第十六話 避難食用の魔物の解体~買い取り額がすごいです~
翌朝は早くに目が覚めた。
カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいる。
「くう、おはよう。朝だよ」
「おはようございます。早起きですね」
カーテンを開けて上空を見る。
『くう』の張った結界が、オーロラみたいに輝いてとてもキレイだ。
「結界の外はどんな感じなの?」
「外は噴煙も激しく、空も見えないほどでしょうね」
「そうなんだ。ならこの朝陽は、くうの魔法なの?」
寝起きでまだ頭が働かない僕は、適当にくうに相槌を打つ。
「そうですよ。人は暗闇だと、より大きく恐れを抱くでしょう?」
「え? 結界の外は真っ暗で、この明るさは全部くうの魔法なの?」
「外は漆黒ではありませんが、月の明かりほどでしょうか」
ほえぇぇぇ。相変わらず桁違いだな。
「一日中暗闇じゃ、精神的にも肉体的にも参っちゃうよね。改めてありがとう」
「ありがとうは私が言うべき言葉ですよ。お嬢様」
「く……」
窓から外の様子を伺うと、結界に何かが当たっては、激しくはじけ飛ぶ様子が見えた。
(結界がなかったら……)
想像したらブルっと来たから考えるのは止めた。
朝食の支度に取り掛かろうとして子供達に目が行った。
皆さんのご飯の前に子供達の朝ご飯だね。
ミルクの用意をしていると子供たちが起き出した。
「「お腹空いた~」」チリンチリン♪ピョンピョン。
「はいはい。ミルクぅ~ミルク♪ ミルクぅ~ミルク♪ おいで~」
二人にミルクをあげていると、『くう』がジト目で見ているのが目に入った。
「くう、昨夜はこの子達のお守りお疲れ様ね。プリンが冷えてるよ。朝ご飯前だけど食べる?」
「私にも食べさせてくれるのでしょう?」
あ……。これが良く聞く「赤ちゃん返り」か。
仕方ないなと「あ~ん」で食べさせる。
(プリンなら子供達でも食べられるかな?)
なんて思っていたら『くう』に先手を打たれた。
「それは私の為のプリンなのでしょう?」
「でもこれ全部食べたら朝ご飯が食べられないぞ?」
『くう』の視線が譲らないと言っている。残りを【冷蔵庫】に戻す。
「さて朝ご飯は何にしようかな」
ご飯を炊こう。でもおにぎり100人分はちょっと無理か。
ご飯で簡単に出来るのは、卵かけご飯かな?
先ずはいつもの様に【スーパーサンタ】で無洗米を10kgと水を2箱に、卵を10パックと[これうまつゆ]をカートに入れる。
味付け海苔とおかかも欲しいかな?
パンが良い人も居るかも。
少し多めに食パンを10袋とテーブルロールを15袋に、[チューブでバター]を5本とジャムも少し用意しようかな。
(無洗米はそのまま炊けば良いけど、今日はちょっとすすぎ汁が欲しいんだ)
お米は軽くすすいで、アイテムボックスの【炊飯器】に入れる。
水は少し多めの15リットルを入れた。
(えぇっと……。予約機能は使えるね)
2時間後に炊き上がりでセットする。
後は味噌汁とスープで良いか。ご飯を炊くだけで良いから汁物はちゃんと作ろうかな。
――コンコンコン。
「はい?」慌ててアンセルに戻る。
「ギルドマスターのルシアン様からの伝言です。魔物の解体が終わったとのことです。離れの倉庫に仮のギルド本部を設置しましたので、そちらにご案内致します」
もう肉があまり無かったんだ。丁度良かった。
『ダッシャー』と『ベルちゃん』『らんちゃん』と仮設ギルドへと向かう。
「おはようございます。ルシアンさん。魔物の解体が済んだと伝言を頂きましたので、肉の受け取りに来ました」
「おはよう。おや、その子達は?」
ダッシャーの背中に乗る『らんちゃん』と、僕の肩に乗る『ベルちゃん』を見て聞かれた。
「あの山でドラゴンに護られていた卵から孵った子達です。この子がスライムの『ベルちゃん』、この子がアルミラージの『らんちゃん』です。よろしくお願いします」
「そ、そうか大変だな」
何が大変か分からないけどまぁ良いや。
「朝食の準備に肉が欲しいんですが」
「そうだった。前回の魔物たちも凄かったが、今回も珍しい魔物ばかりで興奮し切りだ。お陰で皆、張り切ってくれたよ」
「僕には分からないですけどね。全部ダッシャーが狩って来てくれたので」
「昨日の晩飯も最高に美味かったし、力が湧くってモンだ」
ズラッと並ぶ素材と肉に、軽く後ずさりする。
買い取りして貰った部位とその金額は、前回の比ではないほどに驚くものだった。
■ギルド買取明細:灰の野猪
吸灰の剛毛:金貨 3 枚
耐熱の蹄: 金貨 5 枚
魔力蓄積の牙: 金貨 8 枚
土・火属性の魔石: 金貨 15 枚
総買い取り額:金貨 31 枚
■ギルド買取明細:樹海の黒牛
深緑の角:金貨 20 枚
王の力筋(腱):金貨 15 枚
森の胆石:金貨 30 枚
木・地属性の魔石:金貨 45 枚
総買い取り額:金貨 110 枚
■ギルド買取明細:雲岩鳥
軽風の羽毛:金貨 1 枚
風切り羽の芯:金貨 4 枚
断崖の鉤爪:金貨 6 枚
風属性の魔石:金貨 28 枚
総買い取り額:金貨 39 枚
■ギルド買取明細:深淵の巨岩鳥
深淵の嘴:金貨 12 枚
防水の皮膜:金貨 7 枚
深淵の眼球:金貨 10 枚
良質な大鱗/20枚:金貨 24 枚
小鱗/40枚:金貨 12 枚
風・水属性の魔石:金貨 50 枚
総買い取り額:金貨 115 枚
■ギルド買取明細:霊翠王鮭
発光する浮袋:金貨 2 枚
純度の高い油/100本:金貨 80 枚
燃料用の油/100本:金貨 30 枚
水属性の魔石:金貨 20 枚
総買い取り額:金貨 132 枚
■ギルド買取明細:霊峰赤魚
額の一本角:金貨 50 枚
大鱗/100枚:金貨 20 枚
鰾:金貨 30 枚
総買い取り額:金貨 100 枚
猪に牛に鶏に魚と、良い感じに違う肉質の魔物を狩ってくれて有難い。
食用以外の素材の買い取り額は、締めて527万ゴールドだった。
今回は僕がこの材料で炊き出しを作るってことで、解体料は無料にしてくれた。
「俺たちもご相伴にあずかるしな」
「まぁそうなりますよね」
「知ってると思うが、まだ本格的に稼働していないギルドでな。支払いは少し待って貰えるか?」
「当然ですよ。入会金を買い取り金で払わせて貰った恩は忘れてません」
◇◇
さて、肉も受け取ったしご飯の支度の続きをしますか。
【スーパーサンタ】で追加の買い物をする。
豚汁用に豚汁の具の水煮パックを5kg、長ネギを5本と白みそを2kgに、だしの素を少し多めに2箱とごま油。
魔物肉の臭み取りでショウガのチューブとバターを追加。
コーンポタージュ用にクリームコーンを3kgとホールコーンを1kgに、牛乳をこれも多めに10本、コンソメと塩コショウも買っておくか。
先ずは簡単なコーンポタージュだ。
アイテムボックスの【ことこと煮込みシェフ】にコーン缶全部と、水を2リットルにコンソメ150gを入れ【強】で1時間煮込む。
牛乳を6リットルとバターを200gを加え、食べるまで【保温】する。
次は豚汁ね。
【コトコト煮込みシェフ】は使ってるから普通に鍋で作るか。
細切れにした魔物肉をごま油で炒めて、お城のキッチンから借りた大鍋に移す。
「くう、これ一杯に豚汁作ったら重くて運べないけど、浮遊魔法で動かせるかな?」
「私なら簡単ですが、貴女も出来ると思いますよ」
「そうなの?」
2リットルのペットボトルの水が入った箱に、浮遊魔法を掛けてみる。
「浮かべ浮かべ――。むぅぅぅぅ」
ぷかりと浮いた。
「あっ!」
浮いたと思ったらひっくり返ってしまった。
「僕じゃダメみたいだな。これが豚汁なら大失態だよ」
ちらっと、くうを見る。
「私の出番でしょうか」
得意気な顔をして、手伝ってくれる確約が取れた。
でも良く考えたら大鍋ごと持って行っても冷めちゃうか。
「3つに分ければ1鍋7kg位になるから僕でも運べるかな?」
「確かにそれなら貴女の力でも出来るでしょうね」
「アイテムボックスに入れておけば保温も出来るし、直前で取り出せば持ち運びも重くないしね」
あ……。くうがガッカリしている気がする。
肉を鍋3つに分けて入れ、水煮野菜を加えて少し炒める。
水とだしの素を入れて、煮立ったらアクを取って少し煮込む。
(肉も野菜も火か通ってるから、短い時間で大丈夫だろう)
野菜が柔らかくなったら一旦火を止めて味噌を溶き入れ、仕上げにバターを加えたら完成。
刻んだネギとショウガを別盛りにして、一緒にアイテムボックスに仕舞う。
食パンとテーブルロールを袋から出して大皿に盛る。
[チューブでバター]も器に絞り出しておく。
(容器のまま出したら驚かれるもんね。ジャムは瓶のままでも良いかな? ラベルは剥がさないと)
後は飲み物、オレンジジュースを買い足して牛乳もピッチャーに入れて冷蔵庫に仕舞っておく。
コーヒーは僕が飲みたいけど流石にこの世界だと突飛かな。
「すでにあれもこれも突飛だと思うがな」
ダッシャーの声が聞こえた気がした。




