第百三十三話 ハイテク魔法農園が始動します~種苗は縮小・最適化してお届け~
僕は、ひじ掛けの上で目を輝かせている小さな子供たちを見つめた。
「種や苗もホームサンタで買えるけど、そのままだと君たちには大きすぎだよね。カボチャの種なんて君たちの盾みたいになっちゃうし……。ねぇ、ダッシャー。僕が用意した人間サイズの種や苗を、この子たちにぴったりなサイズに変化させることってできるかな?」
僕の問いかけに、ダッシャーが呆れた様に翼をそっと揺らし、僕を見つめる。
「お主には何か考えがあるのであろう? 我に出来ぬことはない。言ってみよ」
「例えばさ、僕が取り寄せた種や苗をアイテムボックスの【リリーの小さな種苗屋さん】に入れたら、お花畑側からこの子たちが取り出す時には、自動的に1/12サイズに小さくなって出てくる」
「お主のアイテムボックスは良いとして、こちら側の受け取りはどうするつもりだ?」
「今ってあっちの世界では無人販売機が増えているんだよ。ドールハウスの種苗ショップを用意して、そこに無人販売機を置いたらどうだろうか?」
「ふむ、それでよいぞ」
「そしてみんなが一生懸命育てて、食べきれないほどたくさん収穫できたら、今度はお花畑の【出荷センター】から僕に送ってもらう。その瞬間に元の大きさに戻って、僕のアイテムボックスの【お花畑からの贈り物】ボックスに届く……なんて仕組みにできたら、外の世界でも有効活用できて、すっごく便利だよね!」
「あるじ様、それは素晴らしいアイデアです!」
総括官のガトー・ブランが、純白のジレの胸元に手を当てて深く頷く。
「それならば、我が国の会計と在庫の管理もすべてタッチパネルで一元化できます。人間界の大きな種に押し潰される心配もなく、安全に、かつ迅速に大豊作を目指せますね」
「ふふ、面白そうなシステムね。その『縮小と巨大化』の魔力の波形、ぜひ私の研究データとして詳しく解析させてちょうだい?」
グラッセ・ミュールが流れるようなアシンメトリーのシャツを揺らし、妖艶な目を細めてクスリと笑った。
僕はトイ・サンタでドールハウスの『種苗ショップ』と『タッチパネル式の券売機』、一緒に『フルーツショップ』をポチった。
「それじゃあ、具体的にどんな作物を育てるか、みんなで計画を立てよう!」
僕がそう言うと、テーブルを囲むみんなの目が一斉に輝いた。
常春の箱庭国の豊かな未来に向けた、初めての「作戦会議」の始まりだ。
僕のアイテムボックス内に特設する人間サイズの【リリーの小さな種苗屋さん】と、お花畑に置くフェアリー用の『タッチパネル式種苗ショップ』。この魔法の流通システムをフルに活かして、おもちゃ屋さんで買う「はたらく車」の役割分担と一緒に、何を育てるかをみんなで相談することにした。
「まずはやっぱり、主食になるものが欲しいよね。リリーも言ってたお米やパンの原材料からいこうか」
僕の言葉に、ハニーゴールドのライディングパンツの裾を正した現場指揮官、ガレット・ブールが真っ先に手を挙げた。
「アンセル様、それなら『稲苗』と『小麦の種』は絶対に外せません。幸い、ダッシャー様たちのおかげで、栄養満点のロイヤルポーションの水源がすぐそばにあります。この贅沢な水を引き込めば、最高に瑞々しい水田と、黄金色に輝く小麦畑が作れます!」
「いいね! ブールが『トラクター』と、後ろに繋ぐ『土引き(プラウ)』を運転して一気に耕せば、大農園がすぐに出来上がるよ」
僕がそう言うと、ブールの側近リーダーであるリュクスたち少女たちも「ブール様、応援します!」と嬉しそうに声を弾ませた。
「ふん、主食の次は、セキュリティや体調管理にも役立つ野菜ね」
クリスタルブルーのスタンドカラージャケットの襟を正し、少しツンとした口調で口を開いたのは、リスク管理担当のグラニテ・シトロンだ。
「身体を温めて免疫力を高める『ショウガ』や『ニンニク』、それから防犯のフェンスにもなる『ハバネロ』や『タカノツメ』を提案するわ。外部の脅威を退けるためにも、ピリッと辛い防衛ハーブは必須よ」
「なるほど、防犯も兼ねたハーブ菜園だね! シトロンには小回りの利く手押し式の『耕運機』や、苗を運ぶ『軽トラック』を配備しよう。これなら側近のミントたちと一緒に、お花畑をガードしながら作業できるね」
「べ、別に私が自分で運転したいわけじゃないけれど、そこまで言うなら夜回り用に軽トラの操作はマスターしておくわ」
シトロンは少し顔を赤くして胸を張った。
「うふふ、それなら私は、研究のしがいがある面白いお野菜が欲しいわね」
深紫色のタイトなジレを纏ったグラッセ・ミュールが、手を顎に当てて微笑む。
「例えば、栄養価が抜群に高くて、色々な加工に使える『大豆』はどうかしら? お豆腐にも、お味噌やお醤油にもなるわ。それから、魔力の吸収率が良い『紫キャベツ』や『ラベンダーやカモミール等のハーブ類』。これらから新しいプロポリスのブレンドを開発したいの」
「大豆にハーブか、さすがミュール、先を見据えてるね! ミュールと側近のカシスたちには、等間隔で綺麗に種を落とせるトラクター用の『播種機(種まき機)』を任せるよ。精密なデータ管理が必要な作業にぴったりだ」
「わあ、みんなすっごく真面目なものばかりだね! だったら僕は、とにかく食べてハッピーになれる、甘くて美味しいものがいいな!」
ルビーレッドのサスペンダーをパチンと弾ませて元気よく発言したのは、加工担当のガナッシュ・チェリーだ。
「アンセル様、『イチゴ』に『甘い大玉トマト』、それから『カボチャ』や『サツマイモ』がいい! 焼き上がったクレープやパンケーキに、僕が作った特製ハチミツと一緒にたっぷりのせて、みんなでティーパーティをするんだ!」
「最高だね、チェリー! 甘いお野菜やフルーツはみんなも大喜びするよ」
チェリーと側近リーダーのベリーたちには、収穫した大玉のトマトやカボチャを傷つけずに運べる、『大型トレーラー付きトラック』をプレゼントすることにした。チェリーが楽しそうに大型車を乗りこなす姿が目に浮かぶ。
最後に、純白の端正なジレを着た総括官、ガトー・ブランが、澄んだ、しかし満足そうな声で全体のまとめに入った。
「皆、素晴らしい提案です。主食の稲・小麦、防衛の唐辛子・薬菜、研究開発の大豆・ハーブ、そして付加価値を高める果菜類。……あるじ様、タッチパネルのショップに登録する最初のラインナップとしては、これで完璧かと存じます。私と側近のブランシェで、さっそく帳簿へこれらを記載しておきます」
「ありがとう、ブラン。よし、育てるものが決まったね!」
僕は嬉しくなって、みんなを見渡した。
お米に、小麦に、美味しいお野菜やフルーツ。
僕がホーム・サンタでこれらを買って【リリーの小さな種苗屋さん】へ入れれば、お花畑のタッチパネル式ショップから、彼女たちのサイズに『縮小・最適化』されてポンポンと飛び出してくる。
そしてトイ・サンタで買ったトラクターや軽トラをみんなで動かして、大豊作になったら【出荷センター】から【お花畑からの贈り物】ボックスへ奉納され、元の大きなサイズに戻って僕の元へ届くんだ。
「あるじ様、素晴らしい計画だわ。早く私のかわいい娘たちと一緒に、働く車が動くところを見てみたいわね」
クイーン・リリーがうっとりと微笑み、15人の少女たちも、早く畑仕事がしたくてウズウズした様子で「わあ、楽しみ!」と歓声をあげている。
常春の箱庭国に、僕たちの初めての「ハイテク魔法農園」が、いよいよ本格的に始動しようとしていた。




