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第百三話 食器選びも食事もレディファーストが秘訣です~アンセル様は意外と人気~

 森のお昼ご飯の時間だ。 

 雑貨屋のおやじさんから買い占めてきた、形がバラバラの味わい深い木の器を指して説明をする。


「器を持っていない人は、この中から自分が食べる量に合わせた器を選んでくださいね」


 アンセルの言葉に、王宮職員たちはまるで宝探しでもするかのように目を輝かせた。



「よし、若い奴から先に並べ。しっかり食って午後も馬車に木材をドカンと積み込むんだぞ」


 ルシアンの言葉に、冒険者ギルドの若い職員たちは「うっす!」と威勢よく返事をした。彼らは普段から野外での作業に慣れているため、腰のベルトにスープ用のマイ木椀をしっかりとぶら下げている。


 だが、おひつから漏れ出す美味しそうな白米の香りと、大鍋から覗く甘辛い美味しそうな香りを漂わせる特製極上牛(ロックバイソン)の肉を見た瞬間、ギルドの若い連中は一斉に自分の器を見つめて硬直した。


「……なぁ、俺たちの器、小さくねぇか?」

「これ、スープを飲む用の小ぶりな碗だからさ……ご飯をふっくら盛った時点で、この山盛りの肉を載せるスペースが残らないぞ!?」


「あはは、お代わりは自由ですよ! たくさんご用意してありますので、好きなだけ食べてください」

「だってよ。良かったな!」


 ルシアンは、お腹を鳴らす部下たちの背中をポンと叩き、自分は配膳側へと回った。


(器とスプーン、足りるかな?)


 周りを見渡してみると、遠慮がちに遠巻きに様子を伺っている、数人の女性職員の姿が目に入った。

 彼女たちは全員が丸太を運ぶわけではないけれど、ダッシャーが切り出した木材をサイズ別に記録し、効率よく馬車に積み込めるように計算をしたり、救護や道具の管理でこの現場を裏から支えてくれている大切な仲間だ。


「ルシアンさん、女性職員の方々が遠慮して列に入れてないですよ」

「おい、お前ら王宮の男ども、ちょっと待て。食い意地が張りすぎて周りが見えてねえぞ」


 ルシアンがよく通る声で、お椀に群がろうとしていた王宮職員の男たちをピシャリと制した。


「お嬢さん方、先に好きなのを選んでくれ。こいつらみたいな大食漢が群がったら、好みの器がなくなっちまうからな」

「あ、すまない、腹が減りすぎてて……! どうぞ先に!」


 男たちは照れくさそうに頭を掻きながら、さっと道を開けて一歩後ろへと下がった。


 普段、王宮職員の女性たちが冒険者ギルドの人間と接する機会は少ない。荒くれ者のイメージがあったギルドの、しかもギルドマスターから不意にレディファーストな気遣いを受け、王宮の女性職員たちは少し頬を染めて顔を見合わせた。

 そんな空気を察したのか、ルシアンさんが照れくさそうに一言追加した。


「あぁ、気付いたのは俺じゃねぇ。アンセル様だ」


 女性職員たちは、更に頬を赤らめてアンセルを見つめた。


「ありがとうございます。それじゃあ、私はこの小ぶりなものを……」

「私は午後も力仕事を手伝うから、こっちの大きな深いやつにするわ!」


 「私は男並みにガッツリ食べる!」と、力自慢の男たちに負けない大きなお椀を堂々と掴み取る逞しい女性職員に、現場にドッと笑いが起きる。


 次に、冒険者ギルドの女性スタッフたちも前に進み出る。彼女たちはギルドで鍛えられているせいか、可愛いらしくもどこか凛としたキレイ系の美人で、普段ギルドの女性と接する機会のない王宮の男性職員たちは、思わずごくりと息を呑んで見惚れていた。


 お互いに普段は別世界にいる王宮とギルドの男女が、こうしてひとつの器の山を囲んで笑い合っている。そんな垣根を超えた新鮮な光景を、セオドア王とシアンさんも温かい眼差しで見守っていた。


「あの、アンセル様……私たちはコップも持っていないのですが……」


 器を胸に抱えた女性職員の一人が、少し申し訳なさそうに尋ねてくる。


「あ、カップ、足りなかったですね。すみません。女性のみなさんはこちらでもよろしいでしょうか?」


 差し出したのは、スマートな形をしたいくつかの水筒だった。表面には、異世界の職人には不可能なほど精密で綺麗な柄が焼き付けられている。


 景品として貰った、愛らしいわんこやにゃんこのキャラクターが描かれたもの。お洒落なボタニカル柄に、華やかな花柄。そして、無地のもの。

 元の世界で使っていた物には、小さな擦り傷があちらこちらについている。


「あの……新しく買ってもよかったんだけど、時間がなくて。僕が使ってたやつだからちょっと傷ついちゃってるんですけど、よかったら使ってください。これならフタができるから、仕事の合間に自分のペースで少しずつ飲めるし、持ち運びも楽かなって」


 少し照れくさそうに、申し訳なさそうに説明すると、みんなして一斉にぶんぶんと激しく首を横に振った。


「と、とんでもありません! アンセル様が大切に使われていた高貴な私物を譲っていただけるなんて……!」

「まあ……! なんて愛らしい模様でしょう」

「フタが閉まるのですか!? これなら、資料を広げている横に置いておいても、うっかり零して書類を濡らす心配がありませんわ!」


 アンセルの細やかな気配りに、女性たちはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに好みの柄の水筒を選んでいく。


 それを見たシアンが、あちゃあ、という顔でクスッと笑いながら、セオドア王に耳打ちした。


「相変わらずアンセル様の気配りには恐れ入りますね。自覚がないのが玉に瑕ですが、可愛くて気遣いもできて料理までできる男子など、他国を探してもそうそういないですよ。すでに街の女性陣は骨抜きだと聞きますが、これはまた王宮の女性陣の間でも大騒ぎになるでしょうね」


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