」
「これは最新式どころか神式の魔道コンロだな」
「道具屋のバルナスさんのところの新型魔石コンロみたいなIH式だよね」
「『IH式』が分からぬが、あれと比べては、マナ・レクス様も拗ねてしまうぞ?」
「そんなに凄い性能なの?」
「これは天界に住まう我らでさえ、滅多にお目にかかれぬ極上の品だろうな。マナ・レクス様もずいぶんと粋な計らいだな」
「ホーホー、ダッシャーには分かってしもうたか?」
マナ・レクス様がホログラムで現れる。
「マナ・レクス様、凄いコンロをありがとうございます。僕にはちょっとまだピンと来てないですけど……」
「そうじゃの。使ってみねば分からぬじゃろうて」
段ボールから取り出して、テーブルに置く。
それはとても軽く、魔力切れしてヘトヘトの僕でも軽々と取り出せた。
「魔石コンロと同じ様にこのツマミを回せば良いのですか?」
「その前に『魔石』を嵌めねば使えぬぞい」
「それはそうですね。電力は必要か。えっと……。でも僕、魔石持ってないです……っ」
「ホーホー、有るではないか? しかもそれ、最上級じゃぞ」
「え?」
「お主が持っておる、ベルとらんが流した『涙のしずく』だ」
「あれ、魔石なの?」
「ホーホー、しかもじゃ。この子らの意思に反応する唯一無二の、お主にだけ扱える代物じゃぞ」
スリングの中に一緒に入れて有った、二つの『涙のしずく』を取りだす。
泣き疲れて眠っている二人を起こさない様に、そっとだ。
「この『涙のしずく』が僕だけに反応する『魔石』ですか」
掌に乗せて眺めてみても変化はない。ピンとこなくて首をかしげる。
「分からぬかの。ではちと見せてやろうかの。ルシアンを呼んでこ。ホー」
まだ商人ギルドに残っていた、冒険者ギルドのギルドマスターのルシアンさんを呼びに行く。
「お呼びですか?」
「アンセルの掌にある石に触れてみよ。そっとじゃ。ホホ―」
「いやな予感しかしないんだが……」
恐る恐る、指先を『涙のしずく』に伸ばす。
手を伸ばした瞬間、『涙のしずく』は警戒を示すように、明滅を始める。
ピキ、ピキピキ……。
ルシアンさんは嫌そうな顔で救いを求めるが、マナ・レクス様はにこにこ笑っているだけだ。
仕方なく更に手を伸ばして、触れそうになった瞬間!
チチチチ……! ピパシュッ!!
『涙のしずく』からパチパチと電気を帯びた細い稲妻が、幾筋もの光の糸となって、ルシアンさんの手に絡みつく。
「痛っ! いてててて――っ」
「じゃろうの。成功じゃ。ホホ―。して、アンセルは痛かったかの?」
「いえ、じんわりと温かさを感じただけです」
「『涙のしずく』に込められた『拒絶の理』じゃ。ベルとらんの悲しみが、お主の魔力と溶け合い、絶対の結界を結んでいるのじゃよ。ホー」
「でもよ、マナ・レクス様。痛いことは痛いが、我慢出来ない程じゃないんだよな? 悪党が本気で盗もうと思えば出来るんじゃないですかね?」
ルシアンさんが実体験から突っ込みを入れる。
「ホーホー。『本気で盗む』じゃと? 試してみるかの?」
「あ、いえ、止めておきます。この感じだと死にそうですんで」
「儂、神じゃもん。死んでも生き返れるぞい? ホー」
(…………)
「……これ、そんなに危険な物ですか? それを魔導コンロにはめ込んで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃ。そもそもそれはアンセルだけに扱えるコンロじゃからの」
「ふ、ふぅ~ん」
「まだ心配かえ? ルシアンが触れようとした時に、お主は痛くはなかったのじゃろ? ホッホ―」
「あ! なるほど、僕専用って言うのはそう言うことですか」
「コンロの中心に穴が二つあるじゃろ? 嵌めてみよ」
穴の中が水色に渦巻いている方に、ベルちゃんのしずくを、オレンジ色にメラメラと揺らめく方に、らんちゃんのしずくを嵌めた。
カチ、カチ、――――シュゥゥゥー……。
二つのしずくはコンロの天面ギリギリのところまで埋め込まれ、止まった。
これではどのみち『涙のしずく』だけを取り出すことは無理そうだ。
「魔石の上に手をかざすのじゃ。ホッホー」
「こうですか?」
赤と青の『涙のしずく』の上に右手をかざす。
スッと引っ張られた感じがして、暖かい魔力の様な物が流れ込むのを感じた。
「これでこのコンロはアンセル専用じゃ。魔石もじゃが、コンロ自体、他人は使うことが出来ぬぞ。ホホン」
「共通でも良かったんですが……」
「ダメじゃもん。これでアンセルが美味い物を儂に作るのじゃ。ホホン」
「ア、ハイ。ワカリマシタ」
魔道コンロは薄型のIHコンロの様な形で、ツマミが6つ付いていた。
磨き上げられたルビーとサファイアのような、透明感のある赤色と青色のツマミが2つで1セット、これが3セットだ。
天板のフチから中心に向けて、北欧の刺繍を思わせる、花柄の幾何学模様が描かれ、3つのヒーターは大きく重なり合う様に配置されていた。
「赤のツマミを右に回すと加熱じゃ、ホー。青のツマミを左に回すと冷却じゃぞ」
試してみる。ツマミがカチカチと心地よい音を立てて回る。カチカチ、戻す。
「1つのヒーターにスイッチが2つですが、もし間違って両方同時に回したらどうなりますか?」
(まさか爆発したりしないだろうな?)
「ホホホホ―、大丈夫じゃ。ちゃあんと『安全装置』なる術式も組み込んであるぞよ」
試しに赤を回したままにして、青も回してみる。
カチカチ、カ――。シュッ。
青色のツマミを回した瞬間に、赤色のツマミがゼロ位置へと戻った。
「なるほど、これなら安心ですね」
「天板のヒーター部分が重なっているんですが、どこにお鍋とか置けば良いんでしょうか?」
「どこでも良いのじゃぞ。ホッホ―」
「どこでもって?」
「『どこでも』じゃ! おぉ、魔石の上とツマミの上はダメじゃぞ。ホー」
「天板全体が熱くなるってことですか? それはそれで危なくないですか?」
「ほんに心配性じゃの。大丈夫と言うておろうが。ホーホー」
「ん? でも熱くなるのが全体なら、ツマミが3つでどうやって制御するんですか?」
「ホー? 適当じゃ。上の方は真ん中のツマミじゃ、右の方は右のツマミ、左の方は左のツマミじゃ。ホン。まぁお主が使いたいところが使える場所じゃな。多分じゃがの。ホホ―」
(これは使ってみた方が早いな)
「分かりました。色々とありがとうございます」
「この『温冷の調律器』で、また美味い物を馳走してくれの。ホーホー」
ホログラムが消えた。
「色々あって疲れたから、とりあえずコーヒーでも淹れてみようか」
ケトルにペットボトルの水を入れて左手に持つ。
「奥のヒーターを使ってみようか」
真ん中のツマミの『赤』を右に1つ回す。
天板の花模様のヒーターの真ん中に「ポンッ」と黄色の花が咲いた。
もう1つ回すと、黄色の花と少し重なるように「ポンッ」とオレンジ色の花が咲いた。続けて回すと反対側にピンクの花が咲いた。他の花たちと重なる様に次々と花が咲く。
「この花が火力の大きさなのかな?」
ケトルを置いてみる。
――――シューシューシュー。
「沸くまで5分か、中火位かな。後は使いながら慣れて行こう」
ペーパードリップでコーヒーを淹れて、ダッシャーには砂糖とミルクたっぷり温めのカフェオレにして差し出す。
「ルシアンさんも飲みますか?」
「良い香りだな。何だ?」
「僕の故郷の飲み物ですよ。まずはブラックでどうぞ」
「真っ黒い飲み物なんてちょっと躊躇するな」
「苦かったら砂糖とミルクを入れてくださいね」
「お茶うけにクッキーでも食べますか? 以前に焼いてアイテムボックスに保管してあったんですが、ちゃんと『脱酸素剤』も入れてあるのでサクサクだと思いますよ」
「またアンセル様が訳の分からないことをおっしゃってるよ。何だその『脱なんとか』ってのは?」
「あぁ、こっちに無ければ聞かなかったことにしてください。疲れて頭が働かないみたいです」
「そもそもクッキーって何だよ?」
~【抹茶クッキー】~
■材料(30枚分)
・バター:100g
・砂糖:50g
◆粉類
・薄力粉:150g
・アーモンドプードル:20g
・抹茶:大さじ1
■下準備
1.◆の粉類を混ぜて振るっておく。
2.バターは柔らかくなるまで室温に戻しておく。
3.作り方4の前にオーブンを170度に余熱する。
■作り方
1.ボウルにバターと砂糖を入れ、泡だて器でよくすり混ぜる。
2.振るった◆粉類を一度に加え、木べらやゴムベラでさっくりと混ぜる。
3.生地をラップで包み15cm位の棒状にして冷蔵庫で1〜2時間寝かせる。
※急いでいる時は冷凍庫で30分程度寝かせても切りやすくなりますよ。
※四角い棒状が簡単ですが、丸でもOKです。
4.冷やし固めて切りやすくなった生地を5ミリ厚さにカットする。
5.170℃に余熱したオーブンで20分焼いたら網の上で冷ます。
「ダッシャーももちろん食べるよね? 抹茶だから子供たちにはちょっと苦いかも知れないから、後で起きたら別のをあげるから、食べちゃって大丈夫だよ」
「カフェオレも良いが、ミルクが飲みたいぞ」
「はいはい、ちょっと待ってね」
ダッシャーの器にたっぷりとミルクを注ぐ。
「街中に戻ったら食器を買おうか」




