第百三十六話 グローの鱗でミニチュア太陽を作りました~やっぱり彼は神獣~
乾燥室の床や壁にも、棚板と同じ火山岩を仕込み遠赤外線効果を高め、風魔法でミニ太陽の熱が部屋の中を循環する様にしたい。
「この風魔法はダッシャーか、らんちゃんお願いね」
「んきゅ、やるの」
「うむ、らんがやると良い」
「チリィン、ベルちゃんもやるの」
「乾燥室の隣には蒸留水を作る為に必要な冷蔵室を作るから、これはベルちゃんもお手伝いしてね」
「はぁい、チリリン」
冷蔵室で作られた冷気が天井を伝って二重ドームを冷やせば、蒸留された水分は一気に結露し、流れて溜まる先もまた隣の冷蔵室だ。
ここで重要なのは冷蔵室が実は隠し部屋で、表向きはエールが貯蔵されていて、冷え冷えの状態でコックの先からあちら側へと供給される。
でも実際にはクレイの樽が保管されていて、部屋は閉じ切り、樽とその中身、クレイにしてもエールにしても一般には何も見せない。
「とまぁ、こんな感じで大丈夫ですか?」
「まぁ、結局はダッシャー様が整えてくれるんだろ?」
ルシアンさんが思考を放棄した。
「うむ、ダッシャーとアンセル殿に任せておけば間違いはないだろう」
「そうですね。私も賛成です!」
セオドア王とシアンさんまでも丸投げだ。まぁ好きにやらせて貰えるのは有難いし、信頼されてるって前向けに捉えよう。
まずは乾燥室となる部屋そのものの内装に着手する。
あらかじめトレントの森でサイズごとに完璧に加工され、僕のアイテムボックスに仕舞われていた『極上火山岩』のプレートを取り出し、両手で受け止めた――その瞬間。
「……うおっ!? っととと、これ、やっぱめちゃくちゃ重たいよ……!」
ずしりと両腕にかかる予想以上の重量に、僕は思わずよろめいた。
「アンセル様、大丈夫か? 火山岩だからな、見た目以上に中身が詰まってやがるんだ」
ルシアンさんが苦笑しながら手を貸してくれる。
「ありがとう。案外重たいんだね、これ」
「アイテムボックスに入れる時にはどうしたんだ?」
「ダッシャーが切り出して加工してくれた傍から仕舞ったから、僕は重さなんて感じなかったんだよね」
「ダッシャー様もアンセル様には甘々なんだな」
「ふん! そやつにケガでもされて、食事に支障があってはならぬからな」
冷蔵室にしようと思っている部屋の隣、地下分水宮からの隠し部屋の中に、板材とプレートを一旦置いた。
「ダンッ!!」
ダッシャーが前足の蹄を力強く打ち鳴らすと、黒銀色のプレートがふわふわと宙に浮き上がり、乾燥室の内壁と床の全面へ、寸分の狂いもなくピタリとはめ込まれていった。
さらにその上を覆うように、『月桂魔樹』のカバー材が美しく組み上がっていく。
隣に設える冷蔵室へと繋がる天上は、二重のドーム型へと整えられた。
「それじゃあ、この乾燥室の心臓部、天井の熱源だね。ベルちゃん、じぃじの鱗を使うよ?」
「チリィン! はぁい!」
僕はアイテムボックスから、ほんのり夕焼け色の光を内側に閉じ込めた結晶を取り出した。プールでベルちゃんが拾ったファイヤドラゴン・グローの、美しく大きな鱗だ。
手のひらに載せるだけでじんわりとした優しいぬくもりが伝わってくる、ルビーのように美しい結晶を、僕はドーム型の二重天井の真下へと掲げた。
「ダッシャー、お願い。眩しくなくて、みんなをポカポカ温めてくれるような、可愛い太陽にしたいんだ」
「フッ、我が魔回路の構築、とくと目に焼き付けるが良い」
ダッシャーが静かに一歩前へ進み出た。
その美しい鬣がキラキラ……と繊細な光を放ち、まっすぐにグローの鱗を見つめる。
「――我が風よ、熱を包み、光を編め」
ダッシャーのいななきと共に、ドーム天井の空間に、神聖な青白い魔力の糸が無数に紡ぎだされた。その光の糸が、僕の手元にある夕焼け色の鱗へと、生き物のようにするすると絡みついていく。
次の瞬間、グローの鱗がフワリと手を離れ、天井の真ん中へと浮かび上がった。
編み上げられた魔力の繭に包まれた鱗は、まばゆい真紅の閃光を放ち――しかしそれは、ダッシャーの【遮熱結界】によって瞬時に和らげられていく。
――ピキィィン……!
心地よい魔導の駆動音が響き渡り、光が収まったとき、そこには優しく可愛らしい光景が広がっていた。
ドラゴンの魔力は完全に手懐けられ、直径三十センチほどの、真ん丸でぽってりとした、まるで絵本から飛び出してきたかのような『可愛らしいミニチュアの太陽』へと姿を変えていたのだ。
「わあ……可愛い……っ」
僕は思わずため息を漏らした。
作り出された太陽は、直視しても眩しくない。それどころか、見ているだけで心がホッとするような、オレンジ色の柔らかい日差しに満ちた光を、部屋一面へと優しく放っている。
「きゅぶっ! 太陽さん、可愛いの!」
「チリィン、あったかなのぉ!」
らんちゃんとベルちゃんが嬉しそうに空中を跳ね回る。
ダッシャーがさらに前足をトントンと刻むように動かすと、天井のドームに刻まれた円形の軌道に沿って、その小さな太陽がゆっくりと動き始めた。1時間に1周という絶妙な速度で、部屋の隅々を均一に照らすようにグルグルと旋回を始めたのだ。
「おぉ……これは凄まじいな。ファイヤドラゴンの莫大な熱量を、ここまで完璧に制御して『極上の陽だまり』のような空間に変えてしまうとは」
セオドア王が天井を見上げ、うっとりと見惚れるように呟いた。
上空をゆっくり回る太陽の光は、部屋の内壁と床に敷き詰められた黒銀色の極上火山岩プレートに当たって、さらなる遠赤外線効果を生み出していく。月桂魔樹の木の香りが、心地よい温風に乗ってふわりと部屋中に広がった。
「次は太陽の熱を部屋全体に届けるために、風を優しく循環させたいんだ。……らんちゃん、お願いしてもいい?」
「きゅぶっ! 風さんグルグル、がんばるの!」
僕の肩に乗っていたアルミラージのらんちゃんが、額の小さな角をきらりと光らせて床へと飛び降りた。
「あぁっ! 飛び降りたら危ないでしょ!?」
「ママ、ごめんなさい。きゅぅぅ」




