第百四十二話 美容クレイパウダーの容器を考えました~器の種類は3種類~
「ルシアンさん、マナ・レクス様に言われた商人ギルドへのお仕置きって考えました?」
「いや、まだだ。マナ・レクス様、いくらにも丸投げじゃないか? 俺だってあいつらに関わりたくないってのに……」
そんな話しをしながら僕たちはクレイ乾燥室に集まっていた。
クレイを売り出すための器についての相談会だ。
「この国にも焼き物はありますよね?」
レンガや瓦があるから、焼き物自体の文化はあるだろう。
「えぇ、西の山裾に窯があって、普段は炭やレンガを焼いていますが、かつてはそこで数々の焼き物を作っていたと記録には残って居ます」
「実際、この城で使っている食器はほとんどが自国で作られた物だと聞いているしな」
「それでしたら話しは早いですね」
「これらは、僕が考えた『美容クレイパウダー用の容器』です。中身はどれも同じクレイパウダーですが、ケースの見た目と量で値段を変える戦略を打ち出そうと思ってます」
「それは興味深い売り方ですね。中身は同じで器に価値がある――と言うことですか」
シアンさんの目がキラッと光った気がした。
「クレイは乾燥させて売り出すので、内側には湿気を通さない仕組みが絶対に必要になります。素焼きのままだと土が湿気を吸って、せっかくの乾燥クレイが中で固まっちゃうし、白檀魔梛の良い香りも土に吸い取られて消えちゃいます。白や青緑のケースは内側にもツルツルした釉薬をかければ解決するけど、この最高級品として売り出す黒ケースの風合いを活かしたり、より完璧に密閉したりするにはどうしたらいいか……。色々と考えた結果を説明しますね。他に良いアイデアがあれば途中でも構わないので意見をお願いします」
みなさん真剣な眼差しで興味深く聞いてくれる。
「僕の故郷では、白磁や綺麗な色の器を作る時は、一度素焼きした粘土にガラスの素になる釉薬をかけて、もう一度焼くんですよ。この黒い器は、火山岩廃棄場にもある黒曜石を細かく粉になるまで砕いて釉薬に混ぜているんです。黒曜石は天然のガラスだから、高温の窯で焼いて一気に引き出して急冷すると、吸い込まれるような極上の艶を持つ美しい漆黒に仕上がるんですよ」
広い作業台の上に試作品の器を並べながら、僕はセオドア王やシアンさんに向かって説明を続ける。
モチロン、これらのケースは僕がダッシャーにお願いして作り出して貰った『神獣印の最高級試作品』だ。これと同じ物とは行かなくても、近い物を作ることが出来れば、それはクレイだけでなくこの国の特産となる。
【サンプル配布用】透明感のあるクリアホワイト(白磁風)
特徴:火山活動の熱でシリカ成分が凝縮した、真っ白でガラス質の硬い鉱物(白リン石)をベースに、かつて水路脇の森で燃えた月桂魔樹のきめ細かな純白灰で作った透明な釉薬をかけて焼きます。ツルツルとした清潔感のある綺麗な白色になり、中身のクレイが映える王道のデザインです。
【一般販売用】気品のある上品な青緑(青磁風)
特徴: 火山のふもとで長年、地熱と圧力によって変質した、くすんだ緑色の岩石(千層緑岩)を釉薬に混ぜて焼くことで、翡翠や青空のような、透明感のある美しい「青緑色」に発色させます。色ムラが出にくく、一般向けとして非常に見栄えが良い綺麗なケースになります。
【高級販売用】吸い込まれるような艶のある漆黒(黒楽・瀬戸黒風)
特徴::マグマが急速に冷やされてできた、純度の高い天然のガラス結晶(深淵の黒曜石)の粉末を釉薬にします。商人ギルドの温度管理魔道具で一気に高温で焼き、引き出すことで、ガラスのような極上の艶を持つ「高級な黒」に仕上がります。
「僕の故郷には『キャニスター』っていう、フタの縁にパッキンがついていて、パチンと閉めると水も空気も通さない便利な密閉容器があるんです。この陶器の入れ物のパッキンにあたる部分を、この蜜蝋で代用できないかなって思ったんですが、どうでしょうか?」
僕は、うっすらと花の香りが漂う、黄金色の蜜蝋を手に取った。
「木樽みたいに、ダッシャー様に魔法陣を刻んで貰うんじゃダメなのか?」
ダッシャーがジロッとルシアンさんを睨みつけた。
「いや、ほら。そこは、アンセル様のお願いってことで……」
「今までの方法でダッシャーに魔法陣を刻んで貰って、空間を固定すれば簡単です。でも、魔法陣は誰もが扱うことができる物ではないし、そもそも僕自身、そんな複雑なことは理解できないから、自分が分からないことは人に説明できないですよね。街のみんなに作ってもらう特産品にするなら、誰でもできる簡単な方法じゃないとダメだと思ったんです」
「この木樽みたいに、回してロックが掛かる仕組みで良いんじゃないのか?」
ルシアンさんがアイデアをくれる。
「でも、陶器だと回すって動きが難しいんですよ」
「『キャニスター』と言ったか、それと同じ仕組みならば、押すだけで良いのではないか?」
ダッシャーも意見をくれる。みんな真剣に考えてくれて有難い。
「確かにそれはそうなんだけど……。蜜蝋でどの位のロックする力が保持出来るのか? 荷馬車での運搬を考えると、揺れでロックが外れることは有ってはならないと思うんだよ」
「ならば初めから、器にロックの魔法陣を組み込ば良いのではないか?」
「だけどそれだと魔石か素材が必要でしょ? 黒曜石で作る高級品は良いけど、お試し用とか器は拘らないで良い人は安く買いたいでしょ? 魔石を使ったら高くなっちゃうよ」
「だから初めからそれを組み込んだ魔法陣を書き込めば良い、と言っておるのだ」
「え? つまり?」
僕は少しだけ理解しながら、ワクワクして聞き返す。
「『押す』の力を受けて作動する魔回路を作れば良いと言っておる」
「それはきっと通常の魔回路よりももっと複雑だけど、起動する素材が何も要らず、人の手だけで作動する。夢の様な仕組みってこと……かな?」
「お主は分かっておらぬ様だが、生きるものは少なからず生気の力を持っておる。世間では魔力を持たないとされる民であってもな、実はその身の内に、ほんの少しの微小な力を宿しておるのだ」
「極小の、人の指先からあふれ出るオーラみたいな物で起動出来る仕組みってことかな?」
「そういうことだな」
「でもきっと、ダッシャーはサクッと簡単に作り出しちゃうけど、商人ギルドはどうだろう?」




