第百三十四話 おもちゃの車が動き出しました~動力は神輝石(しんきせき)~
「いつも頼りになる僕のお友達のダッシャー、まずは僕のアイテムボックスに【リリーの小さな種苗屋さん】を追加して、それをお花畑と繋げて欲しいんだ」
僕がそう頼むと、ダッシャーは美しく白い翼をパタパタと揺らし、「ふん、任せておけ!」と誇らしげに胸を張った。
かつて、僕のアイテムボックスの中にリリーのためのお花畑を作ろうとダッシャーがハッキングを試みたとき、マナ・レクス様が横からサクッと現れて一瞬で創り上げてしまった過去がある。けれど、このお花畑へと続く『扉』を開けてくれたのは、他ならぬダッシャーの偉大な空間魔術だ。この空間の導線を繋ぎ直すことにかけては、ダッシャーの右に出るものはいない。
ダッシャーが美しい翼をきらめかせると、お花畑の常春の光を吸い込んだような、眩いクリスタルブルーの魔力が溢れ出した。
その光はドールハウスの前に置かれたタッチパネル式の無人種苗ショップへと吸い込まれていき、同時に、僕のアイテムボックスのシステム画面に新たなログが刻まれる。
【システム:空間同期完了――【リリーの小さな種苗屋さん】が解放されました】
タッチパネルの画面が「ピッ!」と鮮やかな光を放って起動し、みんなで決めた種や苗の情報が、可愛いミニチュアのアイコンとなってズラリと画面に整列していった。
「わぁ、ありがとう! こんな一瞬で出来ちゃうなんて、やっぱりダッシャーは凄いね!」
僕がダッシャーの首筋を撫でて心から褒め称えると、周囲を囲むフェアリーたちからも、一斉に惜しみない賛辞の拍手が送られた。
「素晴らしい空間接続です、ダッシャー殿! 完璧な処理速度、まさしく気高き神獣の御業ですね」
ガトー・ブランが、美しい所作で深く一礼する。
「さすがダッシャー様だ! これでいつでも、あるじ様の種や苗を引き出せます。本当にありがとうございます!」
ガレット・ブールも誠実な瞳を輝かせて頭を下げ、側近のブランシェやリュクスたち少女たちも「ダッシャー様すごーい!」「格好いい!」とダッシャーの周りで大喜びだ。
みんなに褒められて、ダッシャーはこれ以上ないほど満足げだ。よし、今ならこの勢いのまま、一番の難題もお願いできるはずだ。
僕はテーブルに並べられた、トイ・サンタで買たばかりの「はたらく車」のミニカーたち――精巧なプラスチック製のトラクターや軽トラ、タンクローリーに視線を落とした。
「ダッシャー、じゃあ次はこのはたらく車たちを、実際にブールたちが本物の農機具として使えるようにして欲しいんだ。おもちゃのプラスチックの強度を畑の泥に負けない鋼鉄に変えて、アイテムボックスの神輝石で動くエンジンと、地面にしっかり食い込む重さも必要で……。すっごく難しいとは思うけど、出来る……よね?」
僕がちょっとおねだりするように見上げると、ダッシャーは自慢の翼をバサッと大きく広げ、不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、我に出来ぬことなぞないわ!」
そう豪語すると同時に、ダッシャーの足元から、お花畑の地面を覆い尽くすほどの巨大な金色の魔法陣が、幾重もの幾何学模様を描きながら鮮やかに展開された。
――ゴオォォ……!
心地よい魔力の地鳴りが響き、魔法陣から放たれた目も眩むような聖なる光が、並んだミニカーたちを包み込んでいく。
光の中で、プラスチック製だったおもちゃのボディが、まるで鍛冶職人に命を吹き込まれたかのように、鈍い銀色や重厚な塗装を施された本物の「超硬質魔導合金」へと一瞬で概念変換されていくのが分かった。ボンネットの奥からは、神輝石のパワーを吸い込んで力強く脈打つ「極小のマナ・エンジン」のハイドロ音が静かに響き始める。
光の霧が晴れると、そこには質感も重量も完全に『本物の農機具』へと生まれ変わった、完璧な働く車たちが整然と並んでいた。
「うわあ、すごい……! 本当に一発で出来ちゃった!」
「我に出来ぬことなどないわ。さあ、 乗り心地を試してみるが良い!」
ダッシャーが誇らしげに前足を鳴らすと、ブールたちは「おおおっ!」と歓声を上げ、目を輝かせてピカピカのトラクターや軽トラへと駆け寄っていくのだった。
「じゃあみんなが畑を耕してる間に、僕は種や苗を用意しておくね。後はこのタッチパネルから取り出してね」
僕がそう声をかけると、新車へと生まれ変わったミニカーたちの前で、フェアリーたちのボルテージは最高潮に達した。
「うわああっ! 見てください、あるじ様! ハンドルが、革巻きになっています!」
ガナッシュ・チェリーが、大型トレーラートラックの運転席に飛び乗り、大興奮でクラクションを鳴らす。プップー! と小気味よい音が響き渡った。
「ふん、これなら悪路のパトロールも完璧よ」
グラニテ・シトロンは、水色の軽トラックのドアをカチッと閉め、少しツンとした態度を見せつつも、嬉しさを隠しきれない様子でハンドルを握りしめる。側近リーダーのミントたちも荷台に乗り込み、「シトロン様、出発進行です!」とキャッキャと声をあげている。
「よし、エンジン始動だ!」
ハニーゴールドのライディングパンツの裾を直した現場指揮官、ガレット・ブールが、主役であるトラクターのスターターキーを回した。
――ドルルルンッ!
ダッシャーの魔法によって組み込まれた「マナ・エンジン」が、まるでお花畑の呼吸と同期するように、深く重厚な音を立てて力強く目覚める。
「おおおっ……! 動く、本当に動くぞ!」
ブールがアクセルを踏み込むと、大きなタイヤが、ロイヤルポーションの水で潤う肥沃な土を力強く掴み、ガタゴトと前進を始めた。後ろに繋いだ土引きがザクザクと土を掘り起こし、一瞬で見事な畝のベースが出来上がっていく。
「リュクス、みんな! 給水タンクローリーの準備も頼むよ! まずは手押しポンプで水を汲んで、僕のトラクターに続けー!」
「はい、ブール様!」
側近リーダーのリュクスをはじめとする少女たちが、ブリキのバケツやジョウロを手に、賑やかに水汲み場へと走り出す。
その様子を、純白のジレを着た総括官、ガトー・ブランが側近のブランシェと共に冷静に見守っていた。
「あるじ様。第一陣の開墾は彼らに任せ、我々は【リリーの小さな種苗屋さん】へ仕入れるラインナップの最終確認とまいりましょう」
ブランが提示した、ホームセンターで買い揃えるべき「最初の買い物リスト」の数量は以下の通りだ。
・稲苗:1反分40箱
・小麦の種:15kg入り1袋
・タカノツメの苗:2ケース(48ポット)
・ハバネロの苗:1ケース(24ポット)
・ショウガの種芋:1袋(5kg入り)
・ニンニクの種球:1袋(5kg入り)
・大豆の種:1袋(1kg約4,000粒入り)
・ラベンダーの苗:1ケース(24ポット)
・カモミールの苗:1ケース(24ポット)
・イチゴの苗:2ケース(48ポット)
・甘い大玉トマトの苗:1ケース(24ポット)
・カボチャの種:2袋(各100粒入り)
・サツマイモの種芋:1箱(5kg入り)
ホーム・サンタから山積みの苗箱や、ずっしりと重い種の大袋がドサドサと出現し、【リリーの小さな種苗屋さん】へと格納されていく。
「よし、取り寄せ完了! これだけあれば、お花畑を何反分もの大農地に開墾しても足りなくなることはないね」
「見事な手際です、あるじ様。これで我が【常春の箱庭国】の種苗ショップに全ての命のデータが同期されました。さっそくブールたちに連絡を入れましょう」
ガトー・ブランが、美しい指先でテレビ型通信機のスイッチを入れるのだった。




