第二十四話 マナ・レクス様の初めてのお使い~雪原でかくれんぼ~
再び【金の身分証】がピコンピコンしてマナ・レクス様のホログラムが現れた。
「ホ、ホーホッホ、ア、アンセルよ。儂もそこに行くぞよ」
「あ、マナ・レクス様、ご無事でしたか?」
――ピシュッ。
言い終わるよりも早くやって来た。
(レイノスさんを釣るつもりが、マナ・レクス様が釣れちゃったよ。何だか少し疲れてる気がするけど、これはきっと触れてはダメなヤツだな)
「こんにちは。マナ・レクス様、今日はどうされました?」
「ホッホ、どうもこうも無いわい。前回お主のところに来たのがトナカイ達にバレての」
(あぁ、ビザトーストの時ね)
「はい、それが何か問題でしたか?」
「じゃろ? 儂も『問題は無いのじゃ』と言ったんじゃが、あやつら聞かぬのじゃ」
「はぁ、それで?」
「ネチネチグチグチネチネチグチグチ怒られたのじゃ」
「は、はぁ、それで?」
「儂、神様じゃぞ? それなのにあやつら、次に勝手にアンセルのところに遊びに行ったら許さぬ、と言うのじゃ。この儂に『無断で下界に下りぬよう』約束させたのじゃ……っ」
(それでさっきドタバタだったのね)
「じゃがの、お主もいかんのじゃ。ホー」
「僕が……ですか?」
「お主もじゃ、ダッシャー! こんな美味そうな『クレープ』とやらを儂に内緒で食べようとしおって。ホーホー!」
(ホーホー言える様になったな。少しは落ち着いたかな?)
「我は何も悪くはないぞ。そもそもこやつの共を命じたのはマナ・レクス様だろうに……。ブツブツ」
「ホーホー、何か言ったかの?」
ぷいっとそっぽを向いた。まぁそりゃ八つ当たりだもんね。
「それで、今ここに居ても大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃ。ホーホーホー」
「お許しが出たってことですか?」
「そうじゃ。『持ち帰りで11人分』、こう言えば行っても良いと言われたのじゃ。ホー」
「……それって意味分かって言ってます?」
「何でも良いんじゃ。儂も『クレープ』が食べたいのじゃ。ホッホー」
(まぁ本人が良いなら僕は良いですけどね)
「ではすぐに追加で焼きますので、ちょっとお待ちくださいね」
ベルちゃんとらんちゃんが近づいていく。
「「じぃじ~。あそぼ、あそぼ」」
「ホーホー、可愛いのぉ。何して遊ぶかの?」
「かくれんぼぉ」「おにごっこぉ」
「ホーホー、良いのぉ。じゃがここはちと狭いのぉ。ホホイッ!」
指先をくるくるっと回すと「ポンッ」と床に穴が開いた。マナ・レクス様はするっとその中に入ると、中から「おいでおいで」する。
「えっ!? えぇぇぇぇぇ!!」
「ホッホー、ダッシャーも来るがええぞ」
コンロの火を止めて穴をのぞき込む。
穴からは冷たい空気が流れ出ていて、その先は眩しいばかりの白銀の世界だった。
マナ・レクス様の魔力が宿った雪が生き物のように盛り上がり、見渡す限りの氷と雪のダンジョンが出現した。
「ホーホー、アンセルは心配せずに『クレープ』を頼むぞよ」
ウインクするとマナ・レクス様は子供たちと雪のダンジョンに繰り出していった。
「儂がオニで良いかの? 10数えるぞい。さあ、隠れるがよい。ホーホー」
べるちゃんとらんちゃんは二人して同じ方向へと走る。
「二人で同じ場所に隠れたら、すぐに見つかってしまうぞ」
ダッシャーが楽しそうに見守る。
「きゅいきゅい!」
アルミラージの『らんちゃん』が嬉しそうに耳を立て、雪の通路の奥へと消えていく。
「チリチリリン!」
スライムの『ベルちゃん』も体を弾ませて、楽しそうに雪の壁の隙間へと滑り込んでいった。
「――10。ホッホー、儂の目でも探せぬところは有ったかの?」
マナ・レクス様はわざと大きな足音を立てて、ざく、ざく、と歩き出す。
すると壁の隙間から青白い光が漏れているのを見つける。ベルちゃんのオーラが隠し切れずに、雪の白さに反射してしまっていた。
「ホホー。この光は『ベルちゃん』かの? ここじゃ!」
マナ・レクス様はわざと反対側の壁をのぞき込む。その隙に『ベルちゃん』は少し先に、すりすりしながら進む。
すりすりの跡が雪の上に残っている。
「可愛いのぉ。ホーホー」
「『ベルちゃん』は上手く隠れた様じゃ。次は『らんちゃん』を探すかのぉ。ホホホー」
すると目の前の雪だまりが突然弾けた。
らんちゃんがマナ・レクス様を驚かそうとして飛び出した。
「ポフッ!」
「ホホッ! 驚いたわいっ」
「キュキュキュイ♪」
「チリンチリリン♪」
後ろからベルちゃんが飛び跳ねながら飛びついて肩の上に乗る。
続けてらんちゃんも飛び跳ねて、ポスンと腕の中におさまった。
「じぃじ、面白ぉい♪」「じぃじじぃじ、楽ちぃぃ♪」
「そうかいそうかい、儂も楽しいじゃ。ホッホー」
その頃、ダッシャーは一人離れたところで雪原を一目散に蹴立てていた。さすがはサンタのソリを引くトナカイだ。その脚力はどんな俊足の魔獣よりも速く、普段の走りがそれでもスピードを落としていてくれてたんだと思わせる。
(みんな楽しそうで羨ましい。僕も混ざりたい)
穴から中を覗き込んで思う。
「マナ・レクス様! 準備が出来ましたよ。どうしますか?」
「チリンチリン」「キュキュイ」
「「ママも遊ぶのぉ」」
「ホーホー、少しだけじゃぞ。長く戻らぬとあやつらがまた怒りそうじゃでな」
(やったぁ!)
床の穴からポスンと雪原に飛び降りる。
子供たちと追いかけっこだ。
「待て待て~。アハハ」
「「キャーーー、キューーー、チリリンキュイ」」
「我もだ!」
ダッシャーが混ざると雪が巻き上げられてまるで吹雪だ。
雪玉を作ってダッシャーにポンと投げる。
負けじと後足で雪をかけられる。
最後にはダッシャーの背中にマナ・レクス様と四人で乗って雪原を駆け抜けた。
「はぁはぁ、疲れた。楽しかったぁ」
「「「楽しかったぁ(ぞ)」」」
「ホーホーホー、儂もじゃ」
上の部屋に戻ると、マナ・レクス様は指先をくるくるさせて穴を塞いだ。
「あまり長く遊んでいてまた怒られるといけないので、急いで用意しますね」
クレープ用の三角袋にデコレーションしたクレープを次々と入れていく。
温かい系
1. シュガーバター
・ 溶かしバター + グラニュー糖
2.イチゴチョコホイップ
・ いちご + チョコレートソース + ホイップクリーム
3. バナナカスタード
・ バナナ + カスタードクリーム
4. プリンアラモード風
・ プリン + ホイップクリーム
5. 和風ホイップ
・ あずき + 白玉 + ホイップクリーム
6. チョコブラウニーホイップ
・ ブラウニー + チョコレートソース + ホイップクリーム
(あずきも白玉もブラウニーも残っていて良かった)
プリンはダッシャーには内緒でコッソリと使う。あずきと白玉とブラウニーは冷凍してあった物をそのまま包む。包んでいる内に解凍されていい感じになるだろう。
「全部で6種類、一人6枚ずつの11人分です。」
「ホッホー、これは嬉しいのぉ」
「ダッシャー、少し手伝って欲しいんだけど良いかな?」
「食べる事ならいくらでも手伝うぞ」
「違うよ。これをこのままの形で冷たさと温かさをキープして運びたいんだ。何か良い魔法は無い?」
「ならばお主の風魔法と火魔法に氷魔法、それに我の結界を組み合わせた『スイーツ・セーフティ』でどうだ?」
「あれ? 僕、『氷属性』なんて持ってた?」
「今はあるぞ。先ほどマナ・レクス様と遊んだことで『氷属性』のスキルを習得したのだろう」
「へぇ、楽しく遊んだだけなのにスキルゲットなんて驚きだよ」
冷たく食べたい5種類は、1人分ずつ手提げ袋に入れたらまとめて紙袋に入れる。温かく食べたいシュガーバターは11個を1袋に入れた。
「『スイーツ・セーフティ』――チルモード!」
ひんやりとしたシャボン玉がパステルブルーの淡い光を放ちながら、紙袋の中に吸い込まれて行く。
細かな雪の結晶がキラキラと降り注ぎ、まるでスノードームの様だ。
「『スイーツ・セーフティ』――ウォームモード」
ゆらゆらと陽炎の様な揺らめきが、パステルピンクの温かな光を放つとシュガーバターの袋を優しく包み込んでていく。
「お待たせしました。こちらが冷たい系で、1人分ずつ5個セットにしてあります。こちらが温かいタイプで1種類なので11個入ってます」
「ホホ――。美味そうじゃ。ありがとうの」
「このクレープの袋を開けるとセーフティが解除されるようになってます。時間は停止してると思いますが、お早めにお召し上がりくださいね」
「そんな心配は無用じゃ。全部一度に食べるじゃろうて。ホッホホー。ベルちゃんらんちゃん、また遊ぼうの」
――シュンッ。
「全くこう言っちゃあ何だが、――あり得ねぇな」
ルシアンさんが扉の陰から現れた。
「うわっビックリした。何してるんですか?」
「ヒドい言われようだな。こちとら誰か来たらマズいと思って番してたって言うのによ」
「あ、マナ・レクス様ですか?」
「おうよ、神が顕現するのもあり得ねぇが、何だよあの魔法は」
「僕も驚きましたよ。雪原ですからね」
「……それもだが、お前さんの時間停止だかのとんでもない魔法のこともだよっ」
「あ……。あれはダッシャーの力を借りたので僕じゃありませんよ」




