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第百二十五話 準備は着々と進んでいます~リクエストのミルク寒天~

「よし、ベルちゃん、らんちゃん。2人が楽しみにしてた『ミルク寒天』を作るよ」


 2人に優しく語りかけると、ダッシャーの背中でうつらうつらしていたベルちゃんが「チ、リン……?」と小さく身体を揺らし、らんちゃんが長い耳をぴくっと動かした。眠い目をこすりながらも、大好きなミルクの気配に期待を寄せているようだ。


「ベルちゃん、らんちゃん、美味しいのを作っておくから安心して寝んねしても大丈夫だよ?」

「ん、きゅ」「ち、りん」

「アンセル様、ミルク寒天の工程も僕にしっかり見せてください」


 ルビーレッドのサスペンダーを胸元に覗かせたガナッシュが、真剣な眼差しで身を乗り出している。

 道具はまだ人間サイズのものしかないけど、彼はあくまで謙虚に、僕の手元を凝視し、その技術を脳裏に刻み込もうと必死だった。


「ガナッシュは頑張り屋さんだね」



 テーブルの上に牛乳と生クリーム、そして粉寒天を取り出した。


「寒天はね、しっかり沸騰させて溶かさないと固まらなくなっちゃうんだ。こうやって、少しの間グツグツさせるのがコツだよ」

「なるほど……。ただ温めるだけではダメなのですね。しっかりと記憶に刻みます」


 ガナッシュが頷く横で、僕は沸騰した寒天液に牛乳と生クリームをたっぷりと加えていく。優しく混ぜ合わせると、ガゼボの中に濃厚で甘いミルクの香りがふわりと広がった。



~【リッチなミルク寒天】~

■材料(4人分)

・かんてんクック 顆粒:4g(小さじすり切り4杯)

・水:200ml

・牛乳:150ml

・生クリーム:150ml

・練乳、はちみつ等:お好みの量

・トッピングのいちご等:お好みの量

■作り方

1.耐熱容器に牛乳と生クリームを合わせ、ラップをせずに600wのレンジで1分温める。

2.大きめの耐熱ボウルに、水とかんてんクック 顆粒を入れて軽く混ぜ、ラップをせずに600wのレンジで3分温める。

※沸騰すると泡が膨らむので、余裕のある大きなボウルを使ってくださいね。

3. 取り出してよく混ぜたら、①で温めておいた「牛乳+生クリーム」を少しずつ注ぎながら、手早くしっかりと混ぜ合わせる。

※冷たいまま入れたり、一気に入れると、寒天がダマになるので、少しずつ混ぜるのがツルンと仕上げるコツです。

4.お好みの容器に流し込み、粗熱が取れたら、冷蔵庫で1時間以上冷やし固める。

5.固まったら、食べやすい大きさにカットして盛り付け、いちごを添え、上から練乳(またははちみつ)をたっぷり回しかければ完成!



「よし、あとは型に流して冷蔵庫で冷やすだけ。起きたらツルンと冷たくなってるからね、ベルちゃん、らんちゃん」


 型いっぱいの白いミルクの海を見て、ベルちゃんは嬉しそうに「チリリン!」と揺れて、らんちゃんは「きゅう!」と満足げに鼻を鳴らして、今度こそダッシャーに寄り添って本格的に夢の世界へ旅立っていった。


「ふふ、カウチソファでおやすみ。ダッシャー、お願いね」


 ダッシャーは2人を起こさない様にふわりと浮かせると、寝転ぶ胸の中へと抱え込んで、大事そうに添い寝をした。



「さあ、次はスコーンを焼こう。スコーンはカステラやマフィンとは違って、とにかく『こねない』のが一番のポイントなんだ」


 ボウルに小麦粉とベーキングパウダー、そして冷え冷えのバターを投入した。


「こねない……。練り上げてはいけないのですね?」

「バターの冷たい粒を残すように、粉の中で指先を使ってサラサラの砂みたいにすり潰していくんだよ。こうすると、焼き上がったときにサクサクの層ができるんだ」


 手早く、かつ優しく粉とバターを馴染ませていく。そのリズミカルな動きを、ガナッシュは一瞬も聞き逃さないと言わんばかりに食い入るように見つめている。

 青年となり、料理への情熱が一層高まっている彼は、僕の「異世界の技術」のすべてが新鮮で、そして尊敬の対象でたまらない様子だ。

 冷たい牛乳をさっと回し入れ、生地をカードでさっくりとまとめたら、包丁でざっくりと三角形に切り分ける。


「これをダッシャー特製の【魔導一体(グランド)オーブン】に入れて……よし、あとは焼き上がりを待つだけだね」


 数分後、オーブンからバターの香ばしい、暴力的なまでの良い香りが漂い始めた。

 チーン、と軽い音が響き、扉を開けると、そこには綺麗な割れ目がピシッと入った、黄金色のスコーンがふっくらと焼き上がっていた。


「見事な焼き上がりですね、アンセル様……! この素晴らしい香り、これがスコーンですか……!」


 ガナッシュが感嘆の吐息を漏らし、可愛らしい笑みを浮かべる。

 真夜中の静かなキッチンで、焼き上がったカステラ、マフィン、シェル型マドレーヌ、冷えゆくミルク寒天、そして香ばしいスコーンがずらりと並んでいく。今日のお誕生会は、きっと最高に賑やかで、そしてこの上なく甘い幸せに包まれるに違いない。


 僕は額の汗を小さく拭い、愛おしい家族たちの寝顔を見つめながら、サンドイッチの準備へと手を伸ばした。


 薄切り食パンの片面にバターを塗って、もう片面にマヨネーズ。

 スライスチーズとハムと少し厚めの斜め切りしたきゅうりをサンドしたら、ラップで少し強めに包んでアイテムボックスの野菜室へポン。


 熱湯から8分茹でた黄身が固まり切る前のゆで卵に、塩コショウを振ったらマヨネーズで和える。洗って水けをふいたレタスと一緒にクロワッサンにサンドしたら、お皿に並べてまとめてラップで包んでこれも野菜室へポン。


 玉ねぎのみじん切りとスープを切ったツナ缶を塩コショウとマヨネーズで和えたら、グリーンリーフと一緒にパターロールに挟んで、これもお皿に乗せてラップで包んで野菜室へ。


 野菜室へポンポン、とサンドイッチたちを収めたら、休むことなく次の作業へと取り掛かった。今夜のお茶会をさらに華やかに彩るための、「白生コッペパン」のクッキングだ。


「よし、ガナッシュ。次は焼き色をつけずに、しっとり白く焼き上げるコッペパンだよ」

「はい、アンセル様! 白いパンですか……でも初めてのことばかりで、もう頭がパンクしちゃいそうです」


 身体を少し屈めながら、ガナッシュ・チェリーが熱心に僕の手元を覗き込む。


「一度に全部覚えるのは無理だから、今は見ているだけで良いんじゃないかな」

「はい! 早く僕も作ってみたいです!!」

「うん。それならガナッシュサイズの道具が必要だね。後でダッシャーに相談してみようか」

「はい!!」


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