第十七話 竜怖の卵の子たちです~朝ご飯はTKGとやわやわ白パン~
王宮の大広間に特設した食堂に用意した朝食を並べた。
道具から入る僕はご多分に漏れず、夕べ【ホームサンタ】でおひつと木のしゃもじを買っておいた。
朝、米のすずき汁を満たしておいた『おひつ』の水を捨て、濡らして固く絞った布巾を敷いたら、炊き立てのご飯を移す。
コーンポタージュを別鍋に移して、豚汁と山盛りの新鮮な卵も用意。
食パンとテーブルロールに、ジュースとミルクとバターにジャム……か。
ハムかウインナーでも有った方が良かったかな? と傍で見ていた料理長のトトさんを見ると、口を開けたまま驚いている。
「パンにハムやチーズを挟みますか? ウインナーも焼くだけなので、すぐ用意出来ますけど……。サラダも有った方が良いですかね?」
「アンセルさん。大丈夫ですか? 朝からこんなご馳走をポンポン出すなんて。昨夜の食事も、貴女が居なくなってから、大騒ぎだったんですよ」
(そりゃ精一杯作ったけど、彩りも悪いしホテルの朝食バイキングと思うと質素なんだけど)
「白米なんて、私ですら滅多に食べられないんですよ」
(あれ? またやっちゃった?)
でも僕もダッシャーも、美味しく頂きたいんですもん。
とりあえず、これ以上用意するのは悪手だと判断した。
器が足りないので、各自持ち寄って貰った木の器にご飯が良い人はご飯を、TKGが良い人は卵と醤油か[これうまつゆ]、味付け海苔とおかかを勧める。
「パンが良い人はこちらへどうぞ。今朝は昨日のハード系のとは違い、柔らかいパンを選びました。バターとジャムもお好みでどうぞ」
バッ! 一斉に皆さんの視線が集まる。
えっ? 焦る僕に料理長が今度は感動のまなざしだ。
「白パンなんて庶民の口には一生入らない高級品ですよ。それを惜しげもなくあなたは……っ」
この災害時に自らの私財をなげうつ英雄に見えている様だ。
困る。
そもそもこれを買ったお金だって、ダッシャーが狩った魔物の買い取り金だし、僕は何もしていないのに逆に申し訳ない気持ちになっちゃうよ。
逃げ出す様に、セオドア王達の待つ奥の私食用食堂へと向かう。
◇◇
同じ様にご飯に生卵、海苔やおかかに食パンとテーブルロール、この際だ! ハムとスライスチーズに豚汁やコーンポタージュ、ジュースとミルクにコーヒーまでズラッと並べた。
(僕が食べたいんだ文句は無いよね?)
よし! こんなモンかな。
準備を終えて、腰に手を当てて立っていると、フルーラ王妃がやって来た。
「おはようございます。昨夜はよく眠れまして?」
「おはようございます。ふかふかのベッドでぐっすり休ませて頂きました」
「あらあらまあまぁ、またお一人でやられてらして。大変でしょうに」
「いえいえ、そんなに手間は掛かってませんので大丈夫ですよ」
体ごと振り向いて、にこやかに返事をする。
「あら、あなた、アンセルさん。お産まれになったんですの!?」
「ええ、分かります? 昨夜、産まれました」
「『分かります?』じゃありませんわっ。昨日の今日でそんなに動いてらして、体調はよろしいんですの?」
「ええ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
(昨日、魔法で色々とやった話しをされてるのかな?)
「赤ちゃんは眠ってらっしゃるの?」
(ベルちゃんとらんちゃんは……。くうに守られてお休み中か)
「そうですね。眠っている様です」
◇◇
「朝ご飯の用意が出来ましたので、召し上がってください」
「「美味しそう~♪」」
レオ王子とミーナ王女が入って来て、用意した朝食を見て目をキラキラと輝かせて言う。
「先ずはご挨拶でしょ?」
「「「おはようございます」」」
セオドア王も合流だ。
「おはようございます」
みなさんに朝食の説明をして、セオドア王はご飯を、フルーラ王妃はパンを選んだ。
「異国で幾度か白米を食したことはありますが、こんなに白くて薫り高い物ではなかったですよ」
「このパンを見てくださいな。昨日のパンもとても美味しかったですが、こんなにふわふわで、しっとりしたパンは見たこともありませんわ」
二人とも驚いている。
レオ王子とミーナ王女は、チョコンとイスに座り、目の前のお皿に置かれたパンに釘付けだ。
「チリンチリリン、くるくるキュキュウ」
部屋の隅で寝転がるダッシャーに守られて、眠っていたベルちゃんはダッシャーの上で飛び跳ね出した。腕の中にスポンと収まっていたらんちゃんも、何やら騒がしい。
「「お腹空いた~」」
「え? さっきミルク飲んだばかりだけど大丈夫?」
「ミルクも飲むのぉ~」
「ご飯も食べるのぉ~」
「ダッシャー、この子達『ご飯食べる』って言ってるけど、もうご飯を食べても大丈夫なの?」
「昨日あれだけの魔力を使ったんだ。成長が早まったのかも知れぬな」
「「可愛い~」」
レオ王子とミーナ王女が席を立ってしまった。
「お食事中ですよ」
フルーラ王妃にたしなめられている。
「でも本当に可愛らしいですわね。この子達は何ですの?」
「昨夜、産まれた子たちですよ」
「『昨日、産まれた』って何がですの?」
「あれ? 先ほど僕に聞いてくれたじゃありませんか。産まれたかって……」
「ええ、そう言いましたけれども? アンセル様のお腹が小さくなられていましたので、『お産みになられた』かと……」
「もしかして僕のお腹が大きかったと思ってました?」
「こやつは一応、『男』だぞ」
「えっ!? あらあらまぁまぁ、ごめんなさい。てっきり妊婦さんなのかと思っておりましたわ。オホホ」
(ですよねぇっ)
「いえ、良く間違われるので慣れてます……」
「でしたら、この子達はどこから産まれましたの?」
「ドラゴンに護られていた卵から孵った子達です」
「こやつがずっと肌に抱いておったのだ」
「体温で孵るか分からなかったので、洋服の中で温めていたんです」
「まぁ、それでお腹が大きく見えたのですね。オホホホホ」
「『ゆりかごの山 フェリス』の「竜怖の卵』が孵ったですって」
ガタンと音を立ててセオドア王が立ち上がる。
のんびりした受け答えのフルーラ王妃とは真逆の反応だ。
「そんなに驚くことですか?」
「そ、それはそうですよっ。『神の授けし安念の象徴』、ドラゴン様をはじめ、誰にも触れることは出来ないと、言い伝えられておりました」
「こやつが神と卵に認められた故、産まれたのかも知れぬな」
「……そうなの?」
「「ママぁご飯~」」
「はいはい、とりあえず卵かけご飯で良いのかな? すぐ仕度するからちょっと待ってね」
抱き着く二人に「ふぅふぅ」しながら卵かけご飯を食べさせた。
ダッシャーはと言えば、今は周りの目もあるし、赤ちゃん返りはしていない様だ。でもちょっとジト目な気がする。
「ダッシャーは何食べる?」
「先ずは卵かけご飯だな。その後でパンは全種類食べるぞ。汁もな」
遠慮が無くて助かるよ。
「さあ、冷めてしまいます。食べましょう」
固まったままのセオドア王と、その様子に食べだすことが出来ずにいる子供たちにご飯を勧める。
「い、いただきます」
「「「いただきますっ」」」
「はい、召し上がれ」
僕も自分用に卵かけご飯をよそって、ベルちゃんとらんちゃんと一緒のテーブルにつく。
「卵かけご飯は少し不作法かも知れませんが、僕の国では人気の朝ご飯なんですよ」
「うむ、我も卵かけご飯は初めてだが、美味いな」
「あっ、生の卵が苦手な方もいらっしゃると思うので、嫌ならやめてくださいね」
まだ固まったままのセオドア王に、ダッシャーが「要らぬのなら我が食うぞ」と脅す。
どうやらこの世界では卵は珍しい上に、生では食べないらしい。
アッチの世界でも、生卵を安心して食べられる国は少ないって聞いたことがあったのを思い出す。
「これは管理が徹底されたルートで仕入れた物ですが、生が心配なら火を通すことも出来ますよ」
セオドア王は意を決した顔で、もう一度「いただきます」と一口スプーンですくって食べると、その後は目を見開いたまま一気に完食した。
それを見てパンを持っていたフルーラ王妃も、卵かけご飯を食べ始めた。
「これは美味しいわ。生の卵がこんなにも心奪われる物だなんて。作法だなんて言ってられないわね」
笑いながら子供たちにも勧めている。
(気に入ってくれたなら良かった)
ダッシャーが甘えたそうな顔をしている。みんなに分からない程度に甘えさせてあげるかな。
「先ずは焼いていないパンにイチゴジャムね」
「たっぷりだぞ」
「分かってるよ」
たっぷりのバターの上にたっぷりのイチゴジャムを塗って渡す。
「コーヒーも欲しいぞ」
「ミルクと砂糖たっぷりのカフェオレね」




