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第百四十三話 みんなで商人ギルドへ向かいます~フタには開閉のギミック~

「このダッシャーが作ってくれた3つの器に、押すだけロックの魔法陣を後付けで組み込めるかな?」

「造作もないわ」


 ダッシャーが前足で床を軽くトントンと叩いた。その瞬間、空間から眩い光が立ち上り、3つの器にサクッとロックの魔回路が書き込まれた。


「すごいよダッシャー、あんな説明だけで完璧な仕上がりだよ!」


 僕は余りの完成度の高さに目を輝かせ、ダッシャーの首元を撫でた。


 その器には、僕が身振り手振りで説明したアイデアが完璧に刻まれていた。


 フタを1プッシュすれば「ぷしゅっ」とロックされ、もう一度押せば「すぃっ」と上がってくる魔法陣のギミック。

 これに蜜蝋パッキンを合わせれば、馬車の振動でもクレイパウダーが絶対に漏れない、完璧な化粧品容器になるだろう。


「その魔法陣の構築と焼き物用の木型の作成を、商人ギルドの奴らにやらせるってことか?」


 ルシアンさんが理解してくれたようだ。


「はい。そうすれば街の人たちはこの先自分達で産業を生み出すことも出来るし、商人ギルドにはタダでこの仕組みを作らせれば、彼らの研究心を刺激しつつ、でもこの商品の権利も、作り出したことへの評価も、当然利益も彼らの物にはなりません」


 僕が見本の器を触りながら説明をすると、皆さん理解は早かった。


「これが僕が考えた一つ目の罰です」

「その『一押しで閉まって、もう一度押せば開く簡易版魔法陣』と、それを彫り込んだ『量産用の木型』を、商人ギルドに罰として作らせるってことですか! 職人が使うための木型を商人ギルドに魔導技術で作らせる。魔法陣が最初から溝として彫られた木型があれば、職人は粘土を挟んでプレス機でガチャンと押すだけで、知らないうちに魔法陣入りの器をいくらでも作れるって算段ですね」


 僕の無駄のない計画に、シアンさんが震えるほど感動して声を上げる。


「なるほど……! 魔法陣の『形』そのものが木型によって最初から器の粘土に刻まれるわけか! 焼き上がったその魔法陣の溝の部分に蜜蝋を塗れば、簡易魔法陣の魔力でフタが一押しで引き込まれて固定され、蜜蝋が『ギュッ』と最高の力で密着する。これなら魔法陣の複雑な核の理論を理解する必要もないのだな」


 セオドア王も感心して納得してくれた。


「開ける時も、もう一度上からワンプッシュすれば、魔法陣の反発力ですぅっとフタが浮き上がってくる。これなら、高級クリームケースみたいに最高に便利で、みんなが簡単に作れる特産品になりますよ。クレイの作り方も、地下分水宮の秘密も一切教えない。彼らは『最高級クレイパウダーが絶対にこぼれず、ワンプッシュで開閉できる魔法の木型の開発』という、最高にそそる研究テーマを与えられて、悔しがりながらも好きな研究だから、完璧なシステムを完成させるしかない。これ、すごく良いアイデアだと思いませんか?」


「ははは! 相変わらずアンセル殿の、あの者たちの扱い方は容赦がなくて素晴らしいな! 職人もこれなら迷わぬ!」


 セオドア王が愉快そうに笑い声を上げた。


「えぇ、僕はレイノスさんがベルちゃんとらんちゃんを泣かせたあの行為に、今でも怒ってますから! これは始まりに過ぎません。ふふ」


 白い袖をまくった商人ギルドの面々が、「我がギルドの魔導工学があれば、交互のワンプッシュで完全密閉と自動開錠をこなす魔法陣の木型など、一晩で量産してみせるわ!」と、悔しがりながらもその研究者魂ゆえに完璧に仕上げてくれる、そんな未来が容易に想像できた。



「よし、サンプルは揃った。ルシアンさん、行きましょう」

「ああ、まったく……。あの引きこもり研究馬鹿どもに現実を教え込んでやるか」



 冒険者ギルドのギルマス、ルシアンさんは盛大なため息を吐きながら立ち上がった。


 僕はベルちゃんとらんちゃんをスリングに入れ、大切に抱えてダッシャーへと跨る。


 ルシアンさんはガルバへと跨り、セオドア王とシアンさんもフィデロとパドラスへと跨った。


「えっと、商人ギルドに向かうんですが、一緒に行かれますか?」

「えぇ、この国の遺物である火山岩や貴重な井戸を隠し持っていた罪は、私どもへの国家反逆罪とも言えますからね」


 シアンさんが不敵な笑みを浮かべて拳を握りしめた。

 確かにいくら組織は創造神様の直轄だとしても、森も川もこの国の資源だ。勝手なことをして不利益を被ったんだから、それは許せない話しか。

 財政管理で苦労をして来たみたいだし、ね。


「水路が機能していなかったことにすら気付けなかった私は、王失格だな……」


 セオドア王の落ち込みが激しくて、掛ける言葉も見つからない。これは自分の口で文句を言って貰った方が良いだろう。


「では、全員で商人ギルドに乗り込みますか!」


 僕たちは全員で、街外れにある商人ギルドの建物へと向かった。


 ◇◇


 商人ギルドの扉の前に立つと、ルシアンさんが容赦なく「ガンガンガン!」とドアノッカーを打ち鳴らした。しかし、中からは何の返事もない。


「相変わらずだな。おい、俺だ! 入るぞ!!」


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