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第百十六話 ガナッシュのお手伝いは盛り付けです~遠赤外線効果は抜群~

 ベルちゃんとらんちゃん合作のキレイな切れ目の入った食パン、バターとはちみつをテーブルの上に置く。


「ブラン、まだ完成してないのに顔がすごくワクワクしてるよ! アンセル様のおばあちゃんのはちみつ、すっごく濃厚なんだよね!」


 横からガナッシュが楽しそうにパタパタと飛び回りながら突っ込むと、ブランはコホンと小さく咳払いをして、すっといつもの涼しげな表情に戻した。


「……当然です。アンセル様が我らのためにこれから紡がれる贅沢な一品です。一瞬たりとも見逃すわけにはいきません。ガレットたちにも、この栄誉ある調理の瞬間を見学するよう声をかけてまいりましょうか?」


「あはは、見学は嬉しいけど、みんなはお腹を空かせて待っていて。すぐにとびきり美味しいのを焼き上げるからね」

「はっ。それでは、食卓の準備を整えてお待ちしております」


 冷静を装いつつも、これからはちみつとバターがジュワジュワとプレートの上で踊るのを想像したのか、その純白の羽が嬉しさでかすかに「ぷるる」と震えているのを、僕は見逃さなかった。


「さぁ! 焼くよ」


 【温冷の調律器(サーモ・クッカー)】の3つのツマミを3回カチッと回して、半分戻す。強めの中火だ。

 ピンクとオレンジのお花が、ポンポンポンっと浮かび上がり、すっとプレートの中に消えていく。



 バターをたっぷり乗せた厚切り食パンを、アツアツのプレートの上に優しく滑り込ませた。


 ――ジュワァァァ……!


 溶岩プレートに触れた瞬間、バターが弾けて濃厚な香りが一気に立ち上った。

 通常の鉄板とは違い、火山岩の強力な遠赤外線はパンの水分を一切逃がさない。表面を一瞬でサクッと焼き上げ、中は信じられないほど水分を含んだままモチモチに膨らんでいく。


「うわあぁ……っ! アンセル様、パンがふっくらと、お布団みたいに膨らんでいきます!」


 ガナッシュは熱いのも忘れて安全ガードのギリギリでホバリングしながら大興奮している。

 そこへ、香ばしい匂いに釣られたダッシャーがもの凄い勢いで火山岩プレートをのぞき込み、期待に満ちた目でプレートの上を見つめた。


「何だ。やはり焼肉ではないのか」

「さっきそう言ったじゃないか。でも今朝、僕のキャンプ用の鉄板で焼いたハニートーストと、この最高品質のプレートで焼いたものと、食べ比べたいと思わない?」


 僕が苦笑しながらフォローすると、ダッシャーは「むぅ……」と言いつつも、再びオーブンのチキンの方へと戻っていった。


 両面を香ばしく焼き上げたら、仕上げにおばあちゃんの濃厚なはちみつをトローリと回しかける。

 熱々のプレートの上でハチミツが少しだけ焦げて、キャラメルのような甘く香ばしい香りが一気に辺りを包み込んだ。



 白磁のお皿の上にラズベリーソースを、スプーンの背で鮮やかに走らせ、その上に、おばあちゃんの濃厚なはちみつを宝石の滴のように点々と配置する。

 爪楊枝ではちみつの上を「サァッ」となぞる。


「うわぁ! ハートがたくさん並んだよ」

「きゅきゅい」「可愛いの」


 すぐ横でホバリングしていたガナッシュが、パタパタと翼を激しく動かして歓声をあげた。目の前で可愛い模様が生み出される技に、丸い目をこれ以上ないほど輝かせている。

 そんなガナッシュの様子に微笑みながら、僕は手元の爪楊枝を彼へと差し出した。


「さぁ、やってごらん」

「えっ……! ぼ、僕がやってもいいんですか!?」


 ガナッシュは驚いて一瞬羽ばたきを止め、ふわりとテーブルに着地した。

 人間サイズの爪楊枝は、小さな彼にとってはまるで細めの仕込み杖や指揮棒のようだ。それを両手でぎゅっと握りしめ、ガナッシュはごくりと息を呑んだ。


「大丈夫、落ち着いて真ん中を一本の線でなぞるだけだよ。ほら、一緒にやろう」

「は、はい……っ。アンセル様、僕、頑張ります!」


 緊張で小さな肩を震わせながら、ガナッシュは僕が新しく落としたはちみつの滴の前に立った。

 両手でしっかりと爪楊枝を構え、息を止めて、その上を「サァッ」と真剣な目つきで引きなぞる。


 丸い黄金の滴が、次々とぷっくりとした可愛いハートの形へと姿を変えていった。


「できた……! アンセル様、見てください、僕にもハートが作れました!」


 パッと顔を輝かせたガナッシュは、爪楊枝を嬉しそうに掲げながら、僕の周りを何度もくるくると飛び回った。


「うん、すごく上手だよ、ガナッシュ。これで君も立派なデコレーション職人だね」

「はいっ! 僕、もっとたくさん練習して、アンセル様みたいに色々作れるようになります!」


 その様子を隣で見ていたガトー・ブランも、完璧なポーカーフェイスの裏で、弟の健気な成功に嬉しそうに目を細めていた。



 外はカリッ、中は極上にもちもちに焼いたハニーバタートーストを、少し斜めにカッティングして立体的に積み上げたら、その頂(いただき)には、アイスクリームを丸く盛り、更に生クリームをドレスの裾のように美しく絞り出して周囲をデコレーション。


 巣蜜を小さくカットして、エディブルフラワーと一緒にその上に散らした。


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