第百四話 みんなで特製極上牛丼を食べました~お馬さんもお昼ご飯~
テーブルに置かれた4つのおひつ。そこに入っているホカホカの白米はセルフサービスで食べ放題だ。そこから二手に分かれて進むと、僕とルシアンさんがお玉を持って盛り盛りお肉をスタンバイしている。
「では器を持っている人から、自分で好きなだけご飯をよそってください。こちらでお肉を盛り付けます。ルシアンさん、もう片方のお鍋をお願いしますね」
「おう、任せとけ。若い奴らは遠慮なく大盛りにしてやるからな!」
職員たちが一斉におひつの蓋を開けた瞬間、森の材木置き場に、驚きを孕んだ静寂が訪れる。
中にあったのは、見たこともないほど一粒一粒が輝き、雪のように真っ白な、炊きたてのホカホカご飯だった。
「……おい、これ、まさか『お米』か……?」
一人の王宮職員が、震える声でおひつを覗き込んだ。
この国において、お米は他国から極稀に持ち込まれるだけの超高級品だ。当然、一般の王宮職員たちにとっては、アンセルの賄いを食べたことがある幸運な数人を除けば、見るのも食べるのもこれが人生初だった。
今は朝から中央広場で炊き出しを提供しているため、出勤時に立ち寄って食べることは可能になったが、それでもこの「真っ白なホカホカの白米」を自分の手で好きなだけよそっていいという現実に、男たちは完全に圧倒されていた。
「うおおお! 本当にこれを山盛りにしていいのか!?」
「よし、俺はこれでもかと高く積み上げてやる!」
「ご飯をたくさんよそいすぎると、お肉が乗せられませんよ!」
雑貨屋で買い占めた特大どんぶりやマイ木椀に、夢中で白米をよそい、大鍋の前に立つ僕とルシアンさんの前へと列がスライドしていく。
「はい、次の方! 器を前に出してね」
「ほらお前! 白米の山がまだ低いぞ! 肉の重みで潰れるくらい盛ってやっから器を出せ!」
【特製極上牛丼】
甘辛いタレの香りが食欲をそそる。山盛りの白いご飯の上へ、飴色の玉ねぎと極上の牛肉がどっさりと豪快に雪崩れ込んでいった。
その頂点にちょこんと載せられた鮮やかな紅ショウガが、未知の料理を美しく彩り、ピリッとした程よい辛みで全体の味をきゅっと引き締めてくれる。
「はい、セオドア王、シアンさん。お熱いうちにどうぞ!」
二人には僕の手持ちの丼とスプーンで提供する。
「馳走になる」「いただきます」
スプーンで大盛りのお肉をご飯ごと口に運んだ瞬間、セオドア王の目がこれ以上ないほど見開かれた。
「――っ!!! 美味い……! この艶、この甘み……。それに、濃密なタレの奥からバイソンの極上の脂が溶け出し、お米と完璧に絡み合って口の中でとろけていくぞ……!」
「ふふ、ちょっとお行儀の悪い食べ方になっちゃいますけど……それを許せちゃうくらい、スプーンが止まらなくなる美味しさでしょ?」
「えぇ、えぇ、アンセル様。この森の清々しい空間と相まって、この上ない美味しさですよ! これこそ、是非トトに教えてください!!」
セオドア王もシアンさんも満足してくれて一安心だ。『汁だくのご飯なんて下品だ!』なんて言われたら困っちゃうとこだった。
この「炊きたての純白の米」に「濃厚な甘辛い肉の旨味とタレ」をぶっかけ、スプーンで豪快に掻き込む『ぎゅうどん』という料理の爆発的な美味さは、王宮の男たちの常識を根底から覆した。
「う、美味すぎる……! 噛むたびにお米の甘みと肉の汁が溢れてくる!」
「熱々の肉を食った後に、この神獣様のジャグから出る瞬間冷却の麦茶が、喉に信じられないほど染み渡る……! くぅぅ、生き返るぜ!」
ブルルッヒヒーーン!!
馬車が1台戻って来た。馬を止めて、御者さんも行列に並ぶ。『ぎゅうどん』を美味しそうにガツガツと食べていた職員が、こちらを指して並ぶように教えてくれた様だ。
「御者さんもお疲れ様! これ、馬たちの休憩が終わったら食べさせてあげてくださいね!」
盛り付けの手を止めて、用意してあった岩塩と角砂糖を手渡しし、バケツに入れたカットバナナと、麻袋に詰めた乾燥牧草とアルファルファを渡した。
御者さんは麻袋の中身を確認しようと、袋を開けて驚いた。
「うおおっ! これ、袋を開けたらもの凄くいい香りがするぞ! 最上等の乾草だ! ありがとうございます。あいつらも喜びます」
御者さんが『ぎゅうどん』で自分の腹を満たし終える頃には、木陰で休んでいた馬たちの荒い息もすっかり収まり、ソワソワと鼻を鳴らし始めている。
「よし、お前たちもお昼ご飯だぞ」
まずは、岩塩と角砂糖を、自分の手のひらに載せて馬の口元へと差し出す。
――ハフッ、ジャリジャリ、ゴクン。
馬たちは御者の手のひらを大きな唇で優しく舐めながら、大好物の角砂糖の甘みと、汗で失われた塩分を補給する岩塩を美味そうに噛み砕いた。
「お疲れ様、午後も頼むな」
大事そうに相棒の首筋を撫でる。
続いて、バケツに入れられたカットバナナを差し出すと、馬たちは異界の果物を嬉しそうに食み、最後に袋から出された最高級の乾燥牧草とアルファルファを、モグモグと幸せそうに噛み締め始めた。
過酷な材木運びの合間のひととき。森の片隅は、人間たちの極上牛丼と、馬たちの贅沢なデザートタイムのおかげで、まるで平和な祝祭のような幸福な熱気に包まれていくのだった――。
「ンッヒ! ブッヒ!!」「ヒッヒヒーーン!」「ブルッルヒン!」
「ママぁ、お馬さんたちお腹空いたの」「チリリーン、ミルク飲むの」
セオドア王のフィデロとシアンさんのパドラス、ルシアンさんのガルバが、らんちゃんに通訳を頼んだ様だ。
「はいはい、ごめんね。今あげるよ」
お約束のシアンさんに、用意してあったバケツに入ったバナナを3つ渡した。
「また、私ですか?」
「盛り付け、代わってくれても良いぜ」
ルシアンさんが交代を名乗り出るが、シアンさんは盛り付けよりはお馬さんの相手が良い様だ。
「私はきっとキッチリお玉に乗せたくなるので、時間が掛かると皆さんに迷惑でしょうから、お馬さん達の相手をしますよ」
「では、お願いします。先にお水もあげてくださいね。井戸は森の奥ですよ」
トレントたちが道を開けてくれないと、木々の間を抜けて行かないといけない。それだとたどり着けないかも知れない。配膳の手を止めない様に、視線だけでそっと見つめていると、細~~い一本道が開いていた。
「トレントさんたち、ありがとう」
一声だけ掛けて、またお鍋に向かった。




