第十九話 初めての街散歩~魔石コンロを探してます~
王宮の正門をくぐり、大通りへと足を踏み入れた。ワクワクする。
道具屋に仕立て屋、その先には布地屋や食堂、修理屋だろうか、かんばんの絵を見た感じだとそんなお店が並んでいる。でもマルタさんの言う通り、閉まっているお店が多い。
静まり返った大通りをまっすぐに抜けると、中央広場だ。真ん中に設置された噴水をぐるりと囲むように、石造りの水場が設置されていた。
あちらこちらに花が咲いていて、とても清々しい場所だ。
水場の近くには食堂や粉屋、大工に革職人のお店が、広場の外周には道具屋や陶器屋、仕立て屋が店を構えていた。
――ワイワイ、ガヤガヤ。
「街の人たちがたくさん集まってるから、マルタさんがどこに居るか聞いてみようか」
「それなら噴水の向こう側で気配がするぞ」
噴水の周りをウロウロすると声を掛けられた。
「ペガサス様にアンセルさん。こんにちは」
「こんにちは。マルタさんを探しているんですが、見かけませんでしたか?」
「マルタ、アンセルさんがお呼びだよ!」
大きな声で呼んでくれた。
「アンセルさん、用事はもう良いのかい?」
「ええ、トトさんにキッチンを見せて頂きました。次は皆さんのお話しが聞きたいと思いまして」
「何でも聞いておくれ」
「先ほど僕が言った『ガレット』ですが、お城のコンロでは火力が強すぎました」
「火力が強いとダメなのかい?」
「ええ、あまり強いと焦げてしまいます」
「それじゃあたしらの家の薪火じゃ難しいね」
「火力の弱い、『魔石コンロ』もあったのですが、トトさんたちもお忙しそうで、借りられる雰囲気ではなかったんですよ。どなたか『魔石コンロ』をお持ちではないですか?」
「あぁ、あれかね」
「心当たりがありますか?」
「あるって言うか、あたしの家にあるよ。ただね……」
「持ってるんですか? 是非見せてください」
「持ってるには持ってるんだけど、何分古くてね。魔石が切れて使えないんだよ」
「あぁ、それなら解決出来ると思いますよ。一応見せて貰っても良いですか?」
「じゃ持って来ようかね。ちょっと待ってておくれ」
待ってる間に広場をぐるっと歩いて見て回る。
ほとんどのお店は閉まってるけど、中には開店しているお店もあるな。
仕立て屋さんに陶器屋さん、大工さんもドアは開いてるな。宿屋は忙しそうだ。
「チリンチリリン、キュキュキュイ」
子供たちも初めてのお散歩にご機嫌だ。
「天気もいいし空気も美味い。街の雰囲気は異国情緒漂う見てて飽きない造りだし、案外楽しいな」
「お主は本当にお花畑だな」
「何だよ。悪口?」
「ここは我の結界の中だと言ったであろうが。そんなことをあの者たちの前で口にしてみろ。我とて恐ろしいわ」
「あっ! そうだった。余りに自然で心地いいから忘れてた。避難生活中だったんだ」
「……」
◇◇
「待たせたね。これだよ」
マルタさんが両手に抱えて持って来てくれたのは、カセットコンロ位の大きさの、重厚な丸いコンロだった。
「昔、ひいじいさんが使ってた、この国が一番豊かだった頃に職人が作った頑丈なヤツだよ」
「こんなもの、良く残ってたね」
「うちじゃとうの昔に売ったよ」
「他にも魔石切れで、使えないコンロをお持ちの方は居ますか?」
「切れては無いけど、そろそろダメかねってのがうちにも1台あるよ」
「うちにも確か魔石切れのがあったかね」
「ではすみませんが皆さんがお持ちのコンロを持って来て貰えますか」
「それは良いけど、使えないんだよ?」
「魔石切れで使えないってことは、魔石を交換すれば使えるってことですよね?」
「それはそうだけど……。高くてとてもじゃないけど買えないよ」
「そこは大丈夫です」
隣に立つダッシャーを上目遣いに見る。
「こやつの言う通りにしてやれ」
広場に賑やかな声が響き、気になったのか道具屋の親父さんが腕組みしながら店から出て来た。
「嫌に騒がしいな。何だってんだ?」
「あ、すみません。お店の前で騒がしくしてしまって」
「こんな時だ。どうせ商売にはならねぇんだ。騒いだって構いやしねぇよ。ただ何の騒ぎだい?」
「このお人が使えなくなった『魔石コンロ』を集めて欲しいって言うんだよ」
「何だってまた。ところであんた誰だい?」
「失礼なこと言うんじゃないよ。国王様のお客様のアンセルさんだよ。夕べと今朝の食事を振舞ってくださったお方さ」
「おぉあんたかい。あれは美味かった。ありがとうよ」
道具屋の親父さんは『バルナス』と言い、この国一番の目利き腕利きとのことだった。
「パルナスさんのところでは、古い道具の買い取りもされていますか?」
「そうさなぁ。物にもよるが、直して使えそうなら買う時もあるがな。俺は自分の作った道具を使って、喜ぶ顔が見たくて商売してるみたいなモンだからな」
「では価値は見て頂けるってことで良いでしょうか?」
「どう言うことだ?」
「実はですね、お母様方が食事の支度を手伝ってくださるんですが、コンロが無いんですよ。僕は薪火の使い方が分からないので、魔石コンロが欲しいんです」
「いやいやあんた。魔石コンロしか分からないだって? それは大した金持ちだな。いや、自分で使うってことはご主人様が金持ちってことか?」
「まぁそんな感じですかね」
「あの食事と言い、そりゃ金持ちだろうとは思ってたがね。ペガサス様と言い、得体の知れないお方だよ」
(褒められてるのか貶されてるのか分からないけど、こんな時は無視に限る)
◇◇
「皆さんに家で眠っているコンロを持って来て頂きました。魔石切れが5台、魔力が弱く使えない物が2台集まったので、これを僕が買い取ろうと思います」
――ザワザワザワ。
「アンセルさん、今買い取るって言わなかったかい?」
「使える様にするってことだろ?」
「まさか、それを私らに使わせてくれるってこと……かい?」
――ザワザワザワザワザワザワ。
「そうですよ。せっかく皆さんがお手伝いしてくださるなら、その準備をするのは僕の役目です」
「そんな簡単な話しじゃないって言ってんだよ」
耳元でギャンギャン言われて、我慢できなくなったダッシャーが吠えた。
「我とこやつが良いと言って居るのだ。小うるさく騒ぎ立てるでない」
シーーーーーン。
「え、えっと。と言う訳でバルナスさん。この7台の買い取り額を見積もって頂けますか?」
「……あい分かった」
「この古い魔石切れの1台が金貨2枚、これは造りがしっかりしてるからな。こっちは金貨1枚だ。この3台はくず鉄同然だな。高く見積もっても銀貨1枚だ。残った2台、これはまだ少しだけ魔石の力は残っているが、時間の問題だろうな。造りも安いし1台銀貨5枚だ。全部で金貨4枚と銀貨3枚だな」
「買い取り額を聞いた後で恐縮ですが、パルナスさん、皆さんからこれを買い取って、僕に売って頂けないですか?」
それを聞いて、マルタさんが焦って言う。
「いやいや、ダメだよ。アンセルさん、あたしらあんたに美味しいご飯をご馳走になってんだ。使えない道具を売ってお金貰っちまったら、これからあんたのご飯が食べられなくなっちまうよ」
「そうだよそうだよ」
「それはそれ、これはこれ。ね? ダッシャー」
「そうだな」
「そ、そうかい? まぁペガサス様がそうおっしゃるなら。でも何だか悪いねぇ」
「じゃこういう事にしようか。あたしらはバルナスとじゃなくアンセルさんと取引をするよ。そうすれば少しでも安く済むじゃないか」
「いえいえ、それではバルナスさんのお立場が……」
「いやまぁ、俺はだな。そりゃちょっと期待しちまったけど、まぁその――何だ」
「ではこうしましょう。バルナスさんのお店で売っている、魔石コンロも僕に売ってください。何台ありますか?」
「それは嬉しいが、良いのか?」
「ええ、マルタさん達から買わせて頂いたのは7台ですが、少し心もとないと思っていたところなんですよ」
「そいつは豪儀だな。新品が2台に魔石切れが1台だ。魔石は買い手が付いた時に交換した方が良いから、奥の倉庫に置きっぱなしで手入れもしてない状態だぞ」
パルナスさんのお店で商品を見ながら話しを続ける。
「壊れてたりしますか? 魔石は用意出来ますが修理は出来ないんですよ」
「それなら任せてくれ。俺の魔石切れと、マルタ達のヤツと全部まとめて整備してやる」
「ありがとうございます。ではそれはお任せして、その前にお支払いですね」
「こっちの新品は新型で、普段なら1台金貨7枚ってところだが、5枚で良いぜ。こっちは旧型で普段なら金貨5枚のところ、4枚で良い。魔石切れは金貨1枚でどうだ?」
「そんなに割り引いて貰って大丈夫ですか? そりゃ僕としては問題ないですけどね」
「ガッハッハ。良いってことよ。じゃ締めて金貨10枚な。整備費用はタダで良いぜ」
「あ、ありがとうございます!」
新品の魔石コンロを受け取り、マルタさん達とバルナスさんにそれぞれ支払いをした頃に、ベルちゃんらんちゃんがグズり出した。
「ママァ、お腹空いたの」「ママァ、お口乾いたの」
「お昼の仕度を手伝って貰うつもりが、準備だけでお昼になってしまいました。ガレットは明日にして、今は急いで王宮に戻ってお昼の準備に取り掛からせて頂きますね」
「だからそれをあたしらも手伝うって言ってるんだよ」
(でも、僕のスキルは見せられないし、下手に手伝って貰うと時間掛かりそうなんだよね)
「ママママァ、お腹空いたの」「ママママァ、お口乾いたの」
「行くぞ」
ダッシャーにポイッと背中に乗せられて、逃げる様に駆けだした。
「助かったよ、ダッシャー。ありがとう」
誤字報告をくださった方、ありがとうございました!さっそく修正いたしました。ご指摘とても助かります!




