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第百四十四話 森への立ち入りを禁止しました~商人ギルドへの神託~

 ずかずかと中に踏み込むと、部屋の奥には、山積みの魔道具や書類に囲まれ、周りの状況など一切目に入っていない様子の、商人ギルドのギルドマスター・レイノスさんが研究に没頭していた。

 国王様までも一緒に訪ねて来ていると言うのに、危機感の欠片もない。


「おい、レイノス」


 ルシアンさんの低い声が響く。


「る、ルシアン……? なぜここに……いや、今はそれどころでは!」

「それどころではないのはお前たちの方だ。これまでの職務放棄、隠蔽魔法による水源水路の隠匿、火山岩の独占、そして隣国の不穏な動きの黙認……すべて神の知るところとなったぞ」


 ルシアンさんはマナ・レクス様からの神託の書状を机に叩きつけた。

 そこには可愛らしい文字で商人ギルドがこれまでにやらかした事案が、事細かに書かれていた。


 僕はフト気になってダッシャーにコソッと聞いてみる。


「あれってマナ・レクス様の筆跡なの?」

「違うな」

「だよね」


「デルポフの不穏な動きって、商人ギルドとどう関係してるの?」

「知らぬな」

「……だよね」


 隣国、デルポフがラルーギア国に幾度となく侵攻し、フェリスの山の採掘や、川の流れを変えたことは僕たちの知るところとなった。

 もしかすると、川の流れを変えたことに商人ギルドは気付いていたのかも知れない。


「俺はマナ・レクス様にお前たちの罰を丸投げされた。メンドクサイの一言だ! 今後は俺たちの完全な監視下で、死ぬ気で働いて貰うからな」



 レイノスさんは慌てふためき、言い訳を探すように部屋の中をウロウロと歩き回る。


「そ、その書状はマナ・レクス様の直筆ではないのだろう? そんな物、信用出来ませんね!」


 額に汗をかきながら、部屋の中をキョロキョロと見まわして、一瞬その目が僕が大切に抱えたスリングの中にいたベルちゃんに留まる。


 僕は一層強くベルちゃん達を抱きしめた。


 ルシアンさんがレイノスさんを見据えて言葉を続ける。



「レイノスよ、信じる信じないはお前の勝手だが、とにかくやることは決まってるんだ。1つ目の罰はアンセル様の言う通りの『木型』を作ることだ」

「『木型』とは何に使うものなんですか? と言うか、1つ目って何です!?」


「1つ目は1つ目ですよ。最初の罰として、このサンプルと全く同じ構造の『木型』を、無償で、完璧に、必要数作ってください。魔法陣の刻印も丁寧に、一つ残らずです!」


 レイノスさんは木型を受け取ると、「ゴクッ」と息をのんだ。

 ダッシャーが作り出した木型に書き込まれた精密な魔法陣。見たことも無い形のその型に、やはり興味は持ったようだ。

 しかし『罰』と言われては素直に受けるつもりはない様だった。


「ま、待ってくれ! 作るにしても、そんな精密な木型を作るための極上の木材や、黒曜石の釉薬の元になる火山岩が足りない! 私たちが囲っていた森の廃棄場へ取りに行かねば――」


 レイノスさんが必死に叫ぶが、僕は冷酷にそれを遮った。


「無駄ですよ。水路を掃除した時の魔水で、あの森の木々は『トレント』化しました。そして、森全体があなたたちのこれまでの行いに怒った、トレントたちの管理下に置かれています」


 ダッシャーがフンと笑う。


「我が神眼で認められた者しか、あの森には立ち入れん。お前たちが隠匿していた素材の山も井戸も、すべて我らの支配下だ。お主らに素材を自由に触る権利などないわ」


「必要な素材は、僕たちが持ってきて『渡してあげる』。何がどれだけ必要かは全部ダッシャーが分かってるから、あなたたちはただ、閉じこもって木型を削り続けてください。完成するまでは一歩も外には出られませんし、その木型から作り出されたものを見ることも、中身の加工現場に立ち会うことも、絶対に許しません」


 僕の徹底した素材封鎖と厳しい言葉に、商人ギルドの面々は絶望の表情でへたり込むのだった。



 僕は一旦、建物の外へと出て、念のためにダッシャーに意識共鳴(マインド・チャイム)を使って貰った。

 アイテムボックスからトレント達に用意して貰った『鉄樺魔梛(アイアン・バーチ)』の木材と井戸の水を取り出す。


 『鉄樺魔梛(アイアン・バーチ)』は乾燥させると鉄以上の強度を持ち、熱や乾燥にも恐ろしく強く、歪んだり燃えたりしない、陶器の木型に完璧に適した魔木だ。

 水分を含むと一時的に柔らかくなり、加工が出来る。しかし、一度乾燥してしまうと再び鉄以上の硬度に戻り、そして二度と変形しなくなるのだ。


 しかも今回はトレントが自ら選んで自切してくれた、最高品質の素材だ。その含ませる『水分』も、どこの水でも良い訳ではなく、森の中の火山岩廃棄場にある井戸の水でないとダメらしい。


 それはらんちゃんが通訳してくれて分かったことだった。



 商人ギルドの玄関前に『鉄樺魔梛(アイアン・バーチ)』の丸太をドサッと置き、声を掛ける。


「木型用の木材と、それに適した水を用意しました」

「水ってのは何だ?」


 ルシアンさんが不思議そうに聞いて来る。

 鉄の加工では冷やすための水が必要だけど、今回は木型だ。不思議なのは分かる。


「まぁ見ていてください」


「こんな硬い木、まともな道具じゃ削れません! 嫌がらせですか!」


 レイノスさんは『鉄樺魔梛(アイアン・バーチ)』の丸太を叩きながら呻いた。


「この木が僕がやりたいことの最適解だとダッシャーとトレント達が言ってるので、そればかりじゃありません。でも、比率としたらソッチの方が高いですけどね!」


 レイノスがとても嫌そうな顔をしながら部下たちを見つめた。一同揃って青ざめた顔をしているが、それは日ごろの不摂生のせいだろう。


 僕は続けて言い放った。


「森の中にある井戸の水をかけると柔らかくなります。ただし、乾いたら二度と削れませんから、水の中で一気に、完璧に仕上げてください。失敗したら素材の無駄遣いとして、ルシアンさんから追加の罰がありますよ」


「失敗なんて隠せばバレないよな?」


 後ろの方の職員が小さな声で呟いた。

 全くどこまで反省していないんだ。これは次の罰も早いところやらせないといけないな。


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