第百三十九話 2日目の飲み物を用意しました~新作はパイングリーンティ~
「そう言えば、木樽組み立ての方はどれ位進んでるか分かりますか?」
「朝一番で様子を見に行ったが、昼までには組み立てが完了すると思うぞ」
冒険者ギルドのスタッフもお手伝いに行ってくれている。ギルマスのルシアンさんはしっかりと部下の様子も確認済みの様だ。
「えぇ、ダッシャー殿の質量相殺魔法陣のお陰で、私の部下たちでも完成した樽ならば持ち上げられる、と大喜びでお手伝いをしていましたよ」
シアンさんも王宮職員が役に立っていて嬉しいと言ってくれる。
「それもセオドア王とシアンさんが、大切な『思い出の魔石』を譲ってくれたからですよ」
「我らの思い出がこうして国の未来に繋がると思うと、感慨深いものだな」
セオドア王は今回のクレイが未来へと続く、この国を豊かにする一歩目の歩みだと、しみじみと噛みしめている。
「全くです。何より『飛天の純鱗』を使われたら、フタへの加工ですら国宝級の『魔導象嵌』と言わしめた品物なのに、これ以上高価にされたら、それこそ誰も触れることすらも出来なくなってしまいますよ」
シアンさんは別の意味でしみじみと語る。
「我にとっては、お主らの魔石も飛天の純鱗も、どちらも大して変わらぬのだがな」
「ダッシャー様がそんな風だから、アンセル様も同じ感覚なんだろうな」
何だか酷い言われようだけど、僕にはこの世界の物の価値は全く分からない。そもそもダッシャーはサクッと軽く魔物を狩って来るし、それが高値で買い取りして貰えても、食材やら必要な物を買い揃えたら残っているのかも分からない。
「ねぇ、ダッシャー。君が狩ってくれた魔物ってどれもほとんどが買い取り価格が高額の物なんだよね?」
「我は美味い魔物を狩ってるだけだがな」
「いやいや、ダッシャー様にアンセル様よ。どれもこれも高値なんて物じゃねぇよ。実際、ギルドで買い取り拒否した品の一つが『飛天の純鱗』だぞ?」
確かに隣国の冒険者ギルドで買い取りを拒否られた物の一つが『飛天の純鱗』だけど……。
「でもあれも暇つぶしにサクッと狩ったって言ってなかった?」
「お主がヘタっておった間にサクッと狩ったな」
「ほら! ね?」
「ルシアン殿、その話題はあきらめた方が良いと思うぞ?」
セオドア王に呆れた顔でそんな風に言われると、僕たちがダメダメみたいな気がする。まぁ価値観の違いは人間だれしもあることだ。無視しよう!
「今日の休憩所のドリンクですが、何かリクエストは有りますか?」
「私はカフェオレを所望する」
セオドア王はやっぱりカフェオレがお気に入りだ。
「俺は何でも良いが、甘くないのもあると嬉しいな」
ルシアンさんは何でも良いのは分かっていた。
「私は昨日とは違う物も飲んでみたいです!」
シアンさんは新しもの好きだ。
「では今日はここのクレイ引き上げの現場には、昨日と同じ麦茶とカフェオレと新しくレモンティと、こちらは力仕事になると思うの追加で甘酒にしますね」
「ほぉほぉ、レモンティとは紅茶ですな?」
シアンさんの食いつきが良い。ここではアイスティは珍しいみたいだ。
「カフェオレもレモンティも、今日は甘さのない物を用意しますので、これでお好みの甘さにしてくださいね」
ジャグにたっぷりのオリゴ糖を用意した。
「オリゴ、糖……ですか?」
「これはですね、出す瞬間に冷え冷えになったレモンティーやカフェオレにも、底に沈まずに一瞬でサラッと溶けるんですよ。それにベタベタしない上品な甘さだから、紅茶やコーヒーの香りが引き立つんです。……何より、避難生活や慣れない力仕事でみんなお腹の調子を崩しやすいでしょ? オリゴ糖は、お腹の中を元気にして、すっきり健康にしてくれる効果もあるんですよ」
「ほぉ……! 飲む一瞬の美味しさだけでなく、皆の体調まで見据えて薬のような蜜を用意してくれるなんて。アンセル殿の優しさは、本当にどこまで行き届いているのだな……!」
その天女様でも見る様な眼差しは止めて頂きたいですよ。セオドア王。
「樽組み立て所はこちら側と思うと動かす樽も軽いので、女性を多く配置しますよね?」
「森での作業は、昨日ダッシャー殿が日暮れを遅らせてくださったので、終えることが出来ました。王宮職員は、全員あちら側へ配置しています」
「樽組み立て所にはノンアルサングリアと麦茶、女性が多いのなら新しくパイン・グリーンティーにしますね」
麦茶は昨日と同じ濃縮タイプ、カフェオレは無糖の希釈タイプを使って水とミルクで割る。レモンティは紅茶の希釈タイプにレモン汁を入れて完成。
甘酒は、ダッシャーが僕用に作ってくれた【温冷の聖泉器】に米麹とご飯とお水を入れて、2回スイッチを回したら3分ほどで完成だ。
ノンアルサングリアは少し趣向を変えて、100%のぶどうジュースに缶詰のフルーツと今日はりんごとメロンと人参を入れる。
ジュースに人参? って驚くかもしれないけど、スライスした人参からは綺麗なオレンジ色の色素がじんわりと溶け出して、ぶどうジュースの深い赤色をひと際鮮やかで美しい琥珀色に染め上げてくれる。
それに、人参の持つ優しい甘みと香りは、ぶどうの強い酸味のカドを滑らかに丸めて、ジュース全体のコクを何倍にも引き立ててくれる隠し味になる。もちろん、濃厚なぶどう液が芯まで染み込むから、人参特有の青臭さは完全に消えて、人間にとってもフルーティーな高級ピクルスみたいに美味しく食べられる。
「何より、りんごと人参は、お馬さんたちの大好物だからね」
ふふ、これが僕の本当の狙いだ。
パイン・グリーンティーは緑茶とパイナップルジュースを「7:3」の割合で混ぜ、冷凍パインを袋に入れて吊るしたら完成。
緑茶の渋みがパイナップルのカドを落とし、驚くほどすっきりとしていて上品な甘さのフルーツ茶だ。見た目も透き通った綺麗なライトグリーンで女性受けも良いだろう。
「昨日と同じでお代わりの水差しと、ジャグのリボンの色を同じ物にしてあります。水差しの中身を全部入れて足りない分は井戸水を入れると丁度良い濃さになるので、水を足し忘れない様にしてくださいね」
シアンさんに樽組み立て所用のノンアルサングリアと麦茶、パイン・グリーンティーを渡そうと思ったら嫌だと言われた。ここは王宮職員は今は立ち入り禁止にしているから、運ぶのは自分になってしまう。
樽の組み立てよりもクレイの引き上げの方が興味がある様だ。
見かねたルシアンさんが部下に指示を出してくれた。僕ならアイテムボックスに仕舞って運べるけど、確かにこの量を普通に運ぶのは大変か。




