第三話 【閑話】ダッシャーの昔話:デルポフ国への神託
ダッシャーの昔話、デルポフ国で昔起きた出来事です。
本編は次回から再開します。
百年ほど前のこと、悪だくみをする人間どもが集まって神の名を騙り国を興した。
元々その国の王は病弱で、国の実権は『神殿騎士団長』が握っていた。
その者は、下層の生まれでありながら、天性か環境ゆえか、口八丁手八丁の人心掌握に長けていた。
人の理解を絶する速さで国の中枢へと上り詰めたその手腕は、もはや異様ですらあった。
それ故に、人々は彼の中に人ならざる者の影を見、その人智を超えた躍進は、いつしか『神の寵愛』と混同された。
人心を掌握した彼は、王の病をも『神の怒り』とし、病弱な旧王を廃して、自らを王とする新たな王朝を事実上スタートさせた。
『デルポフ国王』となった彼は、事あるごとに「神託を授かった」と偽り、金品や食料に止まらず、美しい娘と見れば献上をさせた。
飽きれば奴隷商へと売り渡され、それは酷い扱いを受けたと言う。
しかし、彼が要求する過酷な献上ですら、人々は『神への供物』として喜んで受け入れた。
次第にそれは自国内に止まらず、近隣諸国へと干渉をする様になる。
『神は天に在り』とする他国の民は、地の王を崇めることを断固として拒んだ。
彼らは信仰を拒絶し、供物を捧げることにすらも応じなかったのである。
これをよしとしなかったのは『デルポフ』国王と、利権に群がるその取り巻き達であった。
「世界の調和を乱す大罪」。その一言で略奪行為は繰り返される。
偽りの神の軍門に降ることなく、天の神を仰ぎ続ける隣国の民からは、正しき神へ救いを求める祈りが捧げられた。
◆◆◆
ある時、『神授の森』(最初に降り立った森)に立ち入った不届き者が居た。
そこに住む生き物たちを狩ると、その場で煮炊きを始める。
連れ去られた女たちは酒宴の道具として弄ばれ、男たちは娯楽としての狩りの的にされた。
森には悲鳴と、不当に流された血の臭いが立ち込めた。
そこまでされては正しき神が放っておく訳もなく、創造神『マナ・レクス』様の神託がくだされた。
トナカイ達が元の姿となり彼の国の遥か上空に立ち、神の声を伝える。
「お主らは儂の何かの? 儂は悪行を働く輩を使途としてはおらぬぞ。これまでも幾度かの通達はしたはずじゃが届いておらんかの?」
その声は近隣諸国や『神授の森』にまで届く。
悪党たちは慌てふためく。
『デルポフの国』では1人の人物が前に出て言った。
「そやつは神ではない。わたしこそが神なのだ」
担ぎ上げられて勘違いしたのか引き下がれなくなった足掻きか、『デルポフの国王』がそう言った。
瞬間、神獣達から強大な魔法が『デルポフ国』へと放たれた。
神獣が一声吠えれば、空は瞬時に鉛色へと塗り潰され、猛るような雷鳴が大地を震わせた。
次なる神獣の咆哮とともに大地は裂け、偽りの王が築き上げた玉座を飲み込まんばかりに口を開けた。
別の神獣が空を力強く踏みしめると、凄まじい地響きと共に連なる山々が音を立てて崩落した。
更なる神獣の舞いは、激しく雨を降らせ、静かだった川は 怒涛と化して牙を剥き、街を清めるかのように濁流がすべてを押し流した。
口八丁で築き上げた偽りの権威は、降り注ぐ豪雨と共に泥の中へと溶けて消えていた。
天を割り地を削る本物の神威を前に、『デルポフ国王』は叫ぶことすら忘れ、ただ放心してその場にへたり込んだ。
神の凄まじい怒りの全てが自身に向いた時、人が人でいられるはずもなく、焦点の合わぬ瞳で荒れ狂う海を見つめたまま、男はもはや言葉を発することもなく、力なくその座を退いた。
◆◆◆
『神授の森』に立ち入っていた悪党どもは慌てて自国へと逃げ帰ろうとしたが、神獣たちの怒りは『神授の地』にも届く。
嵐は木々を揺らし雷鳴は激しく轟き、全てを恐怖に陥れた。
激しい嵐の中で必死に許しを請う者たち。
神は「一度限りじゃぞ」と過ちを許し、二度と悪行を働かぬことを誓わせると『デルポフの国』へと奴らを吹き飛ばした。
捕らわれ、連れてこられた者たちは神の手によって元の地へと転送され、『神授の地』に残されたのは、『神授の森』に棲んでいた生き物たちだけとなった。
この時の神託(神獣達の怒り)で『デルポフの国』と『神授の地』の境界は崩れ去り海にて隔たれることになったのだと……。
◇◇◇
「それが何でダッシャーだってバレてんの?」
そこでつい揃って姿を現し、名乗ってしまったらしい。
「我ら創造神様の神獣、使途として神託をくだす者。我が名は『ダッシャー』!」
――ダメだろそれ……。
ペガサスユニコーンとして人類に知られている存在はこの時に登場した『ダッシャー』だけらしいし……。
神獣様が空から降り立ったら、また神託が下されると思ってビビるよね。あの様子だと少なからず皆、悪さの一つもしてるだろうしね。
「そんな国に何で立ち寄ったの?」
「………………」
(あっこれはすっかり忘れてたって感じだな)
「ダッシャー、君って案外と……。ハハハ」
「……笑うでない」




