第二話 デルポフ国で使途様扱い~お供は【ペガサスユニコーン】~
チチチチチ……ピピピピピ……。
「物凄く透き通った森だな」
「この森はマナ・レクス様の加護に包まれているからな」
「うおっ!」
振り向くと陽の光を浴びて神々しいまでに輝く鬣のペガサスが立っていた。
「え? その姿は何?」
「これが我の本来の姿だ。天界での姿は仮初だとマナ・レクス 様が言っておっただろうが」
なるほどねって納得するしか無い。キラキラしいのが癪だが神獣様だしね。
「さて朝だな。腹が減ったぞ」
「さっきまで飲み食いしてたじゃないか」
「あれは晩飯だ。今は朝だろ。朝飯だ」
「……はいはい」
(確か食パンはあったな)
アイテムボックスの『食パン』を選ぶ(6枚切りを買っている)。
続いてバターと溶けるスライスチーズ、マヨネーズとケチャップに卵。
パンにバターを塗りスライスチーズを乗せたらアイテムボックスの【トースター】に入れる。
アイテムボックスには、僕の部屋にあった【レンジ】【オーブン】【オーブントースター】【炊飯器】【ミキサー】【パンニーダー】等色んな家電があった。
【冷蔵庫】と【冷凍庫】はモチロン、時間経過の無いスペースも完備されている。
電源がどうなっているのかは分からないが実に便利だ。
(マナ・レクス様ありがとうございます)
『チーズトースト』が焼き上がり「ポン」と現れた。
「チーズトーストだよ。召し上がれ」
半分に切って差し出す。
「バクッ!」
(1切れ一口……。あっ僕の分まで……)
「はふはふ。これはチーズトーストというのか? 美味いな。お代わりだ」
次はエッグトーストだ。
食パンの真ん中をスプーンで軽く押さえて凹ませ、マヨネーズで四角く土手を作った中に卵を割り入れ、『S&Bマジックソルト』をフリフリフリしたら【トースター】へ。
「チーン! ポン」
焼きあがったエッグトーストをダッシャーに渡す。
これも僕の分を確保する前に食べられた。
「はふはふ、アチアチ」
「そりゃ熱いよ。慌てて食べると火傷をするよ」
残りのパンに『濃厚リコピントマトケチャップ』を塗ってチーズを乗せ、冷凍オニオンとコーンを乗せたピザトーストを【トースター】へ入れる。
「6枚切りだからこれで最後だぞ。今度は僕も食べるからね」
「ポン」と飛び出た2枚のピザトーストの1枚をキープ、1枚を半分に切ってダッシャーに渡すとこれもまた1切れ一口だ。
「はふふふ、アチチ」
「ははは、君は懲りないな」
「どれも美味かったが少ないぞ。肉は無いのか?」
「昨日、全部食べちゃったでしょ? 肉を買うにしてもお金が無いしどこで売ってるのかも分かんないよ」
「む、ならば我が狩って来るゆえお主はここで待っておれ。この森は安全だが外には魔物が居るからな」
(買う? 狩るか? )
「え、えぇ――。何をぉぉぉぉぉぉ。ま、ま、待って」
僕の必死の声も届かず一目散に駆けて行った。
空を……。
ペガサスですしね……。
◇◇◇
暖かな日差しと心地よい風に僕は気持ちよくお昼寝中。「スヤァ……」
ドサドサドサッ!
「おい起きろ」
「うわっっ何だよこれ!」
「牛と豚と鶏だ」
「そうじゃなくてこれを僕にどうしろって言うんだよ? こんなの捌けないよ」
「う゛…それもそうか。では先を急ぐぞ」
「先ってどこだよ?」
アイテムボックスに押し込みながら聞く。
「ここから一番近い街だ。急げば昼には着ける。乗れ」
「え?」
またしても僕の疑問と不安を余所に言い渡される。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ふぁさっと軽やかに翼を広げたダッシャーの背中にポイッと乗せられて僕は今空の上。
ギュッと首に抱き着いて何とか落ちない様に頑張っている。
子供のころ家族で行った『まかいの牧場』でポニーの乗馬体験すら恐くて出来なかった僕。
それが鞍も手綱も無い裸馬だぞ。
(死ぬ思いで必死だよマジで……)
高所恐怖症ではないがこの高さで丸腰は厳しい……。気を失いそうだよ。
抱き着いている腕も、力が入った足もそろそろ限界かも……。
「街が見えてきたぞ」
ダッシャーに言われて恐々目を開けて下を見ると海の上だった。
「海を渡ってるのかよっ。余計に恐いわっっ!」
逆切れしながらも、更にギュッとダッシャーの首にしがみ付きながら目線を前に向けると遠くに街が見えた。
――速度を落としゆっくりと旋回しながら崖の上に降下する。
「し……死ぬかと思った」
「根性が足りぬな。これしきのことでそれではこの先何度死ぬか分からぬぞ」
「そんなこと言われたって恐い物は恐いんだよ……」
地面に崩れ落ちて大地の有難みを感じて寝転ぶ。
「ここは先ほどまでの『神授の森』と違って魔物が出るぞ」
「うわっ」
飛び起きるが手足に力が入らない。
しばらく動けそうにない僕を傍らにダッシャーは暇そうに蹄をカツカツ――。
「暇だ。狩りに行って来る」
「まっ魔物出るんだろ」
走り出したダッシャーは僕の情けない言葉に振り向き。
「そうであったわ。お主に何かあっては困るからな。結界を張ってやる」
キラキラふわふわした光が僕の体を包む。優しい光だ……。
「スヤァ……」
◇◇◇
ドサッドサドサドサッッ。
「起きろ。飯だ。街に行くぞ」
またしても寝コケてた僕はダッシャーが狩って浮遊の魔法で運んで来た魔物たちをアイテムボックスに仕舞うと、ポイと背中に乗せられ遠くに見える街へとまた空を駆ける。
「ゆっくり、ゆっくりでお願いしますぅぅぅぅぅ」
近づくと岸壁に囲まれた街のゲート前に多くの人が並んでいた。
更に兵隊らしき人も数名集まっている。
皆、こちらを向いている。
(何? 恐いんですけど……)
ゆっくりと旋回し降り立つと、集まっていた兵士が数人こちらへやって来た。
「お、畏れ多くも……神の御使い、ペガサスのダッシャー様であらせられますか……?」
「我はペガサスユニコーンだ。神から賜った名はダッシャーで正しいがな」
――空気が張り詰めた気がしたのは気のせいじゃなさそうだ。
兵士たちは皆一様に固まり、隊長の後ろで綺麗に整列したままだ。よく見ると膝をガクガクと震わせている者も居る。
先ほど話しかけて来た隊長らしき人物が続けて言う。
「は、拝顔の栄誉を賜り恐悦至極に存じます……」
どうやらペガサスの存在はこの世界でも珍しく、神の遣いと崇められているそうだ。
「先ほどあちらの岸壁に降り立つ、神々しきお姿をお見掛けいたしまして……っ。すぐさま、最上級のお出迎えの準備を調えてお待ちいたしておりました!」
(それでこんなにたくさんの兵士が集まっていたのか……)
「聖獣様、此度はどのようなご用向きでございましょうか。もしや、新たなる神託が……?」
(その神の遣いがこの地に降り立ったと言うことは神託がくだされたと思っているのか? いや全く違うから。僕関係ないし……)
フト僕の存在に気付く隊長さん。
「こちらは?」
「こやつは異世界から……」
もごもご、慌てて口を押える。
(言っちゃダメだろっ)
「私は縁あって一緒に旅をしている『アンセル』と申します」
隊長さんにマナ・レクス 様から頂いた金色に輝く【身分証】を見せる。
一瞬嫌な予感はしたんだよ。
ただの旅人の身分証がキラキラ輝いてるんだもん。
「アンセル様!! あなた様は創造神様の使途様でいらっしゃいますか?」
(ですよねぇ~~)
「違います」と反論するも空しく仰々しく両サイドを兵士たちに囲まれて街中へと誘導される。
どうやら『デルポフ国』辺境の街『プレホフ』を治めている辺境伯様のところに連れて行かれる模様。
ややこしいことになる前に「案内は大丈夫ですのでこの辺りで失礼します」と逃げる。
逃がすまいと周りを取り囲まれる。
そりゃ兵士もサラリーマンだもんね。連れて行かなきゃ怒られるか。でもねっ。
僕は自由にお気楽に過ごしたいんだよ。
困っているとダッシャーが助けてくれた。
「我らは神の遣いで来ている訳ではない。散らぬか!」
「そ、それではせめて宿の手配をさせては頂けないでしょうか?」
神獣と使途(違うけど)相手に粗相は出来ないよね。辺境伯から処罰を受けては可哀相かと大人しく宿に向かう。
小さい街らしく宿も元居た世界のそれと思うと質素だが掃除は行き届いていた。
「お食事はどうされますか?」
「要らぬ。散れ!」
ダッシャーの唸りに近い声に皆やっと出て行ってくれたと思ったが宿の周りには見張りが居る様だ。
「ダッシャー、お前一体何やったんだよ? 僕が疑われた使途って何なの?」
「――仕方がない。話してやるか……」




