アマゾン川流域戦
2050年6月。アジア、北米、ヨーロッパの各戦域では継続的な戦闘が行われていたが、それまで中南米地域は比較的安定した状態を維持していた。
この状況が崩壊したのが同月である。
発端は、アメリカ合衆国による先制攻撃であった。ベネズエラおよびキューバに対し、宣戦布告を伴わない軍事行動が実施される。
当時、国際連合はすでに機能不全に陥っており、国際的な監視体制および制裁機構も実効性を失っていた。このため、当該行動に対する体系的な批判や抑止は確認されていない。
同時期、ブラジル国内では大規模な内乱が発生する。連合体側に与するか、同盟国側に接近するかを巡り、国家内部は急速に分裂した。
さらに、アルゼンチンとチリの間で資源利権を巡る武力衝突が発生する。これらの複合的要因により、中南米地域は短期間で戦域へと転化した。
なお、同時期にアフリカ大陸においても類似の不安定化が進行しているが、詳細は別記とする。
チリはアルゼンチンとの戦闘において優位を確保し、これを制圧したとされる。その後、同盟国側思想を有するブラジル東部勢力への支援を開始した。
この一連の軍事行動は極めて迅速に実施されたと記録されており、一部地域においては戦術的成功として評価する報告も存在する。
一方、アメリカの攻撃を受けたベネズエラ、コロンビア、キューバなどの国家は、戦域からの離脱を試みる過程で、チリおよびブラジル東部勢力と接触した。
この結果、中南米における勢力構造は再編される。
すなわち、アマゾン川流域を中心として、チリ、ブラジル東部、ベネズエラ、キューバ、コロンビアによる同盟国側の連携が形成された。
これにより、連合体側に近い立場を取っていたブラジル南部勢力は瓦解したとされる。
当該地域では、広範なゲリラ戦が展開された。密林地帯の地理的特性により、正規軍の優位性は大きく制限され、アメリカ軍は継続的な損耗を強いられた。
同時に、アメリカ本土に対する攻撃も激化する。過去の大戦において比較的被害の少なかった本土が直接攻撃を受けたことは、国際社会において象徴的な意味を持った。
これにより、連合体側の優位性に対する疑念が広がる。
アメリカはこれに対抗し、戦術核兵器の使用を拡大した。
加えて、独自開発とされる新型生物兵器――TZウイルスを投入する。
当該ウイルスは、ZAおよびAZAウイルスを上回る感染力および行動変異を引き起こす特性を有していたとされる。
これにより、アマゾン川流域では大規模な感染災害が発生した。
戦闘および兵器使用の影響は、環境にも深刻な変化をもたらした。核攻撃、無差別爆撃、地上侵攻の重複により、アマゾン熱帯雨林の広範な地域が消失したとする記録が存在する。
また、アメリカ南部の一部地域も壊滅的被害を受けたとされる。
これらの事象は、後に地球規模の環境変動を加速させた要因の一つとして言及されている。
戦闘の結果としては、形式上、アメリカを中心とする連合体側の勝利と分類される。
しかし、その代償は大きかった。
アメリカ軍は人的・物的損耗により戦力の再配置を余儀なくされ、中東およびアジア戦域から段階的撤退を開始する。
以後、アメリカは本土防衛を優先とする籠城戦略へ移行した。
この戦略転換は、他戦域に重大な影響を及ぼす。
特に中東地域においては、アメリカの後退に伴い、イラクおよびシリアを中心とした同盟国側勢力が急速に拡大した。
これにより、戦争全体の均衡は再び大きく揺らぐこととなる。




