第百二十七話 お誕生会の準備が出来ました~あんバターの白コッペ~
冷ました白い生コッペパンの真ん中に、ナイフで深く切り込みを入れる。
まずはスプーンで、ツヤツヤとした粒あんをたっぷりと敷き詰めた。
「次は、この絞り出し袋に入れたホイップバターで仕上げだよ」
星型の口金をつけた絞り出し袋を構え、あんこの上に優しく添えた。きゅっと力を込めると、真っ白でふわふわのホイップバターが、美しいレースのように波を打ちながらあんこの上にこんもりと飾り付けられていく。
ミルク色の柔らかいパンの隙間から、小豆の深い赤と、波打つ純白のバターが覗く。
「うん! 完璧な出来栄え!」
思わず自画自賛の笑顔がこぼれる。
「わあ……! バターがまるで芸術品のようです。これならマナ・レクス様も間違いなくお喜びになりますね!」
興奮を隠せない声でガナッシュが拍手を送る。
「こっちの『こしあん』には、チーズを合わせるんだ。僕、チーズたい焼きみたいな、こしあんとチーズの組み合わせが大好きなんだよね」
「こしあんに、チーズ……!? 甘いあんこに乳製品の塩気を合わせるのですか。それはまた、想像しただけで涎が出そうな組み合わせですね、アンセル様」
ガナッシュが引き締まった口元を綻ばせ、興味深そうに僕の手元を凝視する。
切れ目を入れた白生コッペパンに、まずはなめらかなこしあんをたっぷりと敷き詰める。
「今回はこの『キリ』のクリームチーズを、1cm幅くらいの厚みでカットして挟むんだ」
「厚みのあるかたまりのまま並べるのですね。それはまたどうしてですか、アンセル様?」
首を傾げるガナッシュに、僕は包丁でテンポよくキリを切り分けながら微笑んだ。
「この方がね、食べたときにチーズの濃厚なコクと贅沢な塩気がダイレクトに味わえて、なめらかなこしあんの上品な甘さと最高のコンビになるんだよ。ほら、見て。黒いあんこの隣に、真っ白なチーズが並んでいるのって、断面も可愛いでしょ?」
「……本当ですね。それぞれの存在感が際立って、見た目にも美しい。アンセル様のアイデアには、驚かされてばかりです」
ガナッシュは眩しそうに目を細め、僕の手元をその脳裏に焼き付けようと真剣に見つめている。
厚切りチーズの上から、さらにあのふわふわホイップバターを贅沢に絞り出せば、これ以上ない「特製こしあんチーズバターコッペ」の完成だ。
手作りあんのコクと口溶けのいいホイップバター。完璧な「粒あんバターコッペ」と「こしあんチーズバターコッペ」が次々とトレイに並び、真夜中のキッチンは甘く香ばしい幸せな香りで完全に満たされた。
トレイの上からラップをふんわりと被せたら、アイテムボックスの時間経過無しボックスへと丁寧にしまった。
「よし! これで一通りのメニューは作れたかな」
5色に組分けされたクイーン・リリーの子供たち。そのブレーンはホワイトのガトー・ブラン、ゴールドのガレット・ブール、パープルのグラッセ・ミュール、ブルーのグラニテ・シトロン、レッドのガナッシュ・チェリー。
それぞれの側近となる15人の娘たち。
そして、その手を取り合って、共にこのお花畑を豊かな故郷へと育てていく45人の妹たち。
そのお誕生会の準備が整った。
「ガナッシュ、遅くまでお手伝いありがとうね。僕ももう休むから君もゆっくり休んでね」
「はい! アンセル様もお疲れ様でした。おやすみなさい」
ガナッシュはリリーのハウスにある自室ではなく、昨日生まれた妹たちのところへと飛んで行った。
本当に働き者だ。
でも、僕はもう限界だから休ませてもらおう。
準備が整った安心感からか、一気に睡魔が襲ってきた。ふらふらポスンとカウチソファへとなだれ込む。
(温かくて柔らかくて、気持ちいいな――)
◇◇
東の空がほんのりと白み始める頃、聖樹の室に作られた六角形の小部屋に完璧な「配置」が完了した。
ブランたち5人のブレーンが産まれた小部屋を含め、15の部屋にはそれぞれ、白く輝く美しい卵が3個ずつ、静かに整列している。
かつて空へ高く飛び立ち、命がけの飛行を終えて帰ってきたリリー。そのお腹の中には、未来の王国を築くための生命の素がたっぷりとしなやかに蓄えられていた。
しかし、帰還の際、ドラゴンの山、フェリスの噴火からこの街を救うために『くう』の張った強力な結界に弾かれて落下してしまう。その新女王蜂を見つけて、救い出してくれたのが、らんちゃんだった。
そうして始まったお花畑での暮らしの中で、リリーは4人の偉大な存在から溢れんばかりの恩恵を授かった。
くう様と崇める聖獣の守護魔法。あるじ様が与えてくれた異世界の特別なローヤルゼリー。そして創造神様の加護とファイヤドラゴンの庇護を持つベルちゃんと、らんちゃんが、あるじ様たちと共に地下から引き上げてくれた『守護の聖水』。
4人の温かい力に守られ、育てられ、限界を超えた進化を遂げたからこそ、リリーは体内にある命の素を、これほど純度が高く美しい「魔力の結晶」として紡ぎ出せるようになったのだ。
最初に生まれた5人のブレーンは、凛々しく麗しい男装の麗人。
次に生まれた15人の側近は、可憐に寄り添う娘たち。
そして今、15の小部屋にゆったりと並んだ45個の美しい卵たちは、すべて瑞々しい女の子たちの命だ。
この卵たちが孵化すれば、彼女たちもまた、憧れの眼差しをブレーンたちへと注ぐことになるのだろう。
聖獣の結界に守られた強固な部屋の中で、美しさを保ちながら、卵たちは静かに孵化の刻を待っている。
偉大な大仕事を終え、心地よい疲労感に包まれたリリーは、自室へと静かに帰っていった。
朝、目覚めた子供たちと可憐な少女たちが聖樹を覗き込んだとき、そこに広がっていたのは、4人の恩恵と魔水の輝きに満ちた、45個の未来の命の光だった――。




