第83話 瀬川悠里は愛されたい
ここもオマケ要素が強いです。
間が空いてしまい申し訳ありません。新学期に色々と行事や大会、テスト等が重なっており、執筆に時間を割くことが出来ませんでした。
また明日から数日修学旅行があるため、執筆をおやすみさせていただきます。
石崎翔太は、私の事を好きなんだと思う。私のことが好きなのは伝わってくるし、それ自体は嬉しい。
ただ、私から翔太への愛が大きすぎて、一方通行になっている気がしてならない。
元々私が翔太を好きになったのだから私の方が愛が大きくてもおかしくは無いのだが、翔太の熱と私の熱が全然違う気がするのだ。
要するに、翔太が私に対する執着が弱い気がするのだ。
私がナンパされても少し嫌そうな顔をするだけで、私のようにしつこく聞くことはない。私が少しおかしいのかもしれないが、恋人がナンパされまくるのはいい気分じゃないはずだ。私だって、そこそこモテるのに。
だから私は、少し翔太を試してみることにした。
☆
計画はこうだ。
翔太は酒にめっぽう弱い。飲んだら記憶を無くしてしまう。だから翔太の飲み物にバレないように少し酒を混ぜて、酒を飲んだことすら忘れてもらうのだ。
酔った状態の翔太と意思疎通はできるので、そこで今回の計画のメインとなる別れ話を切り出すのだ。
それがどんな結果になろうと、翌朝には記憶を無くしているだろうし、翔太にもバレずに済むだろう。
単純な計画だが、これが一番効果がある気がした。
「悠里、今日は家で食べるの?」
「そう。私が作るからちょっと待ってて」
「手伝うよ」
「いいの! 座ってて!」
「あ、そう……」
翔太は不思議そうに私を見たあと、大人しくリビングに戻って行き、スマホを弄り始めた。
よくよく考えた時、飲み物に酒を混ぜるのはバレる気がした。匂いとか、見た目とか、味とか。
だとしたら、食べ物に混ぜる、というよりは料理酒を使う食べ物を作った方が楽なことに気がついたのだ。
私は日本酒を使ってアサリの酒蒸しを作り、普通の人なら大して違和感が無い程度までアルコールを飛ばし、ちゃんと食べられるようにして翔太と食べる。
「ゆうり……」
「あれ、翔太どうしたの?」
「ゆうりー」
「うん、酔ってるみたいで良かった」
「何が?」
「なんでもないって」
翔太は、酔うと幼児退行すると言うのか、言動が単純で直球になり、割と私に対するデレてくる。
こういう翔太をもっと見たいのだが、本人が禁酒のようなことをしているのでほとんど見る機会はない。
「ねぇ翔太」
「んー? どうしたの?」
ソファで並んで座る翔太が、私にもたれかかってくる。ほんと、可愛くて仕方ない。
「私たち、別れよっか」
「え? え? なんでなんで……」
「翔太は私のこと好きじゃないでしょ? もっといい人を探しなよ」
「ゆうり、なんで……」
どんどん涙目になっていく翔太を見ていられなくて、私は翔太から目を逸らす。
心が痛くなる。愛されていることは分かるのだが、私はどれくらい愛されているのかを知りたい。ここでやめる訳にはいかなかった。
酒で酔っている時の翔太は、いつも以上に素直なのだ。
「私ばっか翔太を好きじゃ意味無いでしょ? 翔太は私のどこが好きなの? 全部とかは無しで」
「それ教えれば別れない? ねぇ、別れないよね。別れないよね?」
「私が満足したら別れないよ。翔太は私にそういう事言わないからね。簡単には満足しないよ」
翔太の素直な気持ちを知りたかった。私をどう思っているのか知りたかった。彼に愛されているという自信が欲しい。
面倒な女だとは思う。私が翔太に普通に聞けばいいのに、聞くことが出来ずこんな手を使っている。だとしても、私は翔太の気持ちを確かめたい。
翔太は過去を懐かしむように目を細め、少し間を開けて話し出す。
「俺がいちばん嬉しかったのは、やっぱり俺を『俺』として見てくれたことかな。『イケメン』じゃなくて『石崎翔太』として見てくれたことが最初だった。
それから少しずつ意識するようになって、明るくてコロコロ表情が変わったりとか、意外と頑張り屋だったりとか、新しく気づくことがある度に惹かれていったんだ」
「へぇ……」
「付き合ってからも、恥ずかしがりだったり奥手だったり、付き合ってないと見れない一面が見れて嬉しかった。悠里のことを知る度に、どんどん好きが膨らんでたんだよ?」
「そうなんだ……」
翔太ははにかみながら語りかけてきて、さっきまでとは違いハキハキとした口調に少し驚く。
それにしても、ここまででも驚きの連続だった。
翔太は結構初々しい感じだったから、付き合いたての時に私が好きなのかはよく分からなかった。口に出して私に愛を囁くようなことも無かったので、初めて知る情報に少し混乱している。
そんな私にはお構い無しに、翔太は話を続ける。
「今も毎日一緒に居れて嬉しいし、それだけでも幸せなんだよ。だから、別れるなんて言わないで。悠里が居ないと俺、もうやっていけないかもしれない」
「……」
「俺ね、悠里となら結婚してもいいと、いや結婚したいと思ってるんだよ? いつも素っ気なかったらごめん。本当は悠里のことが大好きだから。悠里が思ってる以上に大好きだから」
「そ、そうなんだ」
翔太が懇願するように瞳を潤ませて私の手を握ってくる。私は返事をする以外に何もすることが出来なかった。
「結婚したい」? 私も結婚するとしたら翔太だと思っていたが、翔太がそんな風に思ってくれているとは思わなかった。
翔太の言うように、私の想像以上に私を好きなようだった。
気を取り直して、翔太を安心させることにする。
「ありがとう。よく分かったよ。別れるなんて言わないから、安心して。私も翔太のこと大好き」
「よかったぁ……。もうこんな事言わないでね。安心したら眠くなってきちゃった」
「寝ていいよ。ほら」
「うん、ありがと」
私はまた酔っている時の口調に戻った翔太に、膝枕をすると言う意味で足を叩く。翔太はそこにコテンと倒れると、ものの一分で寝てしまった。
スースーと寝息を立てる翔太の頭を撫でながら、私はさっきのことを振り返る。
結婚、結婚か。そこまで考えてくれてるんだ。私はしっかり愛されているんだ。
そう思うと、自然と頬が緩んでしまう。だらしなく緩んだ頬を一度叩き、これからどうしようと考える。
「あんなこと言われて普通に振る舞えそうにないよぉ……」
どうせ翔太は明日には記憶を無くしているので、私だけ態度がおかしいというのも変だ。どうしよう。本当にどうしていいのか分からない。
私は結局何もいいアイデアが浮かばないまま、翔太をベッドに運んでそのベッドに一緒に入って寝た。
☆
翌日、朝起きて案の定記憶を無くした翔太に向かい、私はこう語りかける。
「翔太、結婚しようね。いつか」
「え?え?!」
「私待ってるからね。ふふっ」
「いやちょっ、悠里ー?!」
顔を赤くして困惑する翔太に私は満面の笑みを向ける。まだ分からなくてもいい。こっちの翔太が気づいていなくても、奥の奥にいる翔太はそのうち気づいてくれる。
私はただ、翔太の準備ができるのを待つだけだ。その時まで、私は待てる気がする。もう私は、愛されていないだなんて思っていない。
この時の私は、翔太が割とすぐにプロポーズしてくれるとは微塵も思っておらず、呑気に「3年後とかでもいいからプロポーズしてくれたらいいな」と思っていた。
読んでくださりありがとうございます。
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