第百三十五話 タッチパネルの操作権限を付与しました~乾燥室構想案の再確認~
「ねぇダッシャー。この後だけどクレイを引き上げるのと乾燥室を作るのと、どっちを先にやるのが良いかな?」
「先にクレイを引き上げたとして、大量の樽をどこに置くつもりだ?」
「そうか、じゃあ先に手を付けるのは乾燥室と冷蔵室だね。クレイ入りの樽はなるべく人目につかない方が良いから、引き上げた傍から部屋に入れた方が安心だもんね」
「では行くか」
「うん。リリー、ブラン。僕たちまた日中は外の世界でやりたいことがあるから行くね。何かあったら通信機で連絡してね」
「えぇ、分かったわ。でも、何も無いから大丈夫よ」
お花畑でやることが増えたのに、いつもの口調で返すリリーがまた可愛い。
「アンセル様、なにか異変がございましたら、テレビ型通信機、もしくはショップの魔導端末より、このブランがただちにご連絡差し上げます。どうぞご安心を」
ダッシャーが作ってくれた『タッチパネル式種苗ショップ』はメニューの中に作付けする作物を先に登録し、僕のアイテムボックスに商品があればその場で手に入れられるけど、そこに商品が無ければ僕に通信が届く様になっている。
連絡が来たら僕はホームサンタでポチり、アイテムボックスの【リリーの小さな種苗屋さん】へ入れる。
道具についても同様だ。
ブール達に渡した道具もタッチパネルに登録されていて、必要になってポチった時に手持ちが有ればその場で入手出来るし、無ければ僕が買いそろえる。
ただ、誰でもタッチパネルが操作出来てしまうと要不要の判断がされずに、欲しいだけ与えてしまうのは良くない。
だからタッチパネルを操作する権限をブラン達5人のブレーンと、その側近の5人のリーダーだけに与えた。
ちなみにダッシャーがおもちゃの働く車に付与した魔法陣は僕には作り出せない。
だからトラック等、買うだけじゃなくてひと手間掛かる物は、タッチパネルには入れていない。
これから畑や田んぼが拡大されたら、その時にはみんなから設備増設の要請があるだろう。
「ブラン、リリーやみんなのまとめ役で大変だと思うけど、頑張ってね」
「はい、必ずやあるじ様のご期待に応えてご覧に入れます」
ブランは凛と背筋を伸ばすと、胸元へと手を添えてにこりとほほ笑んだ。
「じゃあベルちゃんとらんちゃんはスリングに入ってね」
子供たちを大切に抱えてダッシャーへと跨った。
「ぶらん、頑張るの」「バイバイなの」
ダッシャーが常春の箱庭を唱えると純白の扉が現れ、僕たちはその中へと駆け抜けた。
扉の先は王宮の離れ、かつて地下分水宮を建立するために使われた労働者宿舎、今は冒険者ギルドの仮設本部のある建物の中だった。
「相変わらず派手派手しいな。アンセル様よ」
「おはようございます。ルシアンさん」
「あぁ、おはよう。それで、ここに来たってことは今日はここでの作業か?」
「えぇ、ダッシャーが僕が居なくても樽の製作は順調に終わるだろうって言ったので、樽が全部組み上がる前に乾燥室を作ろうと思って来ました」
「そうだな、いつまでもエール醸造所に置いたままには出来ねぇからな」
「出来上がったのに使われないってなると、頑張って組み立ててくれてる人達のやる気が削がれますからね」
「おぉ? 分かってるじゃねぇの」
僕だって頑張って作った料理に、手を付けられずに冷めていくのを見るのは嫌だ。
まぁ今は時間経過無しボックスがあるから、すぐに食べなくても冷めたりはしないけど、そう言う話しじゃないんだよね。
「我は放置などせぬぞ。すぐに食べるのだ」
「また僕の心を読みましたね。ダッシャーさん」
「何だ、職人の心が分かってると思って褒めたのに、料理人の心だったか。そいつはアンセル様らしいや」
そんな他愛もない話しをしていたら、セオドア王がシアンさんと共に現れた。
何とタイミングのいいことと思ったら、僕たちが常春の箱庭を使うと桜の花びらが舞うから分かるんだそうだ。
まぁじゃあもぉ隠す必要もないし、遠慮なく使っても良いんじゃないか? と思ったけど、また『くう』に言いたくないお小言を言わせるのも悪いし、自重しよう……。
丁度皆さん勢ぞろいしてくれたことだし、セオドア王とシアンさん、ルシアンさんに僕の構想を改めて説明した。
クレイ乾燥用の木枠と台は『月桂魔樹』を使い、火山岩プレートを内装するのは決定事項だ。
みんなは反対したけど、ファイヤドラゴン・グローの抜け落ちた鱗は人口太陽として使うことも決定だ。
【ゲル状のクレイを乾燥する部屋】
冒険者ギルドが仮住まいをしている、かつての労働者用宿舎。今、僕たちが居るこの場所、地下分水宮からクレイをすくい上げる装置の有る建物の内部に作る。
【乾燥室に置く棚と棚板】
『月桂魔樹』で作られた、枠組みだけのシンプルなカートがいくつも並んでいて、そこにクレイを入れた引き出しを複数枚セット出来る様にする。
引き出しの板にはダッシャーが切り出してくれた、この『溶岩石』を敷き、その棚板は出し入れがしやすい様に木枠で囲む。
「んん? この棚板の溶岩プレートも案外重いね」
僕はアイテムボックスから半分取り出した溶岩プレートを持ったまま、上目遣いにダッシャーを見つめた。
「分かっておる」
「えへへ、ありがと」
【乾燥室の乾燥装置】
ドーム状の二重天井で、グローの鱗で作った「ミニチュア太陽」が天井をグルグルと旋回し、クレイから水分を蒸発させて、濃縮された『火の山の魔水エッセンス』が四隅に溜まる。
「あっ! 重力軽減の魔法陣を発動させるのに、また魔石か素材が必要だと思ったけど、もしかしたらグローの鱗でワイヤレス供給が出来たりするの?」
「可能だ。我は初めからそのつもりだったがな」
「ほほぉ、さすがはダッシャー様ですね」
僕が笑いながら返すとダッシャーはスイっと顔をそむけた。




