第十三話 避難生活開始~最初の食事はポトフにしました~
マナ・レクス様におかしな勘違いをされたまま帰られてしまった。
じとっと『くう』を見ると、嬉しそうに鼻先を上に向けて首をふりふりしている。
(さ、さて気を取り直して作りますか)
誰が来るか分からないから、アンセルに戻っておくか。
ポトフは薄味だから、肉はジビエと同じ様に処理した方が良いかな。先ずは茹でこぼしだ。
これは地道にカセットコンロと鍋でやろう。
残り物の肉を一口大に切り、良く水洗いしたら鍋に水(分量外)と肉を入れ、沸騰させてアクを抜いたら水で洗います(茹でこぼし)。
ベーコンを使う場合はこの工程は不要です。
~【ことこと煮込みシェフでポトフ】~
■材料(2人分)
・肉かベーコン:120g
・水煮野菜:2袋
・ウインナー:1束
・キャベツ:1/4玉
・玉ねぎ:1個
・顆粒コンソメ:大さじ1
・水:1リットル
・ローリエ:1枚
・塩・こしょう:適量
・ケチャップ:お好みで
■下準備
1.キャベツは大きめのざく切り、たまねぎはくし切りにする。
2.ウインナーは火が通りやすいよう、斜めに切り込みを入れる。
3.肉は水気をふき取り、塩・コショウをまぶしておく。
■作り方
1.『コトコト煮込みシェフ』に材料をすべて入れる。
2.強モードで4時間煮込む。
3.器に盛ったらお好みでケチャップを添えて完成。
お鍋で作る場合は、沸騰するまでは中火、沸騰後はごく弱火で、フタをしてコトコト30分〜1時間、野菜が柔らかくなるまで煮込めば完成です。
まだ晩ご飯には早いしもう一品作ろうか。お腹にたまるモノが良いかな。
よし! スパゲティサラダにしよう。
もう一度【スーパーサンタ】を開いて、買い物の追加をする。とにかく大量だからね。
早ゆで1分サラダスパゲティとチリソースと、マヨネーズに胡麻ドレッシングと味塩コショウも買っておくか。
後はハムとカニカマにレタスっと。
~【スパゲティサラダ】~
■材料(2人分)
・早ゆで1分サラダスパゲティ:50g
・チリソース・マヨネーズ・ゴマドレッシング:各小さじ4(20g)
・味塩コショウ:6振り(0.6g)
・ハム:2枚
・カニカマ:2本
・レタス:2~3枚
■下準備
1.レタスは軽く洗って一口大に千切る。
2.カニカマはほぐしておく。
3.ハムは半分に切り、7mm程度に切っておく。
■作り方
1.早ゆでサラスパを茹でたらお湯を切りボウルに入れる。
2.熱い内に麺が固まらない様にチリソースを加えて混ぜる。
3.少し冷めたらハム・カニカマ・マヨネーズ・胡麻ドレッシングと塩コショウを加えて良く混ぜる。
4.最後にレタスを加えて混ぜたら盛り付ける。
5.お好みで[浜乙女 味ごま]を振ったら完成。
※ツナを入れるなら2で入れてね。
「オーク肉がこれで終わったな。残りの肉が心もとないけど、スーパーで買うには大量で高くなりそうだな。解体前の魔物がそのままアイテムボックスにはあるけど、解体出来る人って居ないよな?」
ポツリとつぶやく。
「この国には冒険者ギルドは無いからな。だが、大丈夫だぞ」
(ダッシャーもギルドに心当たりは無いみたいだ。でも何で大丈夫なんだ?)
「おいおい、俺のことを忘れて貰っちゃあ困るな」
後ろから聞き覚えのある声がする。
振り返ると、プレホフ街の冒険者ギルドのギルドマスター『ルシアン』さんがそこに居た。
「どうしたんですか? プレホフのギルドを留守にして良いんですか?」
「ハッハッハ。あそこは閉鎖して来た。マナ・レクス様にも許しは貰ったぞ。次の拠点はこの街にするつもりだ」
(確かにマナ・レクス様直轄の組織って言ってたけど、自由だな)
「お前さん達が出国してすぐに俺たちも出て来たんだが、門が閉鎖される前に街に入れて助かったよ」
元々100年前の『神授の森』への侵入とこれまでの行いから、プレホフ街の冒険者ギルドは、デルポフ国の監視の役割も果たしていたそうだ。
あの国はギルドが解散した為に、今後は人の出入も減り衰退するだろうとのことだった。
「それにな。今回の件で『監視はもう必要ない』、と神が判断された様だ」
意味深なことを言ってますけど、これ以上は恐くて聞けなかった。
「それで何を解体すれば良いんだ?」
「数日は外に出られそうに無いので、どれだけ肉が必要か分からないから、手持ち全部お願いします」
灰の野猪と樹海の黒牛と雲岩鳥と深淵の巨岩鳥に、途中の川で獲った霊翠王鮭と霊峰赤魚を出した。
プレホフ国からの道すがら、暇を見つけてはせっせと『ダッシャー』が狩った魔物だ。
(もしかするとダッシャーこそ、避難生活を見越して狩りをしていたのかもな。この国の危機的状況は察していたみたいだし)
「これは凄いな。まぁギルド職員全員引き連れて来たから、安心して任せてくれ」
(え、その人たちの食事はどうするんでしょうか?)
まぁ僕には【スーパーサンタ】があるし、何とかなるだろう……。なるかな。
部屋に戻り、アイテムボックスの鍋の様子を見る。
塩で味を調えたらポトフは完成だ。
パンはバゲットとイギリス食パンを用意した。
ガーリックバターと粉チーズに、オリーブオイルとピンクソルトを追加で買う。
器に移したら準備完了。
(パッケージのまま出したら驚かれちゃうもんね)
アイテムボックスほったらかしで作ったポトフを、王宮の大きな鍋に移して広間に運ぶ。
王宮の大広間には不安で家に帰りたくない人や、王都の外から避難してきた人などが集まっていた。
すでに、王宮料理長の『トト』さん達が、丹精込めて作った料理がいくつか並んでいる。
『じっくり煮込まれた野菜のスープ』『大麦の雑炊』『ライ麦の黒パン』、それに『エール』だ。
「この非常事態に、城の備蓄をどう分配して調理したら良いのか、全く分からん」
「そうですね。野菜はその時々に収穫出来る物しかないですし、急遽かき集められた物も多くはありません」
「肉については塩漬けが多少はあるが、野菜は時間が経てば腐ってしまうからな」
「その前に使い切るにしても、何日この状況が続くか分からない中で、皆不安でしょう」
「それを言うなら俺だって、明日の食事をどう用意しようか、不安でしょうがないよ」
「セオドア王は、自らよりも民に配ってくれとおっしゃるが、そう言うわけにもいかん」
ドアが半開きになった隣の部屋から、料理人達の声が聞こえる。
「王が友と呼ぶ、ペガサス様が連れていらしたアンセル様が、食事の手助けをしてくださると聞きました」
「それは心強いですね。頼りにしても良いのではないでしょうか?」
「だが、俺たちでもこんなに不安に思うんだぞ。あの可愛らしいお方に、そんな気苦労をさせてはならんと俺は思うぞ」
「トト料理長。お会いになったんですか?」
「あぁ、先ほどお目通りさせていただいた」
静かに横を通り過ぎ、大広間に入るとフルーラ王妃が僕を見つけて、慌てて駆け寄ってきた。
「あらあらまぁまぁ。そんな大きなお鍋を一人で運んではダメですよ」
傍に控えていた従者を呼ぶ。
「アンセル様が作ってくださったお料理です。大切に運んでね」
「ありがとうございます。お願いします」
「おほほほほ」
(何か含みがあるんだよね。何だろう?)
◇◇
ポトフとスパゲティサラダにパンとトッピングをテーブルに並べた。
「少しですが、召し上がってください」
住民たちに勧めるが、僕が作った料理は珍しいらしく、いぶかしんで手に取っても貰えない。
「これは僕の故郷の料理で『ポトフ』と言います。薄味なので、お好みでこちらの調味料を使ってください。塩とこしょうにケチャップです」
「くんくん、これは初めて見た料理だけど、美味しそうな匂いだね」
一人の女性が、鍋から漂う匂いに釣られてやって来た。
やっぱり美味しそうな匂いは、腹の虫を誤魔化せない様だ。
「ググゥゥゥゥゥ……」「クゥゥ」「グゴォォォ」
みんなお腹の虫が反乱を起こしそうだ。すると恐る恐る口をつけてくれる人が出てきた。
「こんなに優しいスープは初めてです」
「ママ、お肉が入ってるよっっ」
「お野菜が柔らかいのに形を保っているのね」
「「「美味しいっ」」」
その様子に、遠巻きに見ていた人たちが、ざわざわし出した。
「そんなに美味しいのかい?」
「私にもおくれよ」
「俺も、俺も!」
「お口に合ったみたいで良かったです」
柔らかく煮えた野菜と温かいスープは、不安な心も疲れた体も癒してくれるだろう。
「こちらのトッピングはパンに塗ったり、ディップしてお楽しみください。」
これもまた、遠巻きに見つめたまま動かない。
最初に手を付けたのは、さっきも最初に食べてくれた、ぷっくりふくよかな見た目の(恐らくは)肝っ玉母さんだった。
「これも美味しそうだよっ。良い香りだ。みんな遠慮せずに頂こうじゃないか」
(どうぞどうぞ)
「皆さんの為にご用意したんです。遠慮はいりませんよ」
それでもみんなバゲットを1切れだけ手に持ったまま、固まっている。
「どうしたんですか? 美味しいと思いますよ」
「これは何だい? こんなに香ばしいのは、まさか……」
「『バゲット』と言います。少し固めに焼かれた水分少なめのパンですよ。ポトフのスープを吸わせて食べても美味しいです」
ザワザワ――。
「ヒソヒソ……これはライ麦パンじゃないね。真っ白だよ」
「それにさっき、塩だかこしょうだか言ってなかったかい?」
「まさかね……」
(あれ? 何かマズかったかな?)
「ハハハ、そりゃ白いパンなんて初めて見たんだろうよ。せっかくの大ご馳走なのに、食いたくない奴は食わなきゃいい」
振り向くとギルドマスターの『ルシアン』さんが、仲間の職員達とニコニコしながら立っていた。
おや、ちゃっかりポトフとサラダは各自取り分けて、バゲットは1皿丸ごと持って来てるぞ。
「……足りますか?」
心配になって聞くと、やはり少し足りなそうだ。
かと言ってポトフを今から作るには時間も掛かるし、パンだけ買ってもおかずが無い。
お惣菜も【スーパーサンタ】なら買えるだろうけど、ちょっと違う気がするんだよね。
「以前、解体して貰った肉が少しだけ残ってますが、食べますか?」
小さな声で後ろからそっと聞く。
ルシアンさんと職員が一斉に僕の方を向いて「食べるっ」と声をそろえて言った。
部屋に戻って[焼肉のたれ 二代目]と野菜炒め用のカット野菜と、冷凍うどんと粗むきじゃがいもをポチる。
~【レンジで野菜炒め】~
■材料(1人分)
・カット野菜(野菜炒め用):1/2袋〜1袋
・豚バラ肉:50g
・焼肉のたれ 二代目:小さじ1杯+大さじ2杯
■作り方
1.豚肉の薄切りに焼き肉のたれを小さじ1杯からめておく。
2.耐熱ボウルに冷凍うどん・カット野菜・①の肉を重ならない様に順に入れ、焼き肉のたれを大さじ2杯回しかける。
3.ふんわりとラップをかけ600wのレンジで5~6分チンする。
4.肉に火が通っているか確認し、底から全体をしっかり混ぜ合わせたら完成。
※お好みでマヨネーズをトッピングするとコクが出て濃厚な味わいになりますよ。
もう1品は[レンジで鶏じゃが風]にした。
~【レンジで鶏じゃが風】~
■材料(2人分)
・パックじゃがいも:1袋
・鶏もも肉:150g
・焼肉のたれ 二代目:大さじ2杯
■下準備
1.じゃがいもは大きい場合は2〜3cm角に切る。
■作り方
1.耐熱ボウルに一口大に切った鶏のもも肉とじゃがいもを入れ、焼き肉のたれを大さじ2杯加えて全体をよく和る。
2.ふんわりとラップをかけ600wのレンジでで4~5分チンする。
3.ラップをしたまま1~2分置いて蒸らしたら完成。
※お好みでバターを一かけ落とすと絶品です。
街のみんなが居る大広間とは別の、中広間へ、出来上がった焼きうどんと鶏じゃがを運ぶ。
大広間に居たルシアンさんに、コソッと声をかけて移動して貰う。
手にはしっかりとポトフとイギリス食パンを持っている。
(お代わりしたみたいだな。他の人たちの分がなくならない内に、移動して貰わないとだ)
「これも僕の故郷の食べ物です。濃いめの味付けが良い人は、上からこれを掛けて食べてください」
器に入れ替えた焼き肉のたれを隣に置いて、大皿に盛った焼きうどん風と鶏じゃが風を勧める。
「おお! この長い白いのは何だ? 不思議な食感だが、肉と相まって抜群に旨いな」
「こっちの野菜はじゃがいもか? こっちの汁と言い、こんな食べ方があるんだな」
ポトフも鶏じゃがも大き目野菜がゴロゴロだ。
コッチの世界ではダシを取ったりはしないらしく、野菜は形が無くなるまで煮てしまうし、味付けも単調な物が多い。
(こんな簡単な料理でも、奥深い味に感じるんだろうな)
肉と野菜から出るうま味の相乗効果か。簡単早くて美味いは最上だ。




