第百話 街の雑貨屋で食器を買いました~軽めのご飯はお蕎麦のペペロンチーノ~
冒険者ギルドのギルマス・ルシアンさんに、お手伝いに来てくれてる皆さんが、自分のカップや食器を持参しているのか聞いてもらっている。
森の給水所の飲み物の準備が終わって、フト気付いてしまったんだ。
冒険者ギルドの人たちや馬車の御者さんは、腰にマイカップや木皿をぶら下げて歩いてるけど……王宮職員の人たちって、自分の食器を持ち歩いてるのを見た気がしないけど、持ってるのかな?
お手伝いの皆さんのお昼ご飯に僕が用意したのは、がっつりお腹を満たせるスタミナ満点の「極上牛丼」だ。
タレが染みたご飯と牛肉をかっ込むには、深めの丼やボウルが絶対に要る。いつも王宮の食堂で食べている職員たちが、そんなマイ食器を持ち歩いているとは思えないよね。
きっと半数位は持っていないんだろうな……。
「よし! もし足りなかったら、街の道具屋さんに買い出しに行こう! ――でも、バルナスさんのお店、開いてるかな?」
お昼ご飯は後回しにして、とりあえず今は頑張ってくれたダッシャーのお腹をサクッと満たすのが先だ。
「皆さんのご飯にはまた少し早いから、先に何か軽く食べる?」
「待ってたぞ」「食べるの」「にゅさまなの」
「じゃあ、フライパン一つで出来る、ペペロンチーノね」
~【茹でそばでペペロンチーノ】~
■材料(2人分)
・茹でそば:2人前
・生ハム:8〜12枚
・にんにく:2片
・輪切り唐辛子:ふたつまみ(お好みで調整)
・オリーブオイル:大さじ4
・水:大さじ1(そばをほぐす用)
・めんつゆ(3倍濃縮):大さじ1〜1.5(※生ハムの塩気を見ながら調整)
・仕上げ用:粗挽き黒胡椒、レモン汁、または刻んだ大葉
■下準備
1.生ハムはひと口大にちぎる。
2.にんにくはスライスする。
■作り方
1.フライパンにオリーブオイル、にんにく、唐辛子を入れて弱火でじっくり加熱して、にんにくの香りをオイルに移す。
2.にんにくが色づいてきたら中火にし、そばを投入したらすぐに水を振りかけ、オイルと絡めるようにサッと炒め合わせる。
3.全体がほぐれたらめんつゆを回し入れ、ひと混ぜしたら火を止める。
4.ちぎった生ハムの半量をフライパンに加え、余熱でサッと和えてお皿に盛り付ける。
5.残りの生ハムをふんわりとトッピングし、お好みで黒胡椒、レモン汁を数滴たらして完成です!
フライパンでオイル・にんにく・唐辛子を香りが立つまで弱火で炒めたら、茹でそばを投入。
すぐにお水を入れたら優しくほぐして、めんつゆを入れたら火を止める。
生ハムの半分を余熱で和えたら、お皿に盛り付け、残りの生ハムをトッピングして完成!
「お待たせ。『おそばのペペロンチーノ』だよ。召し上がれ」
「おっほーーい。美味そうだ」
「美味しいの」「ちょっと辛いの」
「辛かったかぁ、ごめんごめん。じゃあベルちゃんには『にゅ様』ね」
食後のデザートのはずだった、練乳たっぷりのいちごでお口直しだ。
「らんちゃんも欲しいの」「我も食べるぞ」
「分かってまぁす」
みんなが『いちご練乳様』を食べてる間に、サクッと作った唐辛子抜きの『茹でそばペペロンチーノ』を、ベルちゃんに「あ~ん」していると、ルシアンさんがタタタッと息を切らせて戻ってきた。
愛馬のガルバは向こうで休憩中の様だ。
そりゃルシアンさんのパワーに付き合って居たら、ドリンクタイムも逃しちゃうもんね。
「アンセル様ー! 聞いて来たぜ! 冒険者たちはみんなカップと皿を持ってたけど、王宮職員は『えっ、お皿? 食堂にあるものしか使ったことがないですが……』って、完全に困り顔だったわ!」
「やっぱりそうですか。それなら急いでバルナスさんのお店に買いに行きますね!」
「道具屋のバルナスか? 店開いてるかなぁ」
「今日は商人ギルドの日ですかね?」
道具屋のバルナスさんは魔石コンロの整備をして貰った縁で、お店がお休みの時だけ商人ギルドで勉強するって言ってたけど、今日はお休みの日だろうか。
「確か、大通りに古い雑貨屋があったと思ったが、店開けてるかは分かんねぇな」
「あのシャッター街みたいな通りですね。行ってみます!」
「シャッター街ってなぁ何だ?」
返事もせずに僕たちはダッシャーに跨って、大急ぎで街の雑貨屋さんへと空を翔けた。
中央広場から王宮へ少し行ったところに、留め具が片方外れて、ブラブラしている看板のお店が見つかった。
その看板には、丸い編みカゴの中に、お椀と取っ手付きのカップが仲良く収まっている絵が描かれていた。カゴの隙間には、数本のスプーンとフォークが無造作に突っ込まれている。
「ここかな?」
半分閉まったドアから中を覗くと、そこは薄暗く、古びた木と埃の匂いが一瞬だけ鼻をくすぐった。
「これはこれは、アンセル様。……今日は何をお入り用で?」
「こんにちは。森の作業場でお昼ご飯を配りたいんですけど、王宮職員の皆さんは器を持っていなくて。少し深さのある【木製の器】って、いまお店にどんなものがありますか? あるだけ買いたいです」
「深めの木皿かい? あるにはあるが……うちみたいな店だ、大工の余り物の端材を近所の男たちが内職で削ったような、不揃いなやつばかりだよ。サイズも形もバラバラで、王宮の方々に使っていただくには些か不恰好だよ?」
「揃ってなくてもいいんですよ! ぜひ見せてください」
おじさんが店の奥からゴトゴトと運んできた大きな木箱の中には、確かに見事なまでにバラバラな木の器が入っていた。
ごつごつした樫の木のボウル:12個
厚みがあって、とにかく頑丈。少し重いけれど、男の人が片手でガシッと持つにはちょうどいいサイズ。
少し歪んだ楡の木の深皿:8個
削った跡がそのまま残っている、少し浅めで口の広いタイプ。つゆだくの牛丼をスプーンですくうには悪くない。
小ぶりな桑の木のお椀:5個
職人の手向けか、表面が少しだけ滑らかに磨かれている。小食な職員や、少しだけ食べたい人にぴったりなサイズ。
「……全部で25個だね。これっぽっちで足りるかい?」
「はい! 25個あればギリギリなんとかなります。これ全部でおいくらですか?」
おじさんは不揃いな器を指折り数え、しばらくうーんと唸ったあと、申し訳なさそうに指を3本立てた。
「……形も悪ければ、ずっと売れ残ってた物だ。普通なら銅貨30枚ってところだが……全部まとめて銅貨25枚でどうだい?」
「えっ、そんなに安くていいんですか?」
思わず聞き返した僕に、おじさんは嬉しそうに胸を叩いた。
「いいともさ! 私だってこないだ広場のキッチンで、アンセル様の美味しいご飯をたらふくご馳走になったんだ。いつも街の連中を助けてもらってるんだから、これくらい色をつけさせてくれなきゃバチが当たるよ」
「おじさん……ありがとうございます! 嬉しいです」
おじさんの「恩返し」の気持ちが温かくて、胸がじわっと熱くなる。
「あっ! 忘れてた! ご飯をすくって食べるのに良い大きさの、木のお匙もここにありますか?」
牛丼を食べるなら、お米をタレごとたっぷりすくえる大きな木匙が絶対に必要だ。
僕がそう尋ねると、おじさんも「そうさね、そいつを忘れたらいけないね」と、カウンターの下から小さなカゴを引っ張り出してきた。
カゴの中を覗くと、持ち手の長さも、丸みも一本ずつ違う、手作りの温かみがある木匙が詰まっていた。ごつい手の大工が作った様な太いものから、少しスマートに削られたものまでバラバラだ。
「これもお皿と同じでね、大工の若い衆が削り方の練習で作った不揃いなやつだよ。クヌギやブナの木を削ったもので、口当たりは悪くない。……これも30本ばかりあるが、お皿を買ってくれたんだ、全部で銅貨5枚でどうだい?」
「わぁ、丁度いい大きさです! ありがとうございます、これも一緒にいただきますね。じゃあ、さっきの器が銅貨25枚だから……合わせてちょうど銅貨30枚で銀貨3枚ですね」
おじさんは器たちと一緒に、大きな木匙も麻袋へと放り込んでくれた。
僕が財布代わりの麻袋から取り出した銀貨3枚を手渡すと、おじさんは「ありがとうよ」と、今までにないほど顔をほころばせた。
「今日の中央広場のお昼ご飯は『ハントンライス』と言う、ご飯の上にふわとろ卵が乗ったものですよ。皆さんで食べに行ってくださいね」
「おぉ! ありがたい。 アンセル様、神獣様。では気をつけてな!」
形も木肌の色もバラバラな木の器とスプーン。でも、どれも手作りの温かみがあって、木の質感が心地いい。
アイテムボックスへ仕舞うと急いで森へと戻った。
いつも『創造神様は甘々』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
6月5日の連載開始から数えて、本日ついに「100話目」を迎えることができました!
毎日朝5時(一度だけ間違えて即時投稿しちゃいました)にここまで更新を続けて来られたのは、ひとえにブクマや評価で応援してくださる皆様のおかげです。いつも本当に励みになっています。
神様やダッシャーからの甘々すぎる加護を背負ったアンセルですが、本人はベルちゃんやらんちゃんをデレデレに甘やかす日々を送っています。
今後も現代知識を活かした美味しい料理やお菓子、焼き立てパンのレシピも登場します!
温かい常春の国で、彼らの美味しくて甘々な日常はまだまだ続いていきます。
これからも日々のちょっとしたお供に、のんびりお付き合いいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
「腹が減ったぞ」「空いたの」「食べるの」「はいはい、ちょっと待ってね~」




