第百三十話 コムハニーの1品を可愛く飾りました~エディブルフラワーの採集~
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「アンセル様、妹たちの朝食の支度、僕にお任せください!」
ガナッシュが自信満々にお手伝いを申し出てくれる。
リリーからのリクエストで15人の女の子たちの二度目の食事は、昨日ブラン達が食べたのと同じ巣蜜の一皿だ。
『守護の聖水』を朝一番に飲んだ彼女たちは、お花畑での採集を済ませた後にもかかわらず、疲れも見せずにガゼボに入ったり出たり、楽しそうに飛び回っていた。
これから彼女たちが住まうのはガゼボの外にあるドールハウスの寮だが、僕たちがここに居る時は、ガゼボの中で一緒に食事をすることになるだろう。
その食事の場所は、ダッシャーが寝転んでもまだ余裕がある、大きなカウチソファの「ひじ掛け」の上。
幅広で滑らかなそのひじ掛けの上には、彼らのサイズにぴったりな小さなドールハウス用のダイニングセットが、可愛いミニチュアの世界のように設えられている。
夕べはまだ、クイーン・リリーと5人のブレーンたち、合わせて6人が1つのテーブルを囲んでいたその場所。
だけど今朝は、生まれたばかりの15人の小さな娘たちも加わったため、ひじ掛けの上には2つのテーブルが並んでいた。
1つは、リリーとブレーン5人が座る、少し大人びた雰囲気のテーブル。
そしてもう1つは、15人の幼女たちがみんなでワイワイと囲む、少し大きめの賑やかなテーブルだ。
「アンセル様! 昨日、取り寄せて頂いた食べられるお花。このお花畑にも咲いていました」
ガレット・ブールが籠いっぱいに詰まった小さな可愛らしいお花を嬉しそうに見せてくれる。
「エディブルフラワーって――」
僕はガレットの手元にある、みずみずしくてカラフルなお花を見つめながら、元の世界での知識を思い返していた。
エディブルフラワーは大きく分けて、栄養分を溶かした水だけで育てる「水耕栽培」と、ミネラル豊富な土で育てる「土耕栽培」の2つの方法で作られている。
特に水耕栽培は、部屋の中でLEDライトを使って虫や病気がつかないように管理できるから、「完全無農薬」で1年中綺麗なお花を収穫できるのが大きなメリットだ。土がつかないから、摘んでそのままケーキやお皿に飾れる手軽さもある。
ただ、一番大切なルールは「どんなお花でも食べていいわけじゃない」ということ。
見た目が綺麗でも、スズランやアジサイみたいに強い毒を持つお花もあるし、観賞用としてお店で売られているお花は、口に入れることを想定していない強い農薬が使われていることが多い。だから必ず「食用専門の種や苗」から、安全な肥料を使って育てられたものだけを食べることになっていた。
だけど、ここは神様の加護が満ち溢れる『常春の箱庭』。そして僕には、マナ・レクス様が与えてくれた便利なスキルがある。
「うん、ちょっと見せてね。……『鑑定』!」
僕はガレットの持つ籠に意識を集中させた。すると、お花畑の神聖な魔力で育ったお花たちの情報が、次々と浮かび上がる。
【ハニービオラ(食用可)】
紫、黄色、白の混ざった定番の愛らしい小花。味にクセがなく、レタスのように食べやすい。
【カレンデュラ(食用可)】
太陽のように鮮やかなオレンジ色の花びら。サクサクとした食感で、ほんのり蜜のような甘い香りがする。
【ミニフェアリーローズ(食用可)】
1/12スケールのみんなの手のひらサイズの小さな桃色のバラ。口に入れるとピーチのようなフルーティーな甘みが広がる。
【キンギョソウ(食用可)】
ぽってりとした金魚のような愛らしい形をしたピンクのお花。ほんのり上品な甘みがある。
「よし、ばっちり全部食べられるお花だ! 毒もないし、すごく甘くて美味しいみたいだよ」
「本当ですか! このお花畑は常に清らかな魔導の水が根元を満たす、究極の環境ですからね」
職人気質なガレットは、嬉しそうに目を細めてお花を取り出す。
紫や黄色のビオラの中に、カレンデュラの鮮やかなオレンジや、ミニバラの優しいピンクが加わることで、お花の形にも立体感が出て、華やかさが一気に跳ね上がった。
「よし、じゃあこのお花を使って、巣蜜のお皿を飾り付けよう!」
ローヤルゼリーをポタポタと白磁の可愛らしいお皿へと垂らすと、ガレットが誇らしげに爪楊枝を構えて進み出た。
昨日覚えたばかりの、とっておきの技を披露する時だ。
黄金色のローヤルゼリーが描く小さな丸の上を、ガレットが爪楊枝の先でサッと一筋の線を引いていく。
――すると、丸いしずくがキュッとくびれて、お皿の上にちっちゃなハート模様が次々と咲いていく。
「ふふ、アンセル様に昨日教わったハートの魔法、大成功です!」
ガレットが満面の笑みを浮かべる。白磁のお皿に並んだ愛らしいハートのデコレーションに、15人の女の子たちからも「わあ、可愛い!」と歓声が上がった。
濃厚な巣蜜を中央へと置く。その上から花粉を散らし、免疫を高めるプロポリスを1雫。
そのすぐ横に、摘んだばかりの小さなミニバラの花びらと、カラフルなビオラがそっと添えられた。
真っ白な磁器の上に広がる、黄金のハートと、色鮮やかな本物のお花たち。
まるで絵本の一ページをそのままミニチュアにしたような最高に可愛らしい朝食の一皿に、「わあ……っ!」「きれーい!」と、いっせいに黄色い大歓声が上がった。
「さあ、これで全員分の朝ご飯ができたよ」




