第二十一話 魔石コンロを使ってみました~そば粉のガレットでブランチ~
「それで何をするつもりなんだ? アンセル様よ」
ギルドマスターのルシアンさんが僕をからかって『様』呼びする。
「この水場の周りに仮設の共同キッチンを置こうと思ってます。こう、水場を背にして半円に机を置いて、魔石コンロを設置します」
「魔石コンロなんてどこにあるんだ?」
「マルタさん達からと、バルナスさんのお店の在庫を買わせて頂いたのとで、合わせて10台になりました。今は新品以外、整備をお願いしているところです」
「金持ちは言うことが違うねぇ。あやかりたいよ」
「やめてくださいよ。全部ダッシャーのお陰なんですから」
ダッシャーはと言えば、フフンと鼻高々だ。
「とりあえず新品のこの2台を設置しましょうか」
「アンセルよ、何か必要なものがあれば私が用意しよう」
神様の暗示から抜け出したセオドア王が協力を申し出てくれた。これは助かる。
「魔石コンロを置くテーブルが欲しいです。後は食器とボールにお玉ですか」
「よく分からぬな。そこの雑貨屋に聞いてみると良い」
雑貨屋の主人は、店の外でこちらを伺っていた。
「そば粉と水を混ぜる大き目の器と、食器が欲しいのですが」
ザッと店内を覗くと、大きな陶器の器を見つけた。泡だて器は流石に無いか。
「この陶器の器を2個と、この大き目のフォークを2本ください。後はこの大き目のお皿を10枚」
「まいど! この深鉢が1個銀貨12枚、フォークが1本銅貨3枚、皿が10枚で銅貨30枚、締めて銅貨60枚だ」
「ちょっと待って、こっちの花柄の深鉢にする」
「お客さん、お目が高いね。こいつは隣国から仕入れた上等な絵付け陶器で、うちの目玉商品なんだ」
「うん、可愛い。後、追加で同じ柄の大皿2枚と塩・こしょう入れを2セットとカップを2個に、この薄い木べらを2本お願いします」
「花柄の陶器はちょいと高くて、深鉢が1つ銀貨3枚、大皿が1枚銀貨3枚、塩・こしょう入れが銀貨3枚、カップが1つ銀貨2枚、無地の皿が1枚銅貨3枚、大きなフォークが1本銅貨3枚、木のヘラが1本銅貨2枚、全部で金貨2枚と銀貨6枚だな」
「ありがとうございます。金貨2枚と銀貨6枚ですね」
麻袋からお金を出して支払う。
――ザワザワザワ
周りで見ていた母様たちがまた騒ぎ出した。
「アンセルさん、またあんな高い買い物してるよ」
「金貨なんてあたしゃ初めて見たよ」
「あるとこにはあるんだねぇ」
必殺『無視作戦』だ!
「ありがとうございました」
「いやいやこちらこそだ。まいど!」
今買った物を水場で洗って、セオドア王が用意してくれたテーブルに置く。お玉はそれらしいのが無かったから手持ちのレードルを使うことにした。
【ホームサンタ】で買ったフライパンとフタも取り出した。
そば粉は近くの粉屋で買って、水は……。やっぱり噴水から出てる湧き水はちょっと無理だ。コッソリとペットボトルの水を手持ちのピッチャーに移し替える。
さて、ご存知の通り、僕は形から入るタイプです。良い感じに可愛い食器も買えたし、せっかくの初めての『おしゃれなブランチ』だ。マナ・レクス様の承認も貰ったことだし、いっちょ派手にやらせて頂きますか♪
こそこそとテーブルの下に隠れて【アイテムボックス】から次々に道具を取り出す。
折り畳みのテーブルにイス、テーブルクロスにランチョンマットと木のトレーにナイフとフォークとカトラリーレスト。
噴水から少し外れた大きな並木の木陰にテーブルを置いて、クロスを掛けてランチョンマットを敷く。カトラリーレストはお気に入りの『純銀のダックスフンド』だ。そこにステンレスのナイフとフォークをセッティングして、気分はガーデンカフェ。
並木の近くにある石組みの花壇には色とりどりの花が咲き、噴水の周りをぐるりと囲む花壇には、水しぶきを浴びてキラキラと輝く花々があった。
(また『お主の頭はお花畑』と言われそうだけど、キレイだな)
ぽやんとしながらフト気になったことがあった。
「ねぇダッシャー、最初は王様に食べて貰おうと思ったけど、人前で、しかもこんな大衆の面前で食事なんて良いのかな?」
「今はむしろ、良い方法かも知れぬな」
「何で? 訳分かんないな」
「今はお主のお花畑以外の頭は、非常事態と認識しているだろう?」
「は、はい」
「テオはこの国の象徴だ。人前で自国の特産を食すことは、明日のこの国の光と捉える者もいるだろう」
「難しいな」
「ふっ。つまりは国王がこんなところで飯を食ってるなんてのんびりした光景は、民に安心感を与えると言う事だ」
「良く分ったよ。じゃあ食べて貰っても良いってことだね」
仮設のキッチンに戻って、作業開始だ。
~【そば粉のガレット】~
■材料(2人分)
◆ガレット生地
・そば粉:50g
・水:120~130ml
・塩:ひとつまみ
・はちみつ:小さじ1/4(焼き色が綺麗につきます)
◆トッピング(1枚あたり)
・卵:1個
・ピザ用チーズ:ひとつまみ
・ハム:2枚
◆その他
・サラダ油:適量
・黒コショウ:お好みで
■作り方
1.ボウルにそば粉と塩を入れ、水を少しずつ加えながら泡立て器でダマがなくなるまでよく混ぜる。
2.はちみつを加えて混ぜ合わせたら、ラップをして冷蔵庫で1時間以上(できれば一晩)寝かせる。
※寝かせることで粉と水分が馴染み、薄く伸ばしても破れにくくなります。
3.フライパンを弱めの中火で熱し、油をペーパー等で薄く広げる。
4.しっかり温まったら、お玉1杯分【約75ml】の生地を流し入れ、手早くフライパンを回して薄く均一に広げる。
5.中央を5cm程開けてチーズをドーナツ型(丸い土手)に広げ、ハムを少し端に寄せてのせる。
1.中央のあいたスペースに卵をそっと割り落とす。
2.弱火にし、蓋をして白身が白っぽくなるまで蒸し焼きにする。
3.卵に火が通ったら蓋を外し、縁がカリッとするまで少し火を強める。
4.四辺を内側に折りたたみ、正方形に整えてお皿に盛り付け、お好みで黒こしょうを振って完成。
香ばしい香りが広場一面に広がる。
慎重に緊張しながら焼き上げて、顔を上げると人の多さに驚いた。
「うわっ、何でこんなに集まってるの?」
「それはだなぁぁぁ、この美味そうな匂いが原因だとは思わんかぁぁぁ? 早く我にも食べさせろぉぉぉぉぉ」
「「ママァ、食べたいのぉぉぉ」」
これは参った。でも最初は君たちって訳にいかないんだよ。
「ごめんね。先ずはセオドア王に食べて貰うんだ」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ」」」
「すぐに次を焼くからちょっとだけ待っててね」
「「うん。わかったぁぁぁ」」
良い子達だ。一人返事が無いのが気になるけど無視だ。
さっき買ったお皿に、焼きたてのガレットを盛り付ける。
大きなお皿は透明感のある白地に可愛らしい小花が縁に描かれ、その内側に水色のラインが引かれていた。
香ばしく焼きあがった薄茶色のガレットは、真ん中の黄身がお皿によく映えていた。
木のトレーに乗せて冷めないうちにと急いで運ぶ。
「お待たせしました。『そば粉のガレット』です」
小さなテーブルを前にちょこんと座る王様に献上だ。
お揃いの花柄のカップに注いだ、冷えたお水を一緒に提供。
「この芳しい芳醇な香りは、そばの香りなのか?」
「はい。バターは使っていないので、そば粉の純粋な香りだと思います」
「これは『アンセルのそば粉』ではなく『我が国』のか?」
「あそこの粉屋で買った物ですよ」
「ほおぉぉぉぉ……。何とも気品高い香りだ」
しばらく香りを楽しむと、カップの水を手に取った。
「おや? 器が冷えているな」
コクッ――。
一口飲むとその冷たさと、混じりけの無い水本来の味に驚く。
「これはまた美味い水だな」
「普通のお水ですよ」
「アンセルは本当に不思議なお方だ。……コホン。では冷める前にいただこう」
「味付けはほとんどしていませんので、足りなかったらこの『塩とこしょう』を振ってください」
「ふぅ……。この純銀のレストと言い、もはや何があっても驚かぬ自信があるぞ」
いつもの様子と全然違うけど、これが民の前の王の姿ってことか。
大きなお世話なことをつい考えた。やっぱりお花畑だ。
ナイフとフォークを手に取って、一口分を切り出す。
「はっ! 何と香ばしい。――これは美味いな」
その一声を聞くと、遠巻きに様子を伺っていた市民から歓声があがる。
「おお……!」「ほぉ……」「はぁぁ」
「アンセルさん! 早く作り方を教えておくれ!!」
「我の分を作るのが先だっ!」
「「チチリンチチリン、キュウウウウ」」
「「食べたいのっお腹空いたのっっ」」
「はいはい。約束通り、先ずは君たちに焼いてあげるね」
「じゃあ、あたしらはまずは見学だ」
「でも私たちでも出来るのかい?」
「やるんだよ。あんなに美味そうな物が自分の手で作れたら、どんなに嬉しいか」
残った生地でベルちゃん、らんちゃん、ダッシャーのお腹を満たす。
今と同じ、ハムとチーズと卵、生ハムと野菜サラダ、ほうれん草とコーンと卵、ポテトとチーズ、色々な具材で満足した様だ。
食べ終わった頃に、セオドア王の側近のシアンさんが申し訳なそうにやって来た。
「料理長のトトにも教えて貰うことは出来ませんか」
「ええ、もちろん良いですよ」




