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第百十七話 チキンが焼き上がりご飯の時間です~光の天蓋ガゼボはレストラン~

「ピー、ピー、ピー」


 心地よい電子音が響き渡った。ガナッシュとらんちゃんが力を合わせてスイッチを押してくれたオーブンの調理が、完了したのだ。


 ミトンをはめてオーブンの扉を開けると、中からじゅわじゅわと猛烈な勢いで爆ぜる油の音と共に、粒マスタードのツンとした刺激、醤油の香ばしさ、そしてはちみつの濃厚な甘みが混ざり合った最高の香気があふれ出した。

 天板の上には、皮目が黄金色にパリッと焼き上がり、極上の照りをまとったハニーマスタードチキンが鎮座している。


「焼き立てで凄く熱いからね。切り分けは僕がやるよ」


 ジューシーな鶏もも肉にナイフを入れると、サクッと小気味いい音がして、中から透明な肉汁が溢れ出す。1/12スケールの彼らが一口で食べられるよう、サイコロ状の小さなサイズにカットしていく。


「アンセル様、お肉の盛り付けは、俺にやらせていただけないでしょうか」


 パタパタと歩み出て一礼したのは、ゴールドのガレット・ブールだ。誠実で温厚な職人気質の彼は、僕が渡した先端に薔薇の絵柄が施されたシュガートングを、両手で構えてやる気満々だった。


「お、ガレット。頼めるかい? この可愛い白磁のお皿に並べていってくれるかな」

「はい、お任せください」


 ガレットは小さな羽を優しく羽ばたかせてホバリングすると、僕がカットしたチキンを一切れずつ、じつに手際よく、かつ見た目のバランスを計算しながら均等にお皿へと並べていく。配置の正確さと丁寧さはさすが未来の農業指揮官だった。


 その時、テーブルの隙間からダッシャーが顔を覗かせた。


「森で作っていた、あの美味そうなパスタはどうしたのだ?」

「よく覚えてたね。もちろん、ちゃんと【時間経過なしボックス】にしまってあるから熱々だよ」


 アイテムボックスの中から、作りたての熱気と、香ばしいソフトサラミ、そして濃厚なチーズと卵黄の香りをまとった山盛りのカルボナーラを取り出した。


「アンセル様、そのパスタというお料理、とっても美味しそうです! 僕たちも食べてみたいです!」


 ガナッシュが目を輝かせ、隣に並び立ったガトー・ブランも興味深そうに大皿を見上げている。


「君たちの主食は『ハニーバタートースト』だけど、このパスタもみんなで食べようね。ただ、このままだと君たちには太くて長すぎるね」


 キッチンバサミを取り出して、ガトーたちの小さな白磁のお皿にカルボナーラを移しながら、一口サイズに短くチョキチョキとカットしていった。濃厚なソースが短いパスタの一本一本によく絡むよう、優しく馴染ませる。


 短く、可愛らしいショートパスタ風に生まれ変わったカルボナーラを見て、ガトーは深く感銘を受けたように胸に手を当てた。


「……素晴らしい配慮です、アンセル様。これならばソースの旨味を余すことなく、我らのサイズでも気品を保ったまま口に運ぶことができます」



 準備が終わる頃には、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

 今夜の食卓は、ダッシャーが建ててくれた極上のガゼボの中だ。


 壁のないオープンなガゼボの中に、僕はアイテムボックスから取り出したオーブンや【温冷の調律器(サーモ・クッカー)】を並べて調理をしていた。


 屋根の下で放たれる柔らかな光やオーブンのオレンジ色の灯りが、夕闇に沈むお花畑の中でガゼボの白い柱を幻想的に浮かび上がらせている。そこから溢れ出すバターやはちみつのたまらない香りは、まるで夜の妖精のレストランのようだ。


「お待たせ、みんな。ご飯ができたよ」


 ガゼボの中央にある大きなテーブル。その上には、山盛りのカルボナーラ、ガレットが盛り付けたハニーマスタードチキン、そしてあの芸術的なハニーバタートーストがずらりと並べられた。


 ガゼボの内側をぐるりと囲むソファの中央には、ひときわ肉厚なクッションを湛えた、純白のカウチソファが、鎮座している。


「ベルちゃんとらんちゃんはここに座ってね」


 カウチソファのふかふかとした肉厚な座面を優しく叩くと、二人は嬉しそうに目を輝かせた。

 ベルちゃんはチリリンと弾みながらクッションの上へと飛び乗り、その体を「ぽふっ」と白い生地に沈み込ませる。らんちゃんもその隣に並び、ちょこんとお行儀よく腰掛けた。


 一方、ガゼボの外からパタパタと羽ばたいて集まってきたリリーやガトーたちは、そのカウチソファの幅広で頑丈な『ひじ掛け』の上へと降り立った。

 人間サイズの、特に巨大なこのひじ掛けは、彼らにとっては、まるでベルちゃんたちの座面を見下ろす高台のテラス席のようだった。


 僕がひじ掛けの上にトイ・サンタ(おもちゃ屋)で買いそろえた彼らの小さな食卓を設えてあげると、ガナッシュたちは特等席から「ベルちゃん、そこから僕たちのことよく見える?」と楽しそうに手を振っていた。


 巨大な円座ソファには、ダッシャーが大きな体を贅沢に横たえ、カルボナーラの前にスタンバイしている。夕闇に包まれたお花畑の中、神聖な光に満ちたガゼボで、僕たちの特別な晩餐会がいよいよ幕を開けようとしていた。


「お待たせ、みんな。ご飯ができたよ」


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