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第百十九話 15人の女の子が産まれました~初乳はやっぱりローヤルゼリー~

 マナ・レクス様のホログラムが消え、嬉しそうな「ホーッホホッホォ」の声だけがガゼボの中にこだました。それが消えると再び賑やかな空気が戻ってきた。


「さあ、みんな。今度こそ本当に、お腹いっぱい食べよう!」

「「「おーっ!!」」」


「やはりお主の料理は最高だな! ……む、このトーストも美味そうな香りがするぞ!」


 ダッシャーがペコペコのお腹にたっぷりとお肉を流し込み、口の周りを濃厚なカルボナーラソースまみれにしながら、大満足の笑みを浮かべた。


「ふぬ? 気のせいか!? 今朝のハニートーストも美味かったが……これは、歯応えからしてまるで別物ではないか!」

「ふふ、気付いちゃった? ダッシャー。やっぱり、君が切り出してくれたこの【星青の天盤(溶岩プレート)・ゼロ】のおかげだね」


 僕も一切れ口に運び、その驚異的な食感の違いに思わず笑みがこぼれてしまった。


 これまでに使っていたキャンプ用の鉄板は、金属特有の強い熱でパンの表面をダイレクトに素早く焼き上げる。そのため、外側が「カリカリ・サクサク」とスナックのように小気味よく、香ばしさがガツンと前に出る、ワイルドで美味しいトーストに仕上がっていた。


 けれど、この最上級の火山岩プレートはまったく次元が違った。


 160年前の噴火の魔力を蓄えた黒い岩肌は、【温冷の調律器(サーモ・クッカー)】の魔力を通すことで、石の芯から途方もない熱量の「遠赤外線」を放つ。これがパンの表面を一瞬で優しくコーティングし、中の水分を一切外に逃がさないのだ。

 結果として、外側は薄いガラス細工のように繊細な「サクッ……」とした軽い食感になり、内側は水分を限界まで抱え込んだまま、まるで出来立ての生食パンのような「もちもち・フカフカ」の弾力を保っている。厚切りの生地を押すと、お布団のように押し返してくるほどの柔らかさだ。


 さらに決定的な違いは、仕上げに回しかけたおばあちゃんのはちみつの焦げ方にあった。

 普通の鉄板では、はちみつが金属の熱で急激に煮詰まり、油断すると焦げ付いて苦味が出てしまう。

 しかし【星青の天盤(溶岩プレート)・ゼロ】の上では、はちみつが岩の微細な気泡の上で優しく転がるように熱され、苦味を出すことなく極上の「キャラメル」のような甘く香ばしい香気へと昇華するのだ。


「ぬほっ! 外はサクサクだが、中は信じられんほどモチモチでジューシーだ! 溶けたバターとはちみつが、パンの奥の奥までジュワジュワに染み込んでおるぞ!」


 ダッシャーは自慢のプレートがもたらした奇跡の味に、これ以上ないほどのドヤ顔で満足そうに鼻先を振った。



 リリーは、その幸せな大騒ぎを愛おしそうに見つめながら、「異世界のローヤルゼリー」を大切に、お腹いっぱいになるまで食べた。


 ――やがて、賑やかな晩餐が一段落し、夜の静寂がお花畑を包み込んだ頃。

 お花畑の奥から、待望の音が響き渡った。


「コロコロ……ピキ……パキ」


「あるじ様、生まれるわ……っ!」


 リリーが愛おしそうに、けれど緊張した面持ちで立ち上がる。5人の子供たちも一斉に居住まいを正した。ついに、彼らの右腕となる15人の側近たちの孵化の時が訪れたのだ。


 聖樹の室に作られた大きな六角形の巣の中には、最高級のシルクやチュールレースを幾重にも重ねたかのように、内側から透き通るような5色の光を放つ15個の卵が、今か今かと身を震わせていた。


「よし、みんな。生まれてくるよ」


 パキッ、と小さく美しい音が響き、パールホワイトの卵から最初の子供が顔を出した。


「……ん……っ」


 パキッ、パキパキッ――


 シルクの輝きを放つ卵から、ちっちゃな子供たちが次々と顔を出す。


「リリー、僕がとりあげても良いかい?」

「えぇ、お願いするわ。あるじ様」


 僕は生まれたそばから、壊れ物を扱うようにそのちっちゃな体をそっとすくい上げ、取り寄せた色別のふわふわなハンカチのおくるみで、優しく丁寧に包み込んでいった。


 生まれたばかりの15人の赤ちゃんは、人間の親指くらいの、本当にちっちゃな妖精さんたちだ。

 彼女たちをそれぞれ5色の寮へと運び、用意してあった小さなベッドへ優しく寝かせる。ベッドにちんまりと並んだ赤ちゃんたちは、「きゅぅ……」「あうー」と小さな可愛い声を響かせていた。


 そこへクイーン・リリーがふわりと舞い降り、優しく見守るように聖なる祝福の言葉を授けた。


「生まれてきてくれてありがとう、私の愛しい子供たち。あなたたちは、この群れの未来を照らす、かけがえのない光の種です。ガトーの知性を支え、正義の天秤を共にする白き翼たちよ。ガレットの誠実を追い、豊かな大地を慈しむ金色の翼たちよ。グラッセの叡智に倣い、夜の静寂を見通す深紫の翼たちよ。グラニテの勇気を守り、忠誠の盾となる水色の翼たちよ。そして、ガナッシュの情熱を灯し、世界を笑顔で満たす赤き翼たちよ。恐れることはなくてよ。あなたたちの進む道には、いつも偉大なるあるじ様の優しき光が満ちているわ。その小さな羽で、誇り高き風を巻き起こしなさい」


 リリーの唇から零れた金の光の粒子が、子供たちの額へと吸い込まれていく。その神聖な儀式を終えたあと、いよいよ初乳の時間だ。



「この子達にも僕の手から初乳(ローヤルゼリー)を与えても良いかな?」


 僕がリリーに訪ねると、とても嬉しそうな顔で「もちろんよ。お願いするわ」と返事をくれた。


 リリーの冷蔵庫からローヤルゼリーと、アイテムボックスからベルちゃんの注射器を取り出した。

 かつてベルちゃんが生まれたばかりの頃に使い、ガトーたち5人の兄弟の初乳にも使った、思い出の小さな注射器だ。



「『聖光除菌(ホーリー・レイ)』!」


 僕の指先から薄紫を帯びた白い光がシュバッ! と放たれた。


 ――シュワァァァ……バチバチッ!


「よし! 除菌完了」



「リリー、それじゃあ順番にあげていくね」

「あるじ様。この子たちにも、特別な光を宿してあげて欲しいわ」


 僕はベッドから一人ずつ、壊れそうなほど小さな子供をハンカチごとそっと両手で抱きかかえる。

 そして注射器の先へ、「異世界のローヤルゼリー」を少しだけ吸い上げた。


 ちっちゃな赤ちゃんの口元へ、注射器の先をそっと近づけてピストンを優しく押し下げる。

 黄金色の甘い蜜が唇に触れた瞬間、赤ちゃんは丸い目をパチッと開け、ちっちゃな喉を「ピコ、ピコ」と健気に鳴らして美味しそうにゴクゴクと飲み干していった。


 異世界の高火力なローヤルゼリーの魔力が体に染み渡ると、子供たちの小さな羽が喜びで「ぷるるるっ」と一斉に震え、体からキラキラとした進化の光の粒子が零れ落ちる。

 僕の手で丁寧に初乳を与え終えると、待機していたガトーたちへそっと手渡していく。


 彼らはまるで壊れ物を扱うかのように、それは大事そうに小さな両手で赤ちゃんたちを抱きかかえた。お腹いっぱいになった子供たちは、とろとろに甘えたような寝顔を見せながら、それぞれのカラーのベッドの上ですやすやと深い眠りへと落ちていった。


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