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第百二話 資源置き場は特別な領域になりました~森のお昼は牛(ロックバイソン)丼~

 森の材木置き場に配置された、冷え冷えの『魔道ジャグ』。

 その中身は、この世界の人々が口にしたこともないような、フルーツの香りがたっぷりと溶け込んだ甘いサングリア。そして、それ以上に甘く濃厚な、出来立ての冷やし甘酒。

 さらには、160年物の火山岩が育んだ井戸水によって、香ばしい麦の香りがひと際際立つ麦茶に、すっきりとしたレモンの酸味と爽やかなハーブの香りが、のど越しに嬉しいレモンハーブウォーターだ。


 セオドア王とシアンさんも交えて、和気あいあいとドリンクタイムを楽しんでいるのは……。冒険者ギルドの面々だった。


(そりゃ国王様だもんね。王宮職員は緊張もするか)


 さて、すっかりお昼の時間だから、急いでご飯の支度をしなくっちゃ。

 と言っても、すでに出来上がっているから盛り付けるだけなんだけどね。



 賑わいを見せる『ドリンクステーション』を背に、僕はコソコソと『意識共鳴(マインド・チャイム)』でアイテムボックスから、熱々状態で時間経過無しボックスに仕舞って有った、ほかほかご飯と牛煮がたっぷり入った大鍋を取り出した。


 さっき買った器はレイ・クリーンで洗浄して、テーブルの上に積み上げた状態だ。

 スプーンは僕の手持ちの陶器のワインクーラーに、まとめて入れておいた。


 フト、忙しい手を止めて森を見る。


「あれ? さっきまであった火山岩置き場への道が無くなってるね」


 街の雑貨屋へ行く前は、この先の火山岩置き場に広いスペースが開いていて、その近くの井戸水を使って『魔導ジャグ』の中身を作っていた。


「空から森の中に、開いた場所は見えなかったであろう?」


 ダッシャーに言われて、街から森に戻る空からの景色を思い出してみる。


 眼下に広がる広大な森。

 そこから見えた開けた場所は、この材木が集まっている場所だけで、それ以外はただただ波打つように美しく生い茂る、深い緑の絨毯だけだった。


「確かに空からは、この材木置き場しか見つけられなかったね。そう言えば、火山岩置き場への道も、あの時トレント達が作ってくれたよね?」

「貴重な資源置き場と分かった今、立ち入りを制限する、何よりも強固な生きた結界となったのだな」


 誰もその利用価値に気付かなかった、高純度の魔力を秘めた火山岩の廃棄場。

 この貴重な場所は今、僕たちが流した魔水によってトレント化した木々が守る特別な領域となった。


「でも、飲み物を作るのに、井戸にも行けなくなるのは、困るな……」


 僕が一歩その木々に近づくと、カサカサと葉を鳴らしながら、トレントたちが生き物のように滑らかに道を開けてくれた。

 それは、井戸へと続くまっすぐな一本道だった。


「わっ凄いな。必要な時だけ道を開けてくれるんだ。ありがとう」


 シアンさんが運んでくれるように手配してくれた、王宮で使っている水差しがいくつか届いていた。

 後でこれにドリンクの素を用意しておこう。水はトレントたちが作ってくれた『井戸への道』で汲める――よね? 僕じゃなくても……。



 ガタゴトと音を立てて、二頭立ての馬車がまた一台、森の材木置き場へと滑り込んできた。

 4台の馬車は、この森と、王宮近くにあるかつてのエール醸造所――今は木樽の組み立て場所となっている建物との間を、常に往復するピストン輸送の真っ只中だった。


 森の材木置き場には、荷積み担当の王宮職員十数人と冒険者ギルドの数人、そしてセオドア王とシアンさん、ルシアンさんが滞在していた。


「さあ、みんなお疲れ様! 順番に並んで! 今日のお昼は特別だよ。前にダッシャーが狩ってくれた、極上牛(ロックバイソン)のお肉を贅沢に使った『特製極上牛(ロックバイソン)丼』ですよ!」

「――な、何だとぉっ!?」


 お椀を手に並ぼうとしていた冒険者ギルドの職員が、ひっくり返りそうな声をあげた。

 『ぎゅうどん』なる料理がどんなものかはまったく想像がつかない。だが、その肉がどれほど希少かだけは、嫌というほど分かっていた。


 ロックバイソン。

 岩の皮膚を持つあの獰猛な魔獣の肉は、市場に出回れば金貨が飛び交うほどの超高級品だ。サシが細かく入ったその肉は、王宮の晩餐会でさえ滅多にお目にかかれない。それを、大鍋で信じられないほど大量に甘辛く煮込んであるのだ。



~【特製極上牛(ロックバイソン)丼】~

■材料(2人分)

・牛バラ薄切り肉:250g

・舞茸:1パック(約100g)

・玉ねぎ:1/2個

・温かいご飯:丼2杯分

◆ガツンと濃いめ・特製煮汁

・水:250ml

・醤油:大さじ3

・砂糖:大さじ2.5

・みりん:大さじ2

・料理酒:大さじ2

・顆粒和風だしの素:大さじ1/2

・鶏ガラスープの素:小さじ1/2

・おろしにんにく:ほんの少々

・おろし生姜:小さじ1/2

■下準備

1.舞茸は石づきを切り落とし手で細かくほぐし、お肉に舞茸を揉み込むようにして15分〜30分ほど室温に置いておく。

2.玉ねぎは1cm幅のくし形に切っておく。

■作り方

1.鍋に【特製煮汁】の材料をすべて入れ、中火にかける。

2.沸騰したら、玉ねぎ、お肉を揉み込んだ舞茸ごと鍋に投入する。

3.再び沸騰したらアクを丁寧に取り除き、落とし蓋(またはアルミホイル)をして、弱火で約15分、玉ねぎがクタクタになるまで煮込む。

4.味を濃く染み込ませるために、一度完全に冷ます。

5.食べる直前に再び温め直す。

 ※煮汁が小さくクツクツする程度でOK。グツグツ沸騰させない。

6.丼にご飯をよそい、お肉、玉ねぎ、舞茸をたっぷりのせたら完成。

  お好みで紅ショウガやチーズ、黒コショウをトッピングしても美味しいです。



 作業台のこちら側で、コソッとルシアンさんがダッシャーに聞いていた。


「ダッシャー様は、肉をあんなに使われちまって良いのかい?」

「あやつの作る物は、どんな肉よりも美味いのだ」

「美味しいの」「食べるの」

「君たちはさっき『お蕎麦のペペロンチーノ』を食べたばっかりでしょ? みなさんが先ね」


 前はあんなに「肉肉」言っていたダッシャーが、今では僕が作る物を何でも「美味しい美味しい」と食べてくれる。それだけで僕はとっても嬉しくて、次は何を作ろうか? 何が好きかな? と考えてしまう。

 ダッシャーは僕に甘いと思うけど、案外僕もダッシャーに甘いのかも知れない。


「ママぁ」「抱っこぉ」

「はいはい、ご飯もお鍋も熱いから気を付けてね」


 モチロン、僕は子供たちには甘々だ!



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