第82話 捕まった石崎翔太
また少し空いてしまいました。この後に瀬川編を書いたら元幼馴染編です!
優希たちとは違う大学に進み、成り行きで、同じ大学に進学する瀬川悠里と同棲することになった。
付き合って約五年、大学三年生になった今でも熱が冷めるということは無く、優希達とは違ってまだ熱々といった感じだった。
個人的に言えば落ち着いていたいとも思うが、こうやって居られる期間も貴重だから、これはこれでいいと思う。
二十歳になり、飲酒ができるようになってから、何故だか悠里に結婚を迫られるようになった。俺は初めて飲んだときに少し飲んだだけで記憶が無かったので、あれから一滴も飲んでいない。
今日は、とある物を受け取りに出掛けるところだった。明日はクリスマスイブ。プレゼントを用意するためだ。
「翔太、どこ行くの?」
「秘密。すぐ分かるから」
「女?」
「違うって。ちょっと物を受け取ってくるだけだから」
悠里は、束縛が激しいという訳では無いにしろ、俺が女性と会うことをあまり良く思っていない。
俺がよくナンパをされていたからなのだろうが、俺が女性と会うことに警戒心を持っていた。
誰も彼もが俺に興味があるわけじゃない。そう言っているのだが全く聞き入れてくれなかった。俺が悠里をどれだけ愛しているのか伝わっていないような気もして、少し悲しくなる。
悠里のおでこに軽いキスを落とし、俺はプレゼントを受け取りに出かけた。
☆
家に戻るなり、悠里に身体中をくまなくチェックされる。
プレゼントは別に確認されないが、全身の匂いを嗅がれるのは恥ずかしい。
「……他の女の匂いがする」
「行った店に女性が多かっただけだって」
「行っただけで他の人の匂いがするとは思えない。何してたの? 本当はナンパされてたりとか」
「されてないよ。それより、ほら。お土産買ってきたから一緒に食べよ」
正確に言えばその店に行く途中で一度ナンパされたのだが、されたと言っても悠里は怒るので、言わないでおいた方がいい。
その店とその後に行った店に女性が多かったのは確かなのだ。
不満げな悠里を連れてリビングに向かい、お土産のケーキの入った箱を開ける。
「これって……駅前の人気のやつ?」
「そう。ちょうど売ってたから買ってきたんだ」
「ありがと! 食べていい?」
「いいよ」
機嫌の直った悠里と共にケーキを食べ、俺は特に何も勘づかれることなくこの一日を過ごすことが出来た。
☆
翌日。クリスマスイブということでデートに行こうかと思っていたのだが、悠里から家でゆっくりしたいとの要望があったため、急遽お家デート(つまりただの休日)ということになった。
昼間はゆっくりと過ごし、夜になってから二人だけでクリスマスパーティーをやった。
付き合ってから毎年恒例となっているクリスマスパーティー。二人だけなので量は少ないが、ローストビーフやチキン、ケーキなどのクリスマスっぽいものを用意して談笑しながら食べる。そして夜はお楽しみだ。
今までならパーティーが終わってからは少し休憩時間なのだが、俺は悠里を呼び止める。
「悠里、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの? 流石にまだするには早いでしょ?」
「話したいことがあるんだ。とても大切なことだ。立ったままでいいから聞いて欲しい」
「ふーん……分かった」
悠里は俺の方を向くと、後ろで手を組んだ状態で俺が話し出すのを待つ。俺は一度深呼吸をして、一言一言噛みしめるように話し始める。
「今までずっと、伝えるかどうか躊躇ってたんだ。俺が君の隣に立っていていいのかって」
「翔太しかいないよ」
「でも、ようやく決心がついた。悠里がいない人生は考えられないんだ。悠里のことを絶対幸せにするから、俺と結婚してください」
そう言って、悠里の前で片膝をついて跪き、後ろに隠していた結婚指輪を開ける。暫く、無言の時間が続いた。目を見開いて固まっている悠里と、それを見つめている俺。あまりにも悠里が何も言わないものだから、俺は結婚指輪の入った箱を閉じる。
「……あはは、ごめん、ごめんよ。早とちりだったか。気にしないで」
「ぇあっ、違う、違うの。まさか翔太から言ってもらえるとは思わなくて。嬉しくなかったわけじゃなくて、むしろ凄い嬉しいっていうか」
「いいよ。俺を励ましてくれてるの? 気にしてないからさ、大丈夫だって……」
悠里も結婚したいと仄めかすようなことを言うことがあったから、いいんじゃないかと浮かれていた。今時学生婚はそれなりにあることだから、行けるんじゃないかと思っていた。
ただそれは俺の早とちりだったようで、恥ずかしさと同時に悲しみを感じ、涙をこらえて悠里の前で座る。悠里と顔を合わせられなかった。
「止めちゃってごめん。もういいから……」
「なんで悪い方向に決めつけるの? そっちの方が早とちりだよ!」
「あっ、指輪……」
悠里に力なく掴んでいた指輪をとられ、俺は悠里を見つめる。悠里はおもむろに指輪を取り出すと、左手の薬指に嵌める。
ぴったりだったことに安堵しつつも、やはり内ではまだ悲しみのほうが勝っていた。
「私さ、結婚が嫌だなんて思ってないんだよ。ちょっと待ってて」
「あ、うん……」
「そんな浮かない顔しないでよ。翔太は私のことだと悲観的になりやすいんだから」
悠里はどこからか紙を取り出し、それを俺にビシッと突きつける。
「婚姻届。ずっと前から置いてあったの」
「え……?」
「やっぱり翔太の気持ちが大切だと思ったから翔太から言ってくれるのを待ってたの。それでも待ち切れなくなって、最近は少し話題に出したりとかしてたんだけど」
「えぇ……?」
「それでさっきは嬉しすぎて固まっちゃったの。この指輪は絶対に私のものだからね」
それじゃあ、俺はまだ断られてない? 悠里の言う通り、本当に早とちりだったのだろうか。
「俺と、結婚してくれるの?」
「もちろん。前に翔太が酔ったとき少し口にしてくれたんだけど、それ以降言わないからどうしようかと思ってたしね。私も翔太のこと世界で一番一番大好きだから。むしろ結婚してくださいってのはこっちのセリフかも」
「よかった……ありがとう」
「翔太、まだ早いけど、これからもよろしくね。絶対に離してなんてあげないんだから」
「ふふっ、それは楽しみだ」
さっきとは一転、幸せな気持ちでいっぱいになり、俺は悠里をギュッと抱きしめた。俺の早とちりで変な方向に行きそうになったが、結果オーライだ。
俺は悠里に捕まってしまったが、俺だって悠里を手放すつもりは毛頭ない。これからのことに期待や不安もあったが、俺の中で幸せな未来が描かれていた。
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