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第十四話 【閑話】ラルーギア国の史実:竜の怒りと竜怖の卵

「さて僕たちも食べようか」


 僕とダッシャーはセオドア王とフルーラ王妃、レオ王子と妹のミーナ王女とテーブルを囲んでいた。


 晩ご飯は皆さんにお出ししたのと同じ、ポトフとスパゲティサラダにバゲットとイギリス食パン、それにガーリックバターとイチゴジャムを並べた。

 料理長のトトさんが用意してくれた、野菜の煮込みと雑炊に黒パンもある。


 こっちの世界の食べ物はこれが初めてで、ワクワクする。特にエールは、その昔「水の様に飲まれていた」と聞いたことがあるから興味津々だ。


(まずはトトさんの料理から頂こうか)


 そう思ってダッシャーを見ると、僕が作った料理をバクバク食べていた。


「ダッシャー! 行儀が悪いよ。皆さんまだ食べ始めていないじゃないか」

「我には関係ないわ」

(そうかも知れないけどさ)


「アンセル様、遠慮なさらずにお召し上がりください。お疲れでしょうし、栄養を取らなければね」

「ありがとうございます。では遠慮せずに『いただきます』」


 まずはお楽しみのエールだ。


「ゴクゴク……」


 これは温くて薄くて、何ともな味だな。でも炭酸弱めで冷やせば美味しく飲めそうだ。


「これは冷やして砂糖でも入れたら、美味しいジュースになりそうですね」

「冷やして? ジュースとは?」

「……えっと。果実の汁ですね」

「えぇ、確かに果実の甘い汁と合わせたら、美味しそうですわね。栄養もありそうですし、良いことを聞きましたわ」


 フルーラ王妃は納得してくれた。


(ふぅ、危ない危ない)

「お前はまた、何を分からぬことを言っておるのだ」


 ダッシャーにも突っ込まれる。いや、あなたは分かってるでしょう?


「ぼ、僕の作った料理も食べてください」


 慌てて話しをそらして、僕もトトさんの黒パンを千切る……、千切る……、千切れない。


「そのパンは固いのよ。スープに浸して食べると、柔らかくなるの」

「数日前に焼かれた物でしょうね。今日はずっと料理人達も慌ただしく動いていたから、パンを焼いている時間がなかったのでしょうね」


 ミーナ王女とフルーラ王妃が説明してくれた。

 

「だから尚更に、アンセル様のこの『白パン』が輝かしく見えますわ」

「それに、この『ポトフ』と言いましたか。これも奥深くてとても美味い」


 セオドア王も美味しく食べてくれてる様で安心だ。

 僕もトトさんのスープに黒パンを浸して食べる。


(……やっぱり自分が作った物の方が口に合うな)


 ◇◇


「アンセル様。此度は助かりました。我が国の備蓄だけではすぐに食材が底をつき、飢えに苦しむことになるでしょう」


 フルーラ王妃が改めてお礼を言ってくれる。

 噴火がおさまるまでの間、結界はダッシャーが張り続け、食事は僕が支援すると伝えてあった。


「ダッシャーも助力を感謝する。山の怒りは凄まじく、先のドラゴン様と山神様の怒りを彷彿とさせる」

「そうだな。ドラゴンはともかく、山の怒りは手に負えぬ」

「あの悲劇が繰り返されたかと思うと、民にどう詫びて良いか分からぬところだった」


 セオドア王は語り始めた。


 ◆◆◆◆◆


 今から80年ほど前か、あの山にはすでにファイアドラゴンが棲んでいた。

 山は静かに眠りについていたが、山からは様々な鉱石が川に流れ出ていた。


 この国にはそれらを集め、売る事を生業とする者もいた。

 その価値は高く、高価で売買されたが、自然に流れ出るその量は、約束された物ではなかった。


 この国は森林が多く、わずかな畑で採れる作物には限りがあり、小さな川に流れ出る鉱石も、この国を豊かに出来る程には無かった。

 だが王も民も、不満に思う者は誰一人としておらぬ、穏やかな暮らしを営んでいた。


 ある日、隣国『デルポフ国』の奴らが山に立ち入り、宝を求めた。

 それは山の意思に反した、強欲にまみれた乱掘だった。


 気付いた当時の王は、話し合いで解決しようと試みたが、使者は殺され、骸が送り付けられた。


 王は兵をあげ、山へと向かう。

 ――ドラゴンが眠る山へと。


 待ち受ける隣国の兵達と激しい戦いとなり、3日が過ぎた。

 その戦場は次第に範囲を広げ、ドラゴンの眠る洞窟の、目と鼻の先まで迫っていた。


 『デルポフ国』の隊の食料は尽き、隣国の兵は食糧とすべく、ドラゴンの比護下の魔物に手を掛けた。

 そこに棲まう魔物は弱く、人に対峙する術を持たなかった。

 魔物達はドラゴンの元へと逃げ込み、流された血と騒動で安眠は破られた。


 ドラゴンは怒り狂い、炎のブレスを吐き散らす。

 そのブレスは、デルポフとラルーギアの区別なく、隊に吹き荒れる。


「グォオオオオッ! パキィイン!」


 その激しい咆哮は山の眠りをも覚ます。


「ドクン……ドクン……」


 そして、山は火を吹いた。

 地底奥深くから響くようなその低い唸りは、デルポフの侵略者を狙う。

 

「グゥゥゥゥオオオオオオオンッッ!!」


 隣国の兵達は慌てふためき、我先にと転がる様に自国へと逃げ帰る。


 山の怒りはデルポフを追い、国境の川を駆け抜ける。

 その先に住まう、戦も侵略も、何も知らないラルーギアの民をも巻き込んで――。

 

 山に残るのはドラゴンの怒りを鎮めようと、ひたすらに祈るラルーギア王とその民、戦い傷ついた兵士達であった。


 しかし、ドラゴンと神の山の怒りを鎮める事は誰にも出来ず、辺りは瘴気に包まれる。

 反省と後悔と共に、皆が死を覚悟した。


 その時、上空から一筋の光が生まれた。

 光は次第に広がり、山を包む。

 山全体を包むその光は、ひと際大きく弾け――。


 ――ピシュッ


 空から1人の人物が降り立つ。

 創造神、『マナ・レクス』様であった。


「『グロー』よ。儂じゃ。分かるかの? 怒りを鎮めてはくれぬか」

「…………」


 ファイアドラゴン、『グロー』は動きを止める。


「お主に儂から頼みがある。聞いてくれるかの?」


 グローは静かに頷くと、その顔をマナ・レクス様に向ける。


 するとマナ・レクス様の手の中に、光り耀く『淡い琥珀色の卵』が現れた。


「これは『竜怖りゅうふの卵』じゃ。お主にはちと手に負えぬかも知れぬが、この山で護り、育て、誕生の手助けをして欲しいのじゃ」


 グローは静かに頷く。


 マナ・レクス様はグローが棲まう場所とは反対側の火口へと、~ふわりと移動すると、その指先をくるくると回した。


 ドラゴンの巣から1枚の抜け落ちた鱗が、その手に吸い寄せられると、それはふかふかとした寝床『神託の揺り籠』へと変化する。


 マナ・レクス様は火口に向かい、手をかざす。


 火口の縁に付き出すように祭壇が現れ、卵は『神託の揺り籠』と共に、その祭壇へと安置される。すると、卵から暖かな光が広がり、辺り一面を包んだ。

 まるで陽だまりが弾けたような、微かで、しかし圧倒的に暖かな音が空間に満ちた。


「シュワァ……トゥォォォ……ォン……」


 火山ガスに覆われ、絶望の地へと成り果てるかに見えたラルーギア国――瘴気にまみれたその息吹は、神の手により、奇跡的に救われた。


 だがその代償はあまりにも大きく、わずかな農地には火山灰や墳石が降り積もり、一面が灰色の台地となった。


 残された民は、これまでの生活を捨てるしかなかった。

 北の国で危険な冒険者となり家族を養う術とした者、他国へと働きに行く者、わずかな農地を耕し、土を生まれ変わらせることを諦めない者、危険な海へと入り、魚を獲ることを生業とした者、様々に分かれる事となった。

 しかしこの国を捨てる者は、誰もいなかった。皆が、この国を愛していた。


 当時の王は全てが神罰と受け止め、深く反省をした。

 その思いは代々受け継がれ、王族だけでなく、兵士やすべての民の心に深く刻まれている。


 ◆◆◆



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